メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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1.はじまりの郷

1.終わりを示す鐘

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 ゴーン、ゴーン………。

 教会の鐘が鳴り響く。

 また一人、大人が誕生したのだ。自由を謳歌し、職に憧れを抱けていた子供が死に、希望を持つことを許されず、社会の歯車として生きていくことを告げられた大人が生まれたのだ。

 成人の儀と呼ばれる儀式を終えたばかりの大人が神への知らせとして鐘を鳴らす。

 ごくありふれたガラエム教の日常だ。まだ現実の知らない新成人が笑顔で教会から出てくる。心からの笑顔。それを見つめる大人たちの笑顔は全てが表層のものだった。

 

「何をしている。シキ。早く立て」

 シキと呼ばれた少女は草原に大の字になっていた。そんな中飛んでくる師の声に、シキは寝ていたのを中断して体を起こすしかなかった。

 手元近くに落ちていたナイフを拾い、くるりと一回転させて握りなおす。ナイフを逆手に持ったシキは師に向かい構えを取った。そのまま流れるように動く。舞うといってもいいだろう。

 腕を組み仁王立ちをしてその様子を見守る師、レンはシキの動きを見て、苛立ちに鼻を鳴らす。

「今まで何をしてきたんだ、この愚図め。その頭は何も覚えていないのか」

 レンはもう一度鼻を鳴らす。シキは何も言い返さない。

「シキ。終いにしろ。明日は早いからな」

「…はい」

 シキは明日で15歳になる。バンツウォレイン王国では15歳が成人だ。成人の儀を受ければシキも大人の仲間入りだ。しかし、シキはただ、今まで通りに誰かの言うことを聞いていればいい。



「オシャレをしていきましょ!」

 翌日、シキが起きたとき、母からの第一声がこれだった。

 母は変わり者で知られている。いつも明るく楽しそうなのだが、なぜそんなに楽しそうなのかと尋ねられた時は生きているからと答え、住民を混乱させたこともある。

 そんな母が変なことを言ってきた。普段父が家にいる時はおとなしい母でも、今日という日はやはり特別らしい。奇妙なことを言う母は今に始まったことではないので、シキはもう慣れたが、それでも理解したわけではない。成人の儀にオシャレは必要なのだろうか。ジト目で母に訴えるシキの意思は無視され、シキは母の着せ替え人形となった。

「…早く行くぞ」

 レンも声をかけるのは躊躇ったようでいつもより声が小さい。

 シキたちの住む村は王国の中で中盤ぐらいの大きさの割に人口が少ない。稼げる職がないので皆都会に行ってしまう。成人の儀では職業は決められるのだが、場所は決められていないので当然と言えば当然だろう。

 住民の何人かに挨拶され軽く会釈を何回かしていると教会に着いた。重々しく教会の扉が開く。

 思えば教会の中に入ったのは初めてかもしれない。毎日のように父からのシゴキを受けていたからか教会に用事などなかった。それどころか人生に数度しか家の敷地を出たことがないので教会の場所すらあやふやだった。

 父が神父と何か言葉を交わしている。シキは一切の興味がないので、その様子を眺めながら時が過ぎるのを待った。10分ほどすると神父が手招きしてきた。ようやく儀式が始まるようだ。教会の長椅子には焦げ茶の髪をした少年が座っているがシキが先のようだ。

 シキは用意されている水晶に手を当てる。適当に言葉を聞き流していると、体が光始めた。

 職業は自分では決められない。儀式を通して神が職業を割り振ってくださるらしい。この教会はガラエム教のものだが、シキはガラエム教の主神も教えも覚えていない。そもそも教えられていないのだ。

 職業の選択に人の関与はない。だが、ある程度の予想はできる。大体が両親のどちらかの職業になるのだ。シキはどちらになってもただ言うことを聞いていればいい。

 しかし、ふとシキは考えた。父の職業は知っている。だが、母の職業は知らない。シキの知っている母は専業主婦だ。果たして母は専業主婦なのだろうか。時折見せるただものではない隙のない佇まいは何に起因するのか。シキは初めて母に疑問を持った。

「それでは御自身の目でお確かめください」

 神父が優しそうな声で話しかけてくる。

 表示される自分のステータスを確認できるのは自分だけ。こればかりは人に任せられないのでシキも指示に従う。

 表示される項目は4つだと聞かされている。名前、年齢、性別、そして職業。多くのものにとって重要なのは職業だけだ。

 名前:シキ

 年齢:15

 性別:女

 職業:勇者

 属性:然

 称号:<暗箭傷人>

「…………?」

 シキの目がわずかに見開かれた。相当注目していなければ気付かないだろう。シキは混乱していた。何だ、コレは?聞いていた話と違う。職業の内容もその後ろのステータスも、分からないことだらけだ。だが、焦らない。焦ってはいけない。師の教えだ。

「???????」

 とはいえ、シキは眉間にしわを寄せる。穴が開くほど凝視するが理解が追い付かない。

 シキの表情はコロコロ変わっているが、少女の変化はわずか過ぎて神父は気付かない。ただ初めてのことで目を輝かせる子供を見るように微笑む。その光景は何とも和やかだが、レンの知ったことではない。

「シキ。職は?」

 父に声をかけられ、ハッと銀髪を揺らす。しかし、何と答えたらいいのかわからない。

「観れたのか?」

「……はい」

「なら、さっさと鐘を鳴らせ。やる事はあるし、後もつっかえているのだ。早く帰るぞ」

 父はシキの返事など待たずに扉へ向かう。

 後を追いかけるように歩き出すと、ちらりと教会の長椅子に座る家族が見えた。どこにでもいそうな家族。幸せなのだろう、間に挟まれている子供は恵まれて見えた。おそらく、この少年が儀式を受けるのだろう。可哀想に。



 ゴーン、ゴーン……。

 教会の鐘が鳴り響く。

 今日もまた、子供が死んで、大人が生まれた。

 夢を見て、夢を語り、夢に憧れる。それが許された子供は死んだのだ。
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