メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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1.はじまりの郷

7.ゴブリン襲来の兆候

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「何? エイヴァン達が戻ってこない?」



 ギルド長のヴァイドは眉根を寄せる。これまでにも冒険者が戻ってこないという報告を受けたことがある。それは冒険者になりたての全能感が齎す罠だ。多くの冒険者が自分は強いと思い込み姿を消していった。



 しかし、それは冒険者になりたてか慣れてきたと思い込む時期に起こるものだ。エイヴァンはすでに中堅に位置し、自分の実力が分かっている部類に入る。決して無謀を侵すものではない。こんな知らせが来るとは思ってもみなかった。



「いつからだ?」



 ヴァイドの言葉に報告に来た職員がガチガチに緊張しながら答える。



「3日ほど前から」



「3日? まだ依頼をしているのではないか?」



「それが、最後に受けた依頼がクラッドウーズの粘体の採取で、数も3つと時間のかかるものではありません。調査チームを編成いたしますか?」



「ふむ。数は少なくていい。無茶はさせるなよ」



「はい」



 職員ははっきりと返事をすると、ギルド長室から出て行った。



 扉が閉まるのを確認すると、ヴァイドは椅子に座る。驚きのあまりに立ち上がっていたのだ。



「あのエイヴァンが? だとしたら仲間もか」



 ヴァイドは昔、エイヴァンのパーティー5人に戦闘訓練を施したことがあり、立派な師弟関係があった。ゆえに人一倍思い入れがある。エイヴァンの目元に切り傷ができていた時はヒヤッとしたが、案外今回もひょっこり戻ってくるかもしれない。今度はもっと凶悪な顔になって。チンピラ顔から犯罪者顔にレベルアップするかもしれない。そう考えたら少し笑えてきた。



「エイヴァン」



 ヴァイドはそう呟くと、大きな窓から外を眺めた。















 アレンも指示を出したいわけではない。ただ、押し付けられると逃げられないだけだ。押しが弱いともいう。アレンは後衛だから全体が見れるだろなどと建前を言われたが、案外納得してしまった。盤面が良く見える位置にいて、かつ後衛の中で一番まともに支持が飛ばせそうだと言われれば、そうとしか思えなかった。



「ラーヴァウーズ、西に逃げます」



「了解」



「シキさん。クラッドウーズに止めをお願いします」



「ん」



 止めを刺されたラーヴァウーズとクラッドウーズは体を粘土のようにドロドロに崩す。



「……こんなドロドロ何に使うんだ?」



 コストイラはドロドロした粘液が指の間を糸引くのを見て、うぇーと嫌そうな顔をする。ねちょねちょとしていて感触が気持ち悪い粘液は、集めさせる人の気力を削いでいた。意外にも一番採取しているのはエンドローゼである。



 アストロは粘体に直接触れないように手袋を嵌めながら答える。



「これは魔道具製作に広く使えるのよ。燃料として使えるから夜に使うランプや鍛冶工房の炉、昇華すれば煙が絡みついてくるから煙玉、魔力の伝導率が高いからエンドローゼの杖にも使われているわ」



「まじか。そら凄ェ。……もっと採取しとこう」



 すごい知識量だな、と感心しつつ、コストイラは袋に目一杯に詰め込んでいく。アストロは単純な奴と思いつつ何も言わない。



「凄いですね。よくそんなこと知ってますね」



「口ではなく手を動かしなさい」



 アレンは肩を落とし、粛々と採取を再開させる。もしかして嫌われているのだろうか。



「気ィ落とすなよ。アイツ命令されたりマウント取ってく奴が嫌いなんだよ。まぁお前に支持されんのが不服ってだけだ」



「どうしようもない。チーム戦向いてないじゃないですか」



「大丈夫だ。諦めるな」



 落ち込んでいるアレンにアシドとレイドはフォローを入れてくるが、逆に気を落とす理由になってしまった。アシドとレイドは顔を見合わせ、アシドは肩を竦める。



「ひぃえあっ!」



 エンドローゼの悲鳴が響いた。6人は一斉に顔を上げる。アレン達は互いに頷くと走り出した。



 アレン達が辿り着くと、エンドローゼは1本の腕を抱えて蹲っていた。腕は明らかに人の腕で、根元が赤く染まっている。摑むエンドローゼに跡が付いていないので少し前のものか。



「魔物にやられた跡か」



「何にやられたんだ?」



 無理矢理千切られたような跡のある腕は、何によるものか、皆目見当もつかない。ただ、捻じれた跡や噛み千切られた跡でもない。斬れない刃物で傷をつけて、引っ張って千切ったようだ。



「うーん。全然分からない」



 どうやって千切られたか分かったところで犯人は分からないのだ。



 ピクリとレイドの目尻が動く。



「危ないっ!」



『ギィイヤッ!』



 唐突に叢から出てきた魔物のハンマーをレイドは楯で防ぐ。ゴゥンと音を鳴らす。



「ぐ!? 何だっ!?」



「ゴブリンファイターだ」



 アシドは槍を翻し、ゴブリンファイターの脇を刺す。



『ギャイ!』



 アレンが矢を放つ。



 ゴブリンファイターは自前のハンマーで矢を弾く。しかし、その瞬間、一瞬とはいえ自身の視界を遮る形となった。ハンマーがどき、視界が回復した時、目の前に槍が出現する。



『ゴォアッ!』



 槍がゴブリンファイターの口を貫く。槍を引き抜くとゴブリンは支えを失い、どさりと倒れた。



 アシドはその顔を覗き込む。



「ゴブリンか」



「これをやったのもこいつらか?」



 アシドはエンドローゼの抱えていた腕を指さす。



「今日は切り上げて戻りましょう」



 嫌な予感は共通なようで、すぐさまアシドは同意した。他の者の説得はアシドがしてくれ、早々にアレン達は街に戻ってきた。















「換金と報告をしましょう。僅かとはいえ今日は報酬がありそうですし」



「あん? ギルドが騒がしいぞ?」



 言われてギルドを見てみると少し人だかりができていた



「どうかしたのか?」



 外から様子を窺っていた冒険者の男に話しかけると、何やら緊急会議が行われているらしい情報を手に入れた。



「冒険者諸君」



 禿げたおっさんがギルドから人波を掻き分けて出てくる。



「あれは」



「ヴァイドギルド長!」



 夕日の光を頭で照ら返しながら、集まった冒険者達を一望する。冒険者が何人か目を細めたのを見逃さなかった。ヴァイドは絶対にお仕置きしてやると誓った。



「南東の森でゴブリンパレードの兆候を発見した。おそらく規模は過去最悪に近い。明日には徹底的に叩く」



 ギルド長の通達に冒険者達はざわつき始める。



「明日!?」
「早くないか!?」
「そんなに切羽詰まって」



 冒険者がざわつく中、ギルド長は檄を飛ばす。



「今、討たねば街が地区が国が滅ぶ!早くしなければならない。しかし焦っては失敗するかもしれない。確実に討つ」



 そして、とヴァイドは続ける。



「今回の必要経費はギルドが負担しよう!」



 おぉ、と冒険者達が先程以上に騒ぎ出す。



「太っ腹だな」



「まぁ、滅んだらそれどころではないもんな」



 ぼそりと呟く。



「誰だ! 今、腹が太いと言ったのは!?」



 物理的に腹の太いヴァイドは地獄耳を発揮して怒鳴る。



 この怒号も最後かもしれない。冒険者の間で、密かに心の中だけで共通した考えは、誰も表には出さない。



 勇者に選ばれて、最初の試練が始まった。
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