犬養さんと猿渡さんは犬猿の仲?

悠生ゆう

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犬養さんと猿渡さんは今年も犬猿の仲? 3

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「さて、改めまして、あけましておめでとうございます」
 猿渡さんが言う。本当に、この人は何を考えているのだろう。私が呆然と猿渡さんの顔を見上げていると、少しムッとした顔をした。
「あけまして、おめでとう、ございます」
 わざとハッキリ言う猿渡さんに、ムッとした顔の理由を理解する。平気で不倫をしているくせに、こういう所だけはきちっとしているなんて変な奴だ。
「あ、あけましておめでとうございます」
 私が返すと、猿渡さんは満足そうな笑みを見せる。なんだか、その笑みにイラっとする。
「で、子ザルちゃんは、何か神様にお願いごとをしたの?」
 猿渡さんは言う。そんな安っぽいブラフに引っかかるはずがない。
「言うわけないでしょう? 願い事は言わない方がいいってことくらい、私だって知ってるんだから」
 すると、猿渡さんは一瞬目を見開き、すぐに目を逸らすと口もとを押さえてクックックと笑い出した。
 この女のこういう所が腹立たしいのだ。私をひっかける策略に失敗した苦し紛れだろうが、素直に悔しそうな顔をすればかわい気もあるというのに。
「子ザルちゃん、それ、間違ってるよ」
「え?」
「言わない方がいいのは、人にじゃなくて神様にだよ」
「は? 何を言っってるの?」
「だから、願った内容を人に言わない……教えない方がいいっていうことじゃなくて、神様に願い事を言わない方がいいってこと」
「神様に願い事を言わない? じゃあ、何を言うんだよ」
「お礼でしょう」
 猿渡さんは、さも当たり前といった顔をした。お礼? お礼ってなんだ?
「昨年も無事過ごせました。ありがとうございます。今年もよろしくお願いします。って伝えるんでしょう」
 え? なにそれ。たったそれだけのことを言うために、大行列に並ぶっていうの?
 驚きを隠せない私を、猿渡さんはニヤニヤしながら見下ろしている。
「子ザルちゃんのことだから、叶いそうもない願い事をたくさんしたんだろうと思ったんだけど、やっぱりね」
 猿渡さんは、そう言いながらもクックックと笑い続けている。本当に腹立たしい。
「そういうことは、お参りする前に教えろよ!」
「八つ当たりされてもねぇ」
 八つ当たりと言われようが、ムカつくものはムカつく。神様は、私がたくさん願い事を言ったから、早々に猿渡さんと会わせたというのだろうか。早速罰が当たってしまったのだろうか。
 神様が私の願いを聞き入れてくれないというのであれば、自らの手で叶えるしかない。いや、神様はむしろ、自らの手で勝ち取れと伝えるために、こうして猿渡さんと鉢合わせをさせたのかもしれない。
「勝負だ! 猿渡さん」
 私はビシッと猿渡さんを指さして叫ぶ。
「は? なんなの突然」
 [[rb: 訝 > いぶか]]し気な顔をする猿渡さん。だけど私は、それを無視して話を続けた。
「三本勝負! 負けた方は、勝った方のいうことを聞く」
 すると、猿渡さんの眉がピクリと動いた。
「それは、なんでもいいの?」
「もちろん」
「OK。受けて立ちましょう。で、何で勝負するの?」
 絶対に負けられない勝負がはじまった。
「最初の勝負はシンプルに、ここから駅まで走って先に着いた方が勝ち!」
 私は元陸上部。この勝負に負けるはずがない。
「じゃあ、ヨーイ、スタート!」
 戸惑う猿渡さんをよそに、私は軽快にスタートを切る。現役を離れて久しいが週三日は走っている。駅までは五百メートルほどのはずだ。競技場とは違って走りにくい環境ではあるが、ペースは悪くない。チラリと後ろを見ると、かなり遅れて猿渡さんが付いてきていた。かなり苦しそうな表情をしている。
 気持ちいい。
 猿渡さんにあんな顔をさせるのははじめてのような気がする。
 そして私はぶっちぎりで余裕のゴールをした。
 それからかなり遅れて猿渡さんがフラフラとゴールする。
「ハァハァハァハァ……」
 猿渡さんは膝に両手をついて肩で大きく息をしていた。
「運動不足なんじゃないの?」
「体力バカ」
「負け惜しみかっ」
「ハァ、つか、勝負って、ハァ、こういう体力、勝負なワケ?」
「へ?」
「だったら、私の負けでいいよ。無理。もうイヤ」
 負けを認めるのか、ハハーン! とは言えない。私は、猿渡さんに勝って、ハーレムを手に入れたいのだ。そして、あの嫌がらせを阻止したいのだ。足の速さで勝っても意味がないような気がする。
「わ、分かった。しょうがないから、次の勝負は猿渡さんが決めていいよ。まあ、仕方ないから、譲歩してあげる」
 私が腕を組んで言うと、ようやく息を整えた猿渡さんが顔を上げた。
「私が勝負内容を決めていいの?」
「そう言ってるでしょう」
 すると猿渡さんは、フム、と考える仕草をする。そして、自販機で水を買ってグビグビと飲み、もう一度、フム、と言った。
「本当に何でもいいの?」
「もちろん。猿渡さんは、もう後がないんだから、せいぜい勝てる勝負を考えれば」
 そうだ。何だかんだいっても、三本勝負で一本先取しているのだ。猿渡さんは自分が有利な勝負を持ち出してくるだろうが、堂々と迎え撃って完勝してやろうではないか。
「よし、決めた。じゃあ、こっちに来て」
 猿渡さんはそう言うと、私の腕を引いて人通りの少ない駅の裏の方へと連れて行く。
「ちょっと、どんな勝負をする気?」
 猿渡さんは私の質問には答えず、グングンと足を進めていく。そして、周囲に他の人がいない場所まで来るとピタリと足を止めた。
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