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事実は小説より奇なり

子供

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子供は、好きさ。

いい意味でも、悪い意味でも、
分かりやすいのだから。

子供はなんて、素直なのだろう。

子供はなんて、可愛らしいのだろう。

正直で、真っ直ぐで、可憐で、
人を疑うことを知らない。

純粋無垢だ。

見たもの、感じたものを、
そのまま受け取る。

嗚呼、なんて、愚かなのだろう。

なんて愚かで、可愛らしいのだろう。

子供は、賢くなくていい、子供なのだから。

世間知らずで、お人好しで、
守ってやりたくなるような、
そんな存在であればいいのだから。



「今日は、メガネなんだね?」

その癖、人のことをよく見ている。

変化を見破る。

そして覚えている。

「…あぁ、うん。
    今日は寝坊しちゃったから。」

「えー、遅刻したの?」

「ははは、まさか。ギリギリセーフだよ。」

「そっか!よかったね。」

もう、どれくらい会っていなかった
子だっただろう。

僕は君の名前を覚えていないのに、
君と遊んだであろうことを覚えていないのに。

君はちゃんと、覚えていてくれたんだね。

ごめんね。忘れてしまっていて。

君とはいつ、遊んだっけ。

思い出せなくて、ごめんね。

覚えていてくれて、ありがとう。



「今ね、わたしテキトーにされてるの。」

その一言は、衝撃的だった。

小学校1年生の女の子のセリフではない。

夜遅くまでここに預けられるらしい君は、
きっと寂しいんだね。

兄弟もいなくて、ペットも飼っていない。

君は、ここが閉まるギリギリの時間まで、
お母さんが迎えに来てくれるのを、
一人でいい子にして待っているんだね。

いいんだよ。一緒に遊ぼう。

これからは、僕も一緒にいてあげる。

さぁて、何して遊ぼうか。

「ぎゅうー!!離さないもーん。」

「腕を捕まえられたー!
    おっ、力強いなぁ。
    でもそろそろ離してくれないと、
    お母さんが迎えに来る時間だからね。
    帰る準備しようか。そこまで送るから。」

「はーい。」


どんなことがあっても、
 親を嫌いな子供はいない。

あの子はちゃんと、分かっているから。

両親が共働きで、忙しくて、
自分を構っているほど暇ではない、と。

でも休日には
いろんなところへ連れて行ってくれて、
たくさん遊んでくれるから、
自分を愛していない訳ではないのだ、と。

分かっているから。

だから、不満を言わないで、
文句を言わないで、ワガママも言えないで、
ずっといい子で待っているんだよね。

子供は、そんなに偉くなくてもいいのに。


「わー、外寒いね。もうこんなに暗い。
   足元、気をつけてね。」

「うん。」

そう返事して、
僕の左手を、その小さな手で捕まえた。

それは自然に、当たり前のように。

あったかくて、小さな手。

なんだかとても愛おしく思えて、
僕はそっとその手を握った。

 「あったかいなぁ…。」

「うん!わたしホッカイロ持ってるもん。」

そういう意味では、ないのだけれど。

子供体温をこんなに実感したのは初めてで、
子供はいいなぁと、素直に思った。

でもそれは、よその子だから、
よかったのかもしれない。

自分に懐いてくれるこの子だったから、
よかったのかもしれない。

どこか寂しがり屋で、あたたかい。

ぎゅっと抱きしめてあげたくなるような、
そんな感じが、いい。

「バイバーイ!」

「ばいばい。」

またね。

また、遊ぼうね。

僕の愛しい子よ。
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