96 / 426
5.無縁塚
29.禁術師の遺産を求めて
しおりを挟む
水場は洞窟の出口の合図だった。洞窟を抜けると花弁が舞っていた。何とも美しい光景だろうか。きっとこの空間の中で好きな人に告白すれば受け入れてもらえるだろう。それほどのポテンシャルを感じた。
「サクラの花弁だな」
「これがサクラですか」
コストイラが舞う花弁を1枚摑んで見定める。アレン達は初めて見たサクラに感動する。
「で、絶対あれの中だよな」
アシドは現実逃避を辞め、目の前のボロ家屋を見る。かつて訪れたはぐれ魔術師の根城にも似た雰囲気の屋敷だ。おそらくこのサクラを育てている者がいるだろう。アレン達は警戒しながら屋敷内に入っていく。
アレン達は驚愕した。
全てが中途半端な状態で止まっていた。つきっぱなしの灯り、テーブルの上に置かれた食べかけの料理、半開きになったドア。
先程までそこにいたであろう住人はおそらくドアの向こうのどこかにいるのだろう。いつ戻ってくるのか分からない。勝手に入っている癖にそんなことを考えていた。誰も違和感を持っていなかった。
さらに警戒を強め、いつでも武器を振るえるように準備しておく。アレンはテーブルの上にある本を手に取る。
「サクラの品種名鑑。サクラってそんなに種類があるのか」
「その通りっ」
ぼんやりと呟いたアレンの言葉に反応する者がいた。淡い緑色のローブを着た、白い鬚を蓄えた男だ。このサクラへの異常な執着が感じ取れる心、間違いなくこの男がこの地に咲くサクラの育て親。
「サクラにはたくさんの種類が存在する。ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、エドヒガン、チョウジザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、ミヤマザクラ、クマノザクラまだまだあるが、さすがに自重しよう。一口にサクラといっても大きな品種や中木のものもあって、全部で数百種はある。そういえば、君達は誰だ?」
男が首を傾けたことでローブのフードからさらりと白髪が零れた。
どう説明したらいいものか。あなたが怪しいので調査に来ましたなどと正直に話せば不機嫌になるのは確実。最悪の場合、敵対だろう。むしろそっちの方が確率は高い気がする。
「サクラを、サクラを見に来たんだ」
コストイラの返答に男は顔を綻ばせる。
「そうかそうか。君もサクラが好きなのか」
「あぁ、親父が育てようとしていた。オレは長年見れていなかったから、久しぶりに見たかったんだ」
「ほう。君は東方の出身なのか?」
「いや、親父はそうだが、オレは違う」
「ふむ。どんな事情があろうとサクラ好きに悪いやつはいない。君達にサクラを見せてあげよう。こっちだ。さっきもサクラのことが気になって食事を途中にしてしまったが、君達の相手をしていたら食欲を抑え込むほどに興奮してしまった」
男はドアを全開にして誘い込む。アレンが行くかどうか悩もうとすると、コストイラは何の躊躇なしについていってしまう。追いかけようとついていくと、その中庭には立派なサクラの木があった。灰褐色の木の幹はエンドローゼのウエストの4倍はあろうかという太さだ。そこに淡い紅色の花がたくさん咲いていた。満開といってもいいだろう。
「す、凄い」
「これがサクラ」
エンドローゼとレイドが感動に声を漏らすと、男は気分を良くし、再び饒舌に語り始める。
「これは特にヤマザクラという品種だ。私の一番好きな品種だ。東方では一番代表的な品種なようだ。私は東方に住む河童という種族に譲り受けたのだ。古くから親しまれており、文学や歌の題材として取り上げられてきた由緒ある品種だ。だが、これはまだ完成していない」
男は拳を握り、わなわなと振るわせたかと思うと、フッと力を抜き、肩を落とす。
「こんなに綺麗なのにまだ完成じゃないのか」
「ああ。あそこだ。花がつぼんだままの状態だな」
レイドが眉根を寄せる中、コストイラはすぐに看破してみせる。
「さすがだ。そう、あと一歩なのだ。あと一歩で完成する。しかし、もう葉が増え始めた。もうこのサクラには時間がない」
急にテンションが下がりシリアスの雰囲気で話し始める。その似合わないオーラに包まれていく男を不審に思いつつ、その言動を見守る。
「だから、私はこのサクラを創った」
男が両腕を広げるとサクラの木は呼応するように根が地上に出てきた。
「サクラの花弁だな」
「これがサクラですか」
コストイラが舞う花弁を1枚摑んで見定める。アレン達は初めて見たサクラに感動する。
「で、絶対あれの中だよな」
アシドは現実逃避を辞め、目の前のボロ家屋を見る。かつて訪れたはぐれ魔術師の根城にも似た雰囲気の屋敷だ。おそらくこのサクラを育てている者がいるだろう。アレン達は警戒しながら屋敷内に入っていく。
アレン達は驚愕した。
全てが中途半端な状態で止まっていた。つきっぱなしの灯り、テーブルの上に置かれた食べかけの料理、半開きになったドア。
先程までそこにいたであろう住人はおそらくドアの向こうのどこかにいるのだろう。いつ戻ってくるのか分からない。勝手に入っている癖にそんなことを考えていた。誰も違和感を持っていなかった。
さらに警戒を強め、いつでも武器を振るえるように準備しておく。アレンはテーブルの上にある本を手に取る。
「サクラの品種名鑑。サクラってそんなに種類があるのか」
「その通りっ」
ぼんやりと呟いたアレンの言葉に反応する者がいた。淡い緑色のローブを着た、白い鬚を蓄えた男だ。このサクラへの異常な執着が感じ取れる心、間違いなくこの男がこの地に咲くサクラの育て親。
「サクラにはたくさんの種類が存在する。ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、エドヒガン、チョウジザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、ミヤマザクラ、クマノザクラまだまだあるが、さすがに自重しよう。一口にサクラといっても大きな品種や中木のものもあって、全部で数百種はある。そういえば、君達は誰だ?」
男が首を傾けたことでローブのフードからさらりと白髪が零れた。
どう説明したらいいものか。あなたが怪しいので調査に来ましたなどと正直に話せば不機嫌になるのは確実。最悪の場合、敵対だろう。むしろそっちの方が確率は高い気がする。
「サクラを、サクラを見に来たんだ」
コストイラの返答に男は顔を綻ばせる。
「そうかそうか。君もサクラが好きなのか」
「あぁ、親父が育てようとしていた。オレは長年見れていなかったから、久しぶりに見たかったんだ」
「ほう。君は東方の出身なのか?」
「いや、親父はそうだが、オレは違う」
「ふむ。どんな事情があろうとサクラ好きに悪いやつはいない。君達にサクラを見せてあげよう。こっちだ。さっきもサクラのことが気になって食事を途中にしてしまったが、君達の相手をしていたら食欲を抑え込むほどに興奮してしまった」
男はドアを全開にして誘い込む。アレンが行くかどうか悩もうとすると、コストイラは何の躊躇なしについていってしまう。追いかけようとついていくと、その中庭には立派なサクラの木があった。灰褐色の木の幹はエンドローゼのウエストの4倍はあろうかという太さだ。そこに淡い紅色の花がたくさん咲いていた。満開といってもいいだろう。
「す、凄い」
「これがサクラ」
エンドローゼとレイドが感動に声を漏らすと、男は気分を良くし、再び饒舌に語り始める。
「これは特にヤマザクラという品種だ。私の一番好きな品種だ。東方では一番代表的な品種なようだ。私は東方に住む河童という種族に譲り受けたのだ。古くから親しまれており、文学や歌の題材として取り上げられてきた由緒ある品種だ。だが、これはまだ完成していない」
男は拳を握り、わなわなと振るわせたかと思うと、フッと力を抜き、肩を落とす。
「こんなに綺麗なのにまだ完成じゃないのか」
「ああ。あそこだ。花がつぼんだままの状態だな」
レイドが眉根を寄せる中、コストイラはすぐに看破してみせる。
「さすがだ。そう、あと一歩なのだ。あと一歩で完成する。しかし、もう葉が増え始めた。もうこのサクラには時間がない」
急にテンションが下がりシリアスの雰囲気で話し始める。その似合わないオーラに包まれていく男を不審に思いつつ、その言動を見守る。
「だから、私はこのサクラを創った」
男が両腕を広げるとサクラの木は呼応するように根が地上に出てきた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる