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はじまりの唄

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自分は、少し、
感傷的になってしまう時がある。


春は、特にそうだ。


出会いと別れの季節。


儚い思い出も、溢れる涙も、
桜の花と共に散ってしまうのだろう。


それぞれが、忘れて行く。


ひとつひとつの奇跡を。


春でなくても、
人と人は出会い、別れ、すれ違う。


当たり前のように、ずっと。



ある歌の歌詞に、
こんなことが書いてあった。


「違うから 僕は君を知りなくなる

   いつか二人 またすれ違う

   それでいい 
   
   それもまたいい」


僕は、この歌詞に感動した。


そして、共感した。


痛いほどに。


偶然の出会いは、

必然になり、

別れは突然だと。


春は、とても儚い季節。


美しく、悲しい。


春風が桜の花を散らせるように、
あの花びらたちのように、
人の記憶も、いずれは消えて行く。


それが、
春には形に
はっきり見えてしまうような気がして、
酷く寂しくなる。


そして思う。


人は、きっと一人なのだろうと…。


生まれるときも、死ぬときも、
誰が傍にいたとしても、
きっと、感じているのは一人だけ。


誰かの記憶を忘れて、
また新たな誰かの記憶を綴る。


そして、また忘れて行く。


忘れたまま、すれ違う。



「それでいい。


   それもまたいい」




そう思えるほど、強くないから。



「それでいい


   それがいい」



そしてまたきっと、
繋がれることを祈ってる。


出会えると、信じてる。


またいつか、この春のように、
別れる時が来るだろう。


それでも、
その別れを惜しむより、
その別れを誇れるように。



君と出会って、僕と出会って。


君を知って、僕を知って。


君もすれ違って、僕もすれ違って。


君と別れて、僕と別れて。



「それでいい


   それもまたいい」




僕はまた、君とすれ違うことを願ってる。
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