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これだけは誰にも負けない

罪ある景色を求めて

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あるところに、一人の写真家がいた。



その写真家はより美しい景色を求めて、
世界中を旅して回った。



その写真家の撮る写真はどれも、
何千万の価値があるものとなっていた。




賞もいくつも取った。




でもそれでも、
写真家は満足していなかった。





「これじゃないんだ。
   僕が求めているのはこんなのじゃない。」





写真家は探していた。




自分を震えさせるような、
自分を唸らせるような、
そんな景色を探していた。





どんなに多くの人に感動を与える景色でも、
写真家一人殺せないような景色は、
写真家にとって当然なのだと。



罪のある景色は、
この世の何よりも美しい景色なのだと。



ただ美しいだけの景色は、
それだけなのだと。



写真家は信じていたのだ。





写真家は死ぬ覚悟で写真を撮る。



自分の最高傑作を撮った時、
写真家は死ぬのだ。






その写真家から、
一人の女性に封筒が送られて来た。




その封筒の中には、一枚の写真。





これは霧だろうか…?




辺りは曇っており、
どこに何が写っているのか
見分けがつかない。




しかもピントがずれていて、
何を撮ろうとしたのかも分からない。




わけのわからない写真だった。




「やっと…やっと見つけたんだね。」




それっきり
彼女の元に写真が届くことは
二度と無かった。
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