83 / 391
5.無縁塚
16.白き刃
しおりを挟む
少女は高貴とまでいかなくとも裕福な家庭に生まれた。欲しいものは理由と共に言えば、何でも買ってもらえた。少女にとってそれが普通だった。
少女は生まれたときから強者だった。そこらに住む人間より断然強かった。それは単に少女が吸血鬼だからだろう。少女はその強さが憎かった。退屈は少女を殺した。
ある日、少女は強さを求めて闘技場を見に行った。そこに登場してきた戦士アリスの試合は彼女の人生を変えた。強さには限界がない。自分と似た金の眼をした綺麗な少女。何の変哲もない少女は、アリスの試合をきっかけにサラの人生が始まった。
もともと強者として生まれたサラは鍛えたことで吸血鬼としても上位近くの存在へと至ることができた。そして、サラは承認欲求が膨れ上がった。
勝ちたい。勝ち続けたい。勝って褒められて賞賛されて、嘉賞されて論賛されて賛美を受け、そしてそしてそしてそして、そして認められたい。
勝てば拍手が起き、勝てば人々が周りを囲った。
もっともっともっと!
だからサラは、試練の塔へやってきた。
ガツン!サラの手刀は穴の開いた楯に防がれる。サラの右足に激痛が走る。足にナイフが貫通し、縫い留めらえていた。後ろからコストイラが刀を振り下ろしてくるが、サラはその刀を掴み取る。振り回すように楯に叩きつけ、アレン、コストイラ、レイドを床に転がす。
サラは右足を引き、ナイフを床から引き剥がし解放する。次に掌を眺める。掌から流れる血ごと、その傷を舐めとる。
斜め後ろ、サラの死角となる場所からアシドが静かに槍を突き出す。吸血鬼は血を吸える相手を見つけるために嗅覚が優れている。視覚には死角があるが、嗅覚には死角がない。
アシドのことを一瞥をくれることなくジャンプし躱し、そのまま両足の飛び蹴りをアシドの顔面に決める。倒れていくアシドから噴き出る鼻血の匂いを嗅ぎ、サラの気分が高揚していく。
試練の塔で試練監督をし始めてから新たな自分に気付いた。今までの特訓では気づかなかった。それが血の匂いに興奮するということ。顔、腕、足、腹。同じ血のはずなのに匂いも興奮度合いも違う。いつの間にか2層に住む者はその爪を刃物のように振り回す様から、白き刃と呼ばれていた。その白さが紅く染まる頃、下からの挑戦が来なくなった。来ない。ヒトが一切。嗅ぎたい。血を、芳しい、あの血を。その我慢も限界に近付いた時、下から衝撃が響いた。
来る?来る!血が私の元に!
恍惚な表情を浮かべ宙を舞い、着地をするとき、レイドの大剣が背中を叩く。サラはアシドの上を通り過ぎ、床でバウンドし、着壁し、床に落ちる。うつ伏せに倒れるサラは起き上がれない。背骨でも折れたか?この怪我なら自然治癒では1時間はかかるか。赤に染まった白き刃を床に突き刺す。そこから闇魔術の波動が広がる。そしてサラの意識は途絶えた。
「堕ちた?」
「そのようだな」
刀を収めようとするコストイラに鼻血を拭うアシドが答える。
「も、申し訳ありません」
「大丈夫ですよ」
右目上の切り傷の痕が消せなかった。エンドローゼが何度目かの謝罪をする。
「これは、僕が弱いがゆえに創った傷口です。自分の能力をうまく使いこなせない、そんな僕への戒めとして、残しておきたいですから」
アレンは傷跡に触りながらエンドローゼを宥める。
少女は生まれたときから強者だった。そこらに住む人間より断然強かった。それは単に少女が吸血鬼だからだろう。少女はその強さが憎かった。退屈は少女を殺した。
ある日、少女は強さを求めて闘技場を見に行った。そこに登場してきた戦士アリスの試合は彼女の人生を変えた。強さには限界がない。自分と似た金の眼をした綺麗な少女。何の変哲もない少女は、アリスの試合をきっかけにサラの人生が始まった。
もともと強者として生まれたサラは鍛えたことで吸血鬼としても上位近くの存在へと至ることができた。そして、サラは承認欲求が膨れ上がった。
勝ちたい。勝ち続けたい。勝って褒められて賞賛されて、嘉賞されて論賛されて賛美を受け、そしてそしてそしてそして、そして認められたい。
勝てば拍手が起き、勝てば人々が周りを囲った。
もっともっともっと!
だからサラは、試練の塔へやってきた。
ガツン!サラの手刀は穴の開いた楯に防がれる。サラの右足に激痛が走る。足にナイフが貫通し、縫い留めらえていた。後ろからコストイラが刀を振り下ろしてくるが、サラはその刀を掴み取る。振り回すように楯に叩きつけ、アレン、コストイラ、レイドを床に転がす。
サラは右足を引き、ナイフを床から引き剥がし解放する。次に掌を眺める。掌から流れる血ごと、その傷を舐めとる。
斜め後ろ、サラの死角となる場所からアシドが静かに槍を突き出す。吸血鬼は血を吸える相手を見つけるために嗅覚が優れている。視覚には死角があるが、嗅覚には死角がない。
アシドのことを一瞥をくれることなくジャンプし躱し、そのまま両足の飛び蹴りをアシドの顔面に決める。倒れていくアシドから噴き出る鼻血の匂いを嗅ぎ、サラの気分が高揚していく。
試練の塔で試練監督をし始めてから新たな自分に気付いた。今までの特訓では気づかなかった。それが血の匂いに興奮するということ。顔、腕、足、腹。同じ血のはずなのに匂いも興奮度合いも違う。いつの間にか2層に住む者はその爪を刃物のように振り回す様から、白き刃と呼ばれていた。その白さが紅く染まる頃、下からの挑戦が来なくなった。来ない。ヒトが一切。嗅ぎたい。血を、芳しい、あの血を。その我慢も限界に近付いた時、下から衝撃が響いた。
来る?来る!血が私の元に!
恍惚な表情を浮かべ宙を舞い、着地をするとき、レイドの大剣が背中を叩く。サラはアシドの上を通り過ぎ、床でバウンドし、着壁し、床に落ちる。うつ伏せに倒れるサラは起き上がれない。背骨でも折れたか?この怪我なら自然治癒では1時間はかかるか。赤に染まった白き刃を床に突き刺す。そこから闇魔術の波動が広がる。そしてサラの意識は途絶えた。
「堕ちた?」
「そのようだな」
刀を収めようとするコストイラに鼻血を拭うアシドが答える。
「も、申し訳ありません」
「大丈夫ですよ」
右目上の切り傷の痕が消せなかった。エンドローゼが何度目かの謝罪をする。
「これは、僕が弱いがゆえに創った傷口です。自分の能力をうまく使いこなせない、そんな僕への戒めとして、残しておきたいですから」
アレンは傷跡に触りながらエンドローゼを宥める。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる