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恋を知る

あたたかい冬

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僕はあの時、
どうすれば良かったのだろう。


放課後の教室に一人残る彼女に、
何て言葉をかけてあげれたんだろう。


僕は彼女の事を知らなすぎて、
何も言える立場では無い事は
分かっていたんだ。


でも、何でか放っておけなくて、
自分の机に頭を突っ伏す彼女の肩を
そっと叩いた。


「僕、もう帰るけど…。」


彼女は僕を認識すると
慌てて笑顔を作った。


その笑顔は穏やかで、
綺麗で、優しくて、
何処か淋しそうだった。


そんな彼女の笑顔に、
僕は胸が苦しくなった。


そして身体中が熱くなった。


高まる鼓動に、自分自身驚く。


まるで縛り付けられている様に
苦しいのに、何処か心地よい。


思考が飛びそうになる。


頭の中が真っ白で、
何も言葉が出てこない。



窓の外には雪が降る。


教室は暖房が効いていて
暑いくらいなのに、
僕は付けているマフラーを
顔の半分にまであげた。


そして彼女の席の隣の席に
黙って座る。


クスクスと笑って
彼女は僕にこう言ったのだ。


「ありがとう。」


「………べつに。」


ふと外の雪に目をやった。

席を立ち、窓に顔を近づた瞬間、
窓ガラスがくもってしまった。


彼女はまたクスクスと笑い始めた。


僕はうるさい心臓の音を聞きながら、
さっきのは偶然だと
思い込むのに精一杯だった。
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