メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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6.紅い館

1.湖沿いの道

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 霧が深く立ち込めていた。視界を遮るのに十分すぎる霧はより一層警戒を強めさせる。決して暗くない太陽の光が遮られ浅く光っていた。目を凝らしても仲間しか見れないため、聴覚に集中することとなった。すると、ガラガラと馬車の走るような音が聞こえる。



「後ろから来ますね」



「ん?あぁ、そうだな」



 アレン達は動きを止め、端により後方を見つめる。まず馬の頭が見えた。何の変哲もない普通の馬だ。次にその馬の手綱を握る御者が姿を現した。霧の中を目を凝らして進もうとする険しい顔をしていたが、こちらに気付くと目を張り、表情が和らいだ。



「おや、これはこれは旅のお方。どうも」



 御者は柔和な笑みを浮かべ挨拶をしてくる。アレン達も笑みを作り挨拶し返す。



「申し訳ないですが、ヂドルへの道はこちらで合っておりますかね。何分この深い霧でございますからね、道に迷ってしまっていても分かりませんからね」



 御者は恥ずかしそうに頭を掻いている。正直な話、アレン達も迷っているのかどうかが分かっていない。



「合っていらっしゃると思いますよ。僕達もヂドルへ向かっておりますので。まぁ、僕達が道を間違えていなければですけど」



「はははは」



「はははは」



 アレンと御者が互いに笑い、スッと真顔に戻る。それを見ていたコストイラ達はギョッとする。乾いた笑いとその後の真顔に冷たい目でしか見られない。



「ルイン。何をしている」



 荷車の中から野太い声が聞こえてくる。



「我々の商品は鮮度も大事なのだ。早く馬車を出せ。あまり時間は残っていないぞ」



「申し訳ありません。では、私達はこの先にありますお屋敷に向かわせていただきます」



 御者は馬の尻に鞭を打ち、走らせる。アレン達は走り去るのを見送ると、アレンが頷いてぽつりと呟いた。



「休める場所を聞こうとしたのに行ってしまった」



「駄目じゃねェか」



 アレンは笑顔のままであるが、コストイラに後頭部を叩かれる。



「見送ってねェで呼び止めろよ」



 アレンの失態に叱責し、コストイラは馬車の車輪跡を追う。分かれ道に差し掛かり、コストイラ達は立ち止まる。どちらに車輪の跡が伸びているのか目を凝らしていると、叢から女性の上半身が現れる。隠された下半身が気になるが、声を掛けるところから始める。



「ど、どうかされましたか?」



『あうあー』



 絶対話しかけない方が良い類の相手だと思ったコストイラは、面倒そうに肩を竦め渋い顔をする。



 鈍感なアレンは怪我でもしているのかと思い、眼に魔力を集中させていく。アレンの眼はステータスを見ることが出来るが魔力が必要であり、常に発動していると魔力酔いをすぐに起こしてしまう。長くて1時間が限界だ。



 発動していれば気付けていただろう。緑の髪を扇のように広げているこの女性が魔物であると。アレンの眼にエキドナの文字を映した瞬間、エキドナはがばりと起き上がる。どこかに隠し持っていたのだろうカットラスを両手に装備し、蛇のような下半身を露出させ飛び掛かる。



 刃は鋏のように閉じていき、アレンの首を狩るとなる瞬間にアレンの体は急速に後方へ飛ばされる。髪の毛一本分の差でもって躱すことに成功する。襟を引かれたことで首が締まり、アレンは咳き込んでしまう。



 アレンと入れ替わるように前へ出て行くコストイラは過ぎていく刃を気に留めず、エキドナの顔を踏みつける。伸びる足に合わせて反る背は、無理な体勢のせいでエキドナの背骨は音を鳴らす。



『あぁああっ!』



 エキドナは体勢を戻すように右手のカットラスを振り下ろすが、コストイラは刀で往なし、姿勢を崩させる。体を立てようと顔を上げると、コストイラはそれに合わせて振り上げる。



 ゆっくりとエキドナの頭が落ちていく。



「不用心に近づくもんじゃねェな」



「……そうですね」



 唐突に攻撃に転じた相手に未だに恐怖を抱いているのか、アレンの声は震えていた。
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