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4 街の中
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カカラッ、ココロッ、カカラッ。
馬の蹄がテンポ良く石畳を弾く。
そのリズムに合わせて、馬車はガタゴトと音を立てながら私たちを運んでいた。
部屋着のブラウスから外出用のベージュのワンピースに着替えた私は、母様、ダニエラさん、アレクとともに街に向かっている。
「あら、表情が暗いわねエミリー。何かあったのかしら」
「え、いいえお母様、私とっても元気よ!」
「そう? それならいいのだけど」
服選びと着替えでちょっと疲れたなどとは言えない。
いやー、まさかクローゼットがあんなに広いだなんて。年配のメイドさんが手伝ってくれて本当に助かった。着替えくらい一人でできますなどと答えてしまうところだったわ、危ない危ない。
馬車は林道を抜けて、小麦畑を横断していく。牧歌的な風景に目を奪われているうちに建物や城壁、そして一際背の高い時計塔が現れた。
「わあ素敵! すっごい素敵だわ!」
「ははっ!楽しいなー姉様!!」
ビスマルク領の中心都市ワーズルク。その中央広場の隅っこで馬車を降りた私たちは、眼前に広がる景色にテンション上がりまくっていた。
「こんなのネットとか映画でしか観たことないわ…ああ、憧れの北欧旅行! 石畳にー、街路樹にー、教会みたいなデザインの建物がいっぱいで、わ、あの路地はどこにつながってるのかしら」
「姉様、俺、なんか無性にあの道走りたい!」
「きっと猫の本能ね! おっかしいなーずっと家猫として飼ってたんだけどなー!」
住民や行商人、荷馬車が行き交う、とても活気のある街の様子にワクワクが止まらない! こんなところ本当にあるのね!
「あらあら、貴方たちそんなにはしゃいで…。街に来るのは久しぶりだったかしら?」
お母様が少し困ったような顔で笑っている。いかんいかん、完全にジャパンのOLに戻っているわね私。
「じゃあ、せっかくだから少し見て回ってらっしゃいな。16時に大時計の下で待ち合わせましょう」
「いいの!? ありがとうお母様!」
「ふふふ、気をつけてね」
お母様とダニエラさんに見送られ、私はアレクとともに街を散策することにした。
「うっひょー! なんか楽しい気分が止まんない感じ! 姉様もご機嫌だね!」
「そうね、お屋敷の中をうろうろしてたのとは別のハイテンションで自分が怖いわ・・・!」
「えみりの部屋から見てた風景とは全然違うなー」
「だよね…完全に日本じゃないわ、ここ。部屋は高級ホテルに宿泊した気分だったけど、こうして街に出ると、なんかホントに違う世界にいるってことがわかるというか…いやーすごいわ転生。OLとして生きてたら、きっと来れなかったわよこんなところ」
「うん? あ、なんか良い匂いがする! 姉様、俺ちょっと行ってくるー!」
「え? ちょっとアレク!」
「小遣い持ってるから大丈夫ー! 時計塔行くねー!」
言うが早いか、弟は匂いの元に向かって走り去ってしまった。元気だなーあの子。ま、いいか。私は私で街並みを楽しむことにする。
暗がりの路地を進むと、ふと気になるお店に行き当たった。看板を見る限り、どうやら時計屋さんのようだ。
カーテンが閉められていて、中の様子はわからない。
よし、とりあえず中に入ってみよう。
「こんにちわー・・・」
ドアノブをひねって中に入ると、そこはお店というよりは工房のようだった。作業台の上には見たこともない工具が並んでいる。
と、背後からドカドカと足音が響いた。
「いらっしゃいませー! すいません、いま師匠は時計塔の点検に行ってて」
「あ、ごめんなさい、入っちゃいけなかったかしら」
振り返った瞬間、視線が合ったのは青い目をした青年だった。黒髪に浅黒い肌、ところどころ汚れのついた作業服に皮製のエプロンをつけたその人影。
「おおっ、エミリー!」
「あら、アルベルトじゃない! ・・・はぁっ!?」
「えっ? な、何だよ」
咄嗟に口を押さえ、視線がふらふらと泳ぐ私。
どうやら私、エミリー・ビスマルクは彼を知っているようだった。
やだー混乱するー!!
馬の蹄がテンポ良く石畳を弾く。
そのリズムに合わせて、馬車はガタゴトと音を立てながら私たちを運んでいた。
部屋着のブラウスから外出用のベージュのワンピースに着替えた私は、母様、ダニエラさん、アレクとともに街に向かっている。
「あら、表情が暗いわねエミリー。何かあったのかしら」
「え、いいえお母様、私とっても元気よ!」
「そう? それならいいのだけど」
服選びと着替えでちょっと疲れたなどとは言えない。
いやー、まさかクローゼットがあんなに広いだなんて。年配のメイドさんが手伝ってくれて本当に助かった。着替えくらい一人でできますなどと答えてしまうところだったわ、危ない危ない。
馬車は林道を抜けて、小麦畑を横断していく。牧歌的な風景に目を奪われているうちに建物や城壁、そして一際背の高い時計塔が現れた。
「わあ素敵! すっごい素敵だわ!」
「ははっ!楽しいなー姉様!!」
ビスマルク領の中心都市ワーズルク。その中央広場の隅っこで馬車を降りた私たちは、眼前に広がる景色にテンション上がりまくっていた。
「こんなのネットとか映画でしか観たことないわ…ああ、憧れの北欧旅行! 石畳にー、街路樹にー、教会みたいなデザインの建物がいっぱいで、わ、あの路地はどこにつながってるのかしら」
「姉様、俺、なんか無性にあの道走りたい!」
「きっと猫の本能ね! おっかしいなーずっと家猫として飼ってたんだけどなー!」
住民や行商人、荷馬車が行き交う、とても活気のある街の様子にワクワクが止まらない! こんなところ本当にあるのね!
「あらあら、貴方たちそんなにはしゃいで…。街に来るのは久しぶりだったかしら?」
お母様が少し困ったような顔で笑っている。いかんいかん、完全にジャパンのOLに戻っているわね私。
「じゃあ、せっかくだから少し見て回ってらっしゃいな。16時に大時計の下で待ち合わせましょう」
「いいの!? ありがとうお母様!」
「ふふふ、気をつけてね」
お母様とダニエラさんに見送られ、私はアレクとともに街を散策することにした。
「うっひょー! なんか楽しい気分が止まんない感じ! 姉様もご機嫌だね!」
「そうね、お屋敷の中をうろうろしてたのとは別のハイテンションで自分が怖いわ・・・!」
「えみりの部屋から見てた風景とは全然違うなー」
「だよね…完全に日本じゃないわ、ここ。部屋は高級ホテルに宿泊した気分だったけど、こうして街に出ると、なんかホントに違う世界にいるってことがわかるというか…いやーすごいわ転生。OLとして生きてたら、きっと来れなかったわよこんなところ」
「うん? あ、なんか良い匂いがする! 姉様、俺ちょっと行ってくるー!」
「え? ちょっとアレク!」
「小遣い持ってるから大丈夫ー! 時計塔行くねー!」
言うが早いか、弟は匂いの元に向かって走り去ってしまった。元気だなーあの子。ま、いいか。私は私で街並みを楽しむことにする。
暗がりの路地を進むと、ふと気になるお店に行き当たった。看板を見る限り、どうやら時計屋さんのようだ。
カーテンが閉められていて、中の様子はわからない。
よし、とりあえず中に入ってみよう。
「こんにちわー・・・」
ドアノブをひねって中に入ると、そこはお店というよりは工房のようだった。作業台の上には見たこともない工具が並んでいる。
と、背後からドカドカと足音が響いた。
「いらっしゃいませー! すいません、いま師匠は時計塔の点検に行ってて」
「あ、ごめんなさい、入っちゃいけなかったかしら」
振り返った瞬間、視線が合ったのは青い目をした青年だった。黒髪に浅黒い肌、ところどころ汚れのついた作業服に皮製のエプロンをつけたその人影。
「おおっ、エミリー!」
「あら、アルベルトじゃない! ・・・はぁっ!?」
「えっ? な、何だよ」
咄嗟に口を押さえ、視線がふらふらと泳ぐ私。
どうやら私、エミリー・ビスマルクは彼を知っているようだった。
やだー混乱するー!!
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