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1.はじまりの郷

22.魔王の尖兵

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 ガシャン。



 鎧の音を響かせ、『彼』は声を出した地点に辿り着く。そこには槍に胸を貫かれ、殺されているディアボロスがいた。見れば、細かい斬撃が刻み込まれていた。必死に抵抗して、魔王軍として、誇りある最期を迎えたのだろう。



 対する人間達にも額や四肢から血を流していた。ディアボロスは善戦したのだろう。



『バ…ボッド…ザ…マ』



 ディアボロスはもう何も見えない目で『彼』を確認すると、その名を口にした。ゴボゴボと血が溢れ、泡も噴き出ているため、正しく発音は出来ていない。しかし、『彼』にはひどく深く刺さった。



 『彼』は重厚な兜の下で目を瞑り、黙祷を捧げる。



 そして、『彼』は人間達の正面に立った。















 全体攻撃やフェイントなどやりたい放題で、時間稼ぎに奔走していたディアボロスをようやく倒したところで、全身鎧の3メートルはある謎のものが闖入してきた。



 ガシャリ。



 鎧を鳴らし、正面に立つ。



『これをやってのは貴様らか?』



 滑らかな言葉だった。人間と遜色ない、聞き取りやすい話し方。



「そうだと言ったら?」



 アシドがディアボロスから槍を抜く。すると、いきなりトップスピードで爆発的に肉薄してくる。『彼』の振るう剣を辛うじて槍で防ぐが、威力までは殺せず、吹き飛ばされ壁を壊しながら隣の部屋に行ってしまう。



 コストイラが炎を纏いながら突貫する。しかし、難なく剣を合わせられる。鍔迫り合いの中、『彼』はコストイラを蹴り上げる。



「ごぅえっ!」



 靴の先を腹に差し込まれ、胃を強制的に迫り上げさせられ、中身を吐き出しそうになる。



 止めを刺そうと、剣を振り上げたところ、横槍が入る。



 アストロだ。



 アストロが魔力を発射し、邪魔をしたのだ。



 『彼』は一旦距離を取る。



 アシドがいない今、『彼』の速さについていけるものがシキだけとなった。『彼』はその速度を十全に発揮し、レイドの後ろに隠れるアストロとエンドローゼを狙う。



 アストロは回り込んできた『彼』の兜の眼の部分の隙間に魔力を入れ込む。しかし、『彼』は仰け反ることなく、剣を振るう。レイドはアストロと剣の間に大剣を割り込ませ、防ごうとするが、力負けする。



 レイドとその背中に張り付いたアストロも共に壁に激突する。



「っ!重っ!!」



「すまん」



 文句を言われ、レイドはよろよろと立ち上がる。



 シキとコストイラも攻撃するが、鎧に弾かれてしまう。効いているのかが分からない。こちら側がどんどん消耗していく。エンドローゼはアシドの元に向かってしまった。こちら側には回復の手段がない。















 またこれだ。



 レイドが上からどいたからといってすぐに動けるわけではない。アストロは壁に凭れながら息を吐く。



 そう、これは私に魔法を教えてくれた師匠が私の中でクソジジィに変わった瞬間の記憶。



 私を拾ったことを後悔し、酒に呑んだくれるクソジジィが私に寄越した魔法。



 使うたびに嫌な記憶が蘇り、呼び起こさせられる呪いのような魔法。



 また使う場面になるなんて。



 今までのものとはまるで違う、本物の魔法が発動する。















 再び蹴りを食らい、コストイラが悶絶する。



 『彼』はすでに勝利を確信していた。ここから奇跡の大逆転など起きる筈がない。



 そこで『彼』の足元に黒い霧が纏わりついていることに気付いた。



『何だ?これは?』



 誰も答えない。



『何だこれは?』



 誰も答えてはくれない。



『何をした?ここから何をする気だ?私の脚を引っ張るな!?』



 叫ぶ『彼』への返答は、背後からの奇襲でもって返された。ガッシャ―ンと鎧が床に擦れる。



 後頭部からの槍攻撃に『彼』は殴り倒される。



『クソッが!!』



 アシドは起き上がろうとする『彼』の攻撃を受け流し、頭を蹴る。



 ガラと瓦礫が動く音が響く。レイドもアストロも隣にエンドローゼを連れ復帰する。



『誰の許可を得て起き上がる?いや、そもそも、誰の許可を得てここに立ち入る。我が名はマゴット!魔王軍幹部候補の1人にしてこの砦を任されし者!貴様らを倒す義務が私にはあるっ!!』



 マゴットは吠えてみせた。



 その瞬間、マゴットの頭上が光った。
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