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5.無縁塚

27.陽の届かない森

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 アレンはギルドに来ていた。



 あの一件からコストイラの口数が減った。話を聞こうにもいつもまた今度と躱されてしまっていた。ギルドの掲示板の前にいるにもかかわらずコストイラのことを考えている。実はすでに2時間が経っている。



「よぉ地味男」



 掲示板の端っこを陣取っていたアレンの後ろから声が掛けられる。はっと現実に戻ってきたアレンが後ろを向くと、紅い髪に釣り目の気の強そうな女が立っていた。地味男って普通に悪口じゃないか?アレンはコリンに半眼を向けるが、彼女はものともしない。



「あ、あなたは、えっと、3つ目の試練の」



「コリンだ」



 自分の名前を言うと、アレンの後ろの掲示板を見る。



「地味男、名前は?」



「アレンです」



「お前さ、30分前から見てるけどずっと羊皮紙とにらめっこしてんじゃん。依頼を探している風じゃないしさ」



 言われて初めてそんなに長時間悩んでいたことに気付かされた。他のメンバーは酒を飲みながら談笑していたり、寝たりもしていた。それよりも名前を聞いておいて名前を呼んでくれないのか。何のために聞いたんだ?まぁ、聞くことは重要か。



「いや、そのなんというか」



「言いたくなけりゃ別に言わんでもいいぞ。尋問してんじゃないし。あ、何だこれ」



 コリンは一枚の依頼書を指さす。



「サ、ク、ラ?」



「東方の特有の花だな。ここじゃお目にかかるなんてまず不可能ね。気候も土壌も特殊なところで育つらしいから」



「詳しいですね」



 妙にサクラに詳しいコリンに疑問を持つがすぐに解決する。



「演奏家としてサクラの咲いているところに招待されたことだってあんのよ」



 アレンはジッと依頼書を見つめる。そういえばコストイラは妙に東方に詳しかったな。



「何するのか決まったのかい?地味男」



「はい。それと僕アレンって名乗りましたよね?」















「サクラ?」



 アレンから依頼を聞いた時に真っ先に返答したのは予想通りコストイラだった。



「サクラは白、薄桃、濃い桃色の花を咲かすんだ。その後には赤い果実をつける。少し酸っぱめだが結構うまい。生長の早い樹木が近くにあるとサクラの形が崩れてしまうっていう特徴がある。花言葉は精神の美、優雅な女性」



「く、詳しいですね」



 アレンはコストイラに対し、コリン以上に引き攣った顔で感想を述べる。



「親父が好きでな」



 少し哀しそうな顔をするコストイラに誰も追求しない。



「にしても年中咲いたままのサクラか。不気味だが見てみたい気もする」



「さ、さ、サクラですか?み、みた、み、見たことないですね」



 レイドとエンドローゼは依頼書に眼を通しながらワクワクを募らせる。



「年中咲いてんだろ。絶対誰か育てている奴がいんじゃねェか」



「戦闘は避けられないでしょうね。面倒なことになりそうね」



 戦いに縁を感じ始めているアシドとアストロは先のことを考えて嘆息する。















 街を出てから南へ、1キロメートルほど歩くと森に辿り着いた。森の外でアレン達は立ち止まっていた。



「嫌な空気を放っていますね。何ていうか闇属性的なものが」



「何言ってんだ?早く行くぞ」



 何とも言えないオーラを感じ取るアシドに何をいまさらとアシドが手招く。森の中は今まで通ってきた森と違い、日の光が届かない暗い空間になっていた。灯りが欲しいが火をつけると森火事になる危険性があるので断念し、少な過ぎる光源に、目を凝らして進む。



「いてっ」



 コストイラと思われるシルエットが額あたりを押さえ蹲る。枝に気付かず、額を打ち付けたようだ。



「灯りが欲しい」



 切実に祈るコストイラに無理だと断ってしまおうとした時、アシドの眼には灯りが映った。



「火だ」



 アシドの口から無意識にセリフが出てきた。



 暗い中の唯一の光源に他の者たちが気付かないハズがなく、全員が一点を見つめていた。火がゆらゆらと揺れ、草を分ける音と共に近付いてくる。ジッと静かに見守っているとようやくその姿が見えてくる。外套を羽織っているように見える、足のない魔物。レイスだ。レイスは息をひそめるこちらには気付かずに近付いてくる。灯りの範囲にアシドの蒼い髪が入る。



『グゥッ!?』



 ようやく敵の存在を確認できたレイスが驚愕に声を出すが、少し前から存在に気付いていたアシドは何も言わず槍を突き出す。レイスの顔と思われる部位が消えてなくなり、力をなくした手からランタンが落ちる。



「これ光源が手に入ったんじゃね?」



 コストイラはランタンを拾い上げる。思いがけず手に入った光源を使い、前に進む。



 進む道筋に敵はおらず、森を抜けていく。
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