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「多重人格探偵」
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「ははっ、あはははっ!」
女は嬉しそうに笑う。回答を間違えたのかと思いつつ奴を見つめていた時だ。
ザクッと、女の体から音がなった。血しぶきが上がると同時に、女が地面に倒れる。
制服が血によって穢れていく。美しい顔立ちの瞳から、光が消えていく。
知らない女が殺そうとしてきて、問いかけに応答したら自分自身の腹を刺した。
意味不明な状況である。もしこの現場を誰かが見たら、十中八九俺が起こしたというだろう。
事件にならないように立ち振る舞うとしたら、方法はひとつ。女を放置して屋上を脱出することだ。
もし脱出できれば、犯罪にはならないはずだ。凶器となるドスや女の体からは、女の指紋しか出ない。
屋上で寝ているだろうと問い詰められたら、トイレにでも入っていたと言えばいい。
女一人犠牲にすることで、俺は犯罪に巻き込まれなくなる。勝手に自殺しようとした人間を助けてやるほど、俺は優しい人間ではないのだ。断じて絶対に、優しい人間ではないのだ。
だとしたら――なんで俺は止血しようとしてるんだ。
「くそっ……止血する方法が思い浮かばねぇ……!」
自前のハンカチを腹に押し付けるが、女の腹から溢れる血が増えるばかりだ。しかも、指紋がべったりと付いた。犯人扱いされたとすれば、間違いなく俺の首が飛ぶ。最悪の場合、親父が警察にしょっ引かれるかもしれない。俺のせいで組が潰れる、構成員たちの食い扶持が無くなり、犯罪に手を出さなければならなくなる。
「とまれっ……とまれぇっ……!」
バレないように声を抑えながら、必死に血を止めようとする。女の表情はぼんやりとしており、小刻みに体が震えていた。刃物を抜いたことでショック症状が強くなっている可能性があるが、臓器を傷つける恐れがある以上、刃物を戻すという手段は検討しないほうが良いだろう。
大人に頼れば丸く収めてくれるだろうか。いや、組員以外は俺を売る。俺を売れば、学校の社会的価値が向上する可能性があるから。腐ったミカンを売る方が、学園に得なのだから。
「死ぬなっ、生きろっ!」
俺は左手で女の腹を抑えながら右手でスマホを取り出し救急車を呼び出そうとする。
そんな時だった。俺の右手を女が片手で捕まえたのである。ギリギリと締め付けられる手首の痛みに悶えていると女が目を開く。赤色の瞳だ。先ほどの瞳と違う気がすると思っていると、女が口を開く。
「ゲラゲラゲラゲラゲラッ! こんな子供騙しにかかるとかっ、あんたバカ!?」
女はゲラゲラ笑いながら俺を突き飛ばすと同時に立ち上がり、腹を見せる。腹には傷口一つない。代わりに、袋に入った血糊袋が破けている姿が見える。切ったというより、破裂したという感じだ。
「主人格が試すために行ったみたいだけどさぁ、あいつ馬鹿だよねぇ! 人間試すために高価な制服汚すとか頭おかしいってww ま、血液大好きな私が言うのもなんだけどねっ!」
女は舌を出しながら早口に語る。顔立ちは同じなのに、印象が全く違う。
「君は一体……誰なんだ?」
「あぁ!? そんなことどうでもよいだろぉ!? 主人格から聞いてるだろぉ!?」
「聞いてないし……というか主人格って、どういうことだよ」
「あぁ!? ……ってなるほど、あいつ馬鹿だから紹介忘れてたな。台本とか作らずに行動するからこんなバカげた事態になるんだよ、あほ娘がよぉ……!」
女は後頭部を爪でガジガジ描いてから、俺の方を見る。
「自己紹介してやる。私の名は、佐織美羽。俗にいう、多重人格探偵ってやつさ!」
女は嬉しそうに笑う。回答を間違えたのかと思いつつ奴を見つめていた時だ。
ザクッと、女の体から音がなった。血しぶきが上がると同時に、女が地面に倒れる。
制服が血によって穢れていく。美しい顔立ちの瞳から、光が消えていく。
知らない女が殺そうとしてきて、問いかけに応答したら自分自身の腹を刺した。
意味不明な状況である。もしこの現場を誰かが見たら、十中八九俺が起こしたというだろう。
事件にならないように立ち振る舞うとしたら、方法はひとつ。女を放置して屋上を脱出することだ。
もし脱出できれば、犯罪にはならないはずだ。凶器となるドスや女の体からは、女の指紋しか出ない。
屋上で寝ているだろうと問い詰められたら、トイレにでも入っていたと言えばいい。
女一人犠牲にすることで、俺は犯罪に巻き込まれなくなる。勝手に自殺しようとした人間を助けてやるほど、俺は優しい人間ではないのだ。断じて絶対に、優しい人間ではないのだ。
だとしたら――なんで俺は止血しようとしてるんだ。
「くそっ……止血する方法が思い浮かばねぇ……!」
自前のハンカチを腹に押し付けるが、女の腹から溢れる血が増えるばかりだ。しかも、指紋がべったりと付いた。犯人扱いされたとすれば、間違いなく俺の首が飛ぶ。最悪の場合、親父が警察にしょっ引かれるかもしれない。俺のせいで組が潰れる、構成員たちの食い扶持が無くなり、犯罪に手を出さなければならなくなる。
「とまれっ……とまれぇっ……!」
バレないように声を抑えながら、必死に血を止めようとする。女の表情はぼんやりとしており、小刻みに体が震えていた。刃物を抜いたことでショック症状が強くなっている可能性があるが、臓器を傷つける恐れがある以上、刃物を戻すという手段は検討しないほうが良いだろう。
大人に頼れば丸く収めてくれるだろうか。いや、組員以外は俺を売る。俺を売れば、学校の社会的価値が向上する可能性があるから。腐ったミカンを売る方が、学園に得なのだから。
「死ぬなっ、生きろっ!」
俺は左手で女の腹を抑えながら右手でスマホを取り出し救急車を呼び出そうとする。
そんな時だった。俺の右手を女が片手で捕まえたのである。ギリギリと締め付けられる手首の痛みに悶えていると女が目を開く。赤色の瞳だ。先ほどの瞳と違う気がすると思っていると、女が口を開く。
「ゲラゲラゲラゲラゲラッ! こんな子供騙しにかかるとかっ、あんたバカ!?」
女はゲラゲラ笑いながら俺を突き飛ばすと同時に立ち上がり、腹を見せる。腹には傷口一つない。代わりに、袋に入った血糊袋が破けている姿が見える。切ったというより、破裂したという感じだ。
「主人格が試すために行ったみたいだけどさぁ、あいつ馬鹿だよねぇ! 人間試すために高価な制服汚すとか頭おかしいってww ま、血液大好きな私が言うのもなんだけどねっ!」
女は舌を出しながら早口に語る。顔立ちは同じなのに、印象が全く違う。
「君は一体……誰なんだ?」
「あぁ!? そんなことどうでもよいだろぉ!? 主人格から聞いてるだろぉ!?」
「聞いてないし……というか主人格って、どういうことだよ」
「あぁ!? ……ってなるほど、あいつ馬鹿だから紹介忘れてたな。台本とか作らずに行動するからこんなバカげた事態になるんだよ、あほ娘がよぉ……!」
女は後頭部を爪でガジガジ描いてから、俺の方を見る。
「自己紹介してやる。私の名は、佐織美羽。俗にいう、多重人格探偵ってやつさ!」
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