メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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5.無縁塚

9.荒くれ者の賭博場

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 いつも戦ってばかりだったので今日は宣言通りお休みとすることにした。アレンの提案は全員に受け入れられ、今日一日がフリーになった。アレンにはやる事がないが。



 『休むこともまた戦う者の義務である。』とは、最優の騎士王アスタットの言葉だ。



「よぉ、アレン。お前は何かやる事あんのか?」



 コストイラがアレンの肩に手を回してくる。傍から見れば完全に弱気な男に絡むチンピラだ。



「え、いえ、何も。はい、何もないですけど」



「じゃあ、今日、ちょっと付き合えよ」



 コストイラは親指を立てアシドとアストロを指す。本来、コストイラを元気にするための休日だ。付き合うのは吝かではないが、何をするのか分からないのは恐さがある。せめて教えてほしいが、聞いてもぜんぜん答えてくれなかった。















 コストイラ達についていくと、辿り着いたのは大通りの喧騒も届かない路地裏の奥深くに存在する酒場だった。いくつか並んでいる酒場のうち一番ボロボロな店に入る。



「昼間からお酒ですか?」



「ん?まぁ、確かにそうだが、それだけじゃねェぞ」



 コストイラは勝手知ったるように酒場の扉を開け放つ。中は意匠がなく下の続く階段しかない。その階段を下り、傷んでいる木の扉を開ける。



 視界に広がるのは場末の酒場特有の光景だった。ゲラゲラと騒ぐ痩せ細ったシーフ。周囲からのちょっかいを笑って払いのける太った魔術師。ウエイトレスの尻を撫でる淫らな剣士。バラバラの武器を所持している冒険者が木卓に腰掛け、肩を寄せ合い胴間声を轟かせている。何人ものヒトがタバコを吸っており、中は煙臭く、鼻が曲がりそうだ。



「あぁん?」



 酒場にいる者達が一斉に見やってくる中、コストイラ達は堂々と店内を突っ切る。アレンだけは不慣れでありビクビクキョロキョロしているため、嘲笑の的になっていた。



 胡乱な視線を集めながら、店の奥、金貨の山と何枚ものカードを広げたテーブル席――賭博を行っている男たちの前で立ち止まった。



「見ねェ顔だが、何の用だい、兄ちゃん」



 口を開いたのは腰に剣を佩いた大柄な冒険者の男だ。



「何って、ここは博打を打つ場だろ?」



「あ~?確かにそうだな。聞いたこっちが馬鹿だな」



 コストイラが用件を言うと、自分のした質問が愚問だったことを恥じ、男は頭を掻く。



「じゃあ、するのは何だ?カードか?ルーレットか?」



「カードで」



 コストイラは男の質問に答えながら対面の椅子に座る。男は体を預けていた椅子の背凭れから身を乗り出し、卓上の山札からカードを1枚めくり、絵柄を見せて告げる。



「こちらが賭けるのは金か情報だ。どっちを所望する?どっちでもこっちは構わんぞ。何だったら、自分を賭け金にしてもいい」



 男はアストロを見て下卑た笑みを浮かべる。アストロは露出が多く、格好の的だ。当の本人は何も感じていないようだが。



 コストイラは金貨の詰まった袋を卓上に置き、返答とする。次の瞬間、どっと喧騒が膨れ上がる。見ものだとばかりに冒険者達が囃し立てる



「行うゲームは?」



「ポーカーでどうだ」



「良いね。但し、途中でこいつらの誰かと交代したい。てか、全員がやりたがってんだ」



「点数が共有ならいいぞ」



「決まりだな」



 男は、コストイラと同じように武器を持っていないラフな格好をしたアシド、肩と背中を剥き出しにし胸元もしっかりと開いている長いイヴニングドレスを着たアストロ、キョロキョロと辺りを見渡し明らかに弱そうなアレンを見て承諾する。アストロを見る時だけ少しだけ目の色が変わった。



 行われるゲームに使われるカードは都合49枚。剣、果物、貨幣、王冠の4種類の絵柄があり、それぞれ1~12までの数字の書かれたカードとジョーカーのカードを加えたものが全容となる。



 ポーカーは代表的なカードゲームの一つだ。



 山札からカードを受け取り、手札の役の強さで競い合うゲームだ。



「袋の中は?」



「10万リル」



 カードをシャッフルされるのを待ちながら質問すると、コストイラは即答する。その値段の高さから男だけでなく周囲の者も口笛を吹く。















「フルハウス」



「……ナッ!?」



 卓上に開かれるコストイラの役は男のそれより強く、男は自身の手札を握りつぶした。これでコストイラの4連勝。最初が互いに一進一退の攻防をしていたが、いつの間にか一方的な試合になっていた。



「そろそろ交代しようか」



 その言葉に男が食らいつく。人が変われば勝てるかもしれない。



「まだやりたがったが、そういう約束だもんな仕方ないな」



 負け惜しみをたっぷりと込めながら交代を促す。しかし、それは地獄の選択だった。



 生まれたときからの幼馴染たちはいつも三人で遊んでいた。その遊びの中にはポーカーも含まれており、よく競い合っていた。そして、三人の中で一番弱かったのはコストイラだったのだ。コストイラは負けず嫌いで様々なことに関してリベンジを申し込み、逆襲してきたが、勝てるビジョンの見えないポーカーだけは挑まなかった。



 コストイラ:8戦6勝2敗。



 アシド:8戦7勝1敗。



 アストロ:10戦10勝。



 男のプライドはボロボロだった。合計で3勝しかできていない。この酒場の賭博場のボスである男はいかさまをしているにもかかわらず勝てていない。



「じゃあ、最後はあなたね」



 アストロはアレンにパスをする。ちなみにいかさまをしているのに勝てないのはボスよりも高度ないかさまをしているからだ。ポーカーどころかカードゲーム初心者のアレンには全く気付けない。



「さぁ勝負といこうか」



 負け続き、実質、現在17連敗でブチ切れている男が、眼を爛々と輝かせカードを受け取った。















 まさかこんな使い方があったとは。



 アレンは素直に感心していた。



 現在、アレンと男の勝負は、アレンが負け越している。まだ、黒字の範囲だが負け続けているのも嫌なので瞳に魔力を込めてみると今、この場にいる者たちのステータスの他に、相手がしているいかさまや、その手段、積まれているカード等すべてが見えてしまった。



 しかし、問題はどう活用するかだ。『強大な力も技が伴わなければ使いこなせているとは言えない。』。これもアスタットの言葉だ。



 集中し、全てを観察する。



 男の恰好。



 卓上のカード。



 観客。



 ディーラー。



 山札。



 順々に見ていく。勝つ手段が欲しい。ディーラーがカードを配る手を見る。



「ディーラーさん。いかさましてないですか?」



「何をおっしゃっているのですか?しているはずないですよ」



 場の空気が固まる。コストイラ達は溜め息を吐いた。



「あ~~あ。言っちゃった」



 コストイラがディーラーの手を摑む。見ると、ディーラーの手は山札の上から2枚目を摑んでいる。セカンドディールといういかさまの基本的なテクニックの一つだ。山札の一番上のカードを親指でスライドさせつつ2枚目のカードを配るというもの。1枚だけだが、常にカードをコントロールできる。



「こっちは知ってて言わなかったのに。オイ、アレン。言うなよ」



「くっそ!やっちまえ!!」



 やはりこうなったか。コストイラ達は分かりやすくテンションが上がった。
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