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目頭が熱い

無き者

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「夏の風は通り過ぎ、
    秋の季節がやって参りましたね。


    なにをそんなに
    悔やんでいるのですか。

    なにをそんなに嘆いているのですか。

    貴方は今まで、
    精一杯生きていたではありませんか。


    落ち込む必要など
    ないではありませんか。


   そんなに勉学が大切ですか。

   そんなに評価が大切ですか。


   貴方が貴方であるならば、
   それでいいではありませんか。



   …………。



   そう言ってあげたいところですが、
    やはり世の中、
    そう簡単には
    出来ていないのかもしれませんね。


   頭のいい子が褒められ、
   一番を取る子が讃えられ、
   才能がある子が選ばれるのです。


   変わってしまったものですね…。


   法律だって、規則だって、
   時代を重ねる度に
   厳しくなって行くんです。


   周りに影響され続け、
   自分らしさを失って行くんです。


   必要な人間と必要でない人間が
   区別されてしまうんです。
   

   そして常にネガティブに、
   いつも沈んでばかりいるんです。


   優秀なことが
   常に正しいことなんてないのだと、
   堂々と言えたらいいのですが、
  そう言い切れない自分が不甲斐ない。


   自分は、そんなことを言えるような
   優秀な人間ではないから。




  世間から諦められた生きる屍なんです。




  その屍のささやかな願い。


  言葉にするのも恐ろしい。


  

  Son…=Gak…




  自分は、
  こういう考えをやめて欲しいのです。

  

……………。




嗚呼、風よ。


時を戻してくれないか。



秋から夏へ、夏から春へ。


そして遠く懐かしい季節へと。



あたたかかったあの日々に。


笑っていられたあの頃に。


言葉で傷つくことを知らなかった
美しい時代に。



自分はもう、
自分が自分で無いような気がして。

他の誰かが
自分のような気がして。


自分が他の誰かのような気がして。


そんな気がしてならない。


嗚呼自分は、戻って来れるだろうか。」



そう言って、自分は泣いていたらしい。
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