上 下
108 / 148
これだけは誰にも負けない

あなたが大事なんだ

しおりを挟む
「命って、
大切なものだと思うんですよねぇ。」


僕はその時思ってしまったのだ。

命が大切って教えられるよりも、
あなたが大切なんだって教えられる方が、
何倍もいい。と。

自殺をする子供が増えているのは、
それが原因なんだと思う。


命は、確かに大事だ。


けれど、それだけだと何か違う。

自分も命をもってはいるけれど、
果たして、この命は大切なのだろうか。

抽象的な表現に過ぎない命という言葉を、
一体どのように信じたらいいのだろう。



「あなたが大事なの。」


そう言われた方が、安心できる。

命という形式でなく、
自分が大事だと言ってくれる方が、
何倍も愛されているじゃないかと思う。


一度だけでもそんなことを言われてみなさい。

死ぬ気なんて、少しも起きやしない。


だって、
あの人は自分が大事だと言ってくれている。

自分が大切なんだと言ってくれている。

それだけで、どれだけ心が救われるだろう。


「命を大切にしよう。」


なんて在り来りな言葉は要らない。

抽象的な表現なんて必要ない。

もっと具体的な、本物の言葉がほしいんだ。

みんな。


「あなたが大事。大切なんだ。」


本気じゃなくたって構わない。

でも、嘘であっては欲しくない。

そのさじ加減が、少し難しいだけ。

言ってくれる、言葉にしてくれる。

それだけで、
満たされる想いがあるかもしれない。


嬉しくって、少し恥ずかしくって、
でもやっぱりなんだかあたたかくなる。

その言葉を貰えただけで、
自分にはそれくらいの価値があると思えるから。


誰かに愛されている実感。

誰かに想われている自覚。


それが、一番大切な事なんじゃないか。


心というものほど、
人間の目に見えないものはない。


見えないから、
それをどう使うかで人を殺せるし、
人を愛せる。


「あなたが大事。」


そう言うだけで、
言ってくれるだけでいい。

あなたが生きている間に、
たった一度だけでもいい。


「あなたが大事なんだ。」


そう言ってあげてほしい。

あなたの周りにいる、
見えないところで傷ついている誰かに。
しおりを挟む

処理中です...