極道高校生と多重人格探偵による事件録

「定めを持ちし男」

　人は皆、何かしらの縛りの中で生きている。

　縛りの種類は様々だが、多くの人に当てはまる項目は、他人に迷惑をかけてはならない、お金を盗んではならないといったものだろう。守れる者は社会の中で評価され、守れない者は淘汰される。
　そして、縛りは時に人生の流れを決めるものでもある。

　俺、谷上柊汰たにがみしゅうたの場合は組長になれと父から言われている。自分の未来を模索する16歳で自らの指針を決めて行動しろと言われているのだ。はっきり言ってクソである。

　だが、それ以上にクソなものがある。極道の一人息子として生きているだけで周りの人間から距離を置かれていたからだ。今年で16歳になるが、対面形式の交流は身内以外と行ったことがない。

　思春期終盤でありながら致命的な弱点を、俺は抱え続けていたのである。いや、つけというのが正しいのかもしれない。極道として生きないと親父に明言させれば、俺は普通の生活を送れたかもしれないからだ。だが、そんなことは後の祭りでしかない。過去を悔やむことなど、人生で最も無駄な時間なのだ。

「だったらよぉ、授業ぐらいちゃんと出ろや、ぼんくら野郎が……」

　緑のフェンスが四方に取り付けられた、よくある屋上で俺は寝転がっていた。屋上から見える街の景色は小さく、ミニチュアみたいに感じられる。自分が神にでもなったような錯覚に陥れる気がする。最も、そんなことはあるわけないのだが。

「高校の勉強ってなんでこんなにむずいんだろうなぁ、数学とかわけわかんねぇ」

　ため息交じりの愚痴を漏らしながらグラウンドに視線を移す。この日は持久走らしく、何週も忙しなく走り続ける人間と息絶え絶えになっている人間に別れていた。走り方のペース配分が下手だから息切れを起こすんだよ、馬鹿と言ってやりたいところだが、俺も授業をさぼっている。文句を言える立場ではない。

「……組長になったら、抗争対策とかシマの利益管理とかに追われる。カードも作れなければ、預金口座だって作ることが難しい。というか、暴対法で雁字搦めになるから、本当の意味で操り人形にでもなるのかなぁ」

　口から漏れ出す不安に苛立ちを覚える。くよくよしたところで意味がないと理解していても、自分自身の口が全くといっていいほど閉じる気配がない。

「幸せなやつらを見てると、羨ましくなるなぁ、恨めしい恨めしい……ってダメだダメだ。恨むんじゃねぇ」

　肘をつけて横向きに寝そべりながらそんな言葉を漏らしているときだった。突如、屋上の扉が開く。教師が呼びに来たのだろうかと思いつつ、ゆっくり体を起こして顔を向ける。

　立っていたのは、同じ学校の制服を着た女だった。