犬養さんと猿渡さんは犬猿の仲?

悠生ゆう

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犬養さんと猿渡さんは今年も犬猿の仲? 2

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 そんなことを考えていると、ようやく参拝の順番が回ってきた。初詣の長い行列の待ち時間にくだらない回想をしてしまった。
 新しい年を迎えたのだ。猿渡さんの件はノーカンにすることに決まったのだ。さっさと忘れて、気持ちも新たに素敵な年になるようにお参りしよう。
 私は賽銭箱にお賽銭を入れる。そして、二礼二拍すると手を合わせて静かに目を閉じる。
――今年こそ、猿渡さんに勝ってハーレムを築けますように。
――きれいなお姉さんと仲良くなれますように。
――ちょっとエロい感じのお姉さんだと尚うれしいです。
――でも、四月には新入社員も入ってくるから、年下に頼られたり甘えられたりするのも捨てがたいです。
――あ、やっぱり、そんなに贅沢はいわないので、女の子とラブラブになれるならどんな人でもいいです。
――それから、猿渡さんにこれ以上チュッチュされませんように。
――今年こそ、正真正銘の初チューができますように。
――初チューのシチュエーションにはこだわらないけど、無理やりグリグリやられるのはいやです。できればロマンチックな感じがいいです。例えば、ちょっとお酒を飲んでほろ酔いの感じで、夜景をバックに……みたいな感じとか。で、そのまま次のステップに進んじゃうっていう感じもウエルカムです。
――それから、って、いっぱいお願いごとをし過ぎてもダメですよね。だから、あと二つだけ。宝くじが当たりますように。身長があと少し伸びますように。
――お願いします。
 そうして、私はうやうやしく一礼をしてお参りを終えた。
 帰りの参道もうんざりするくらい人がいるが、行きに比べれば流れがある分楽だろう。と思ったが、流れがある分、あっちへ押されこっちへ押されて翻弄される。
「ギャッ、すみません」
 よろけて隣の人にぶつかってしまった。
「ちょっと、大丈夫? 子ザルちゃん」
 その声に頬がひきつる。私を「子ザルちゃん」と呼ぶ人間など一人しかいない。
 顔を上げると、やはり猿渡さんがニヤニヤ笑っていた。そして、その隣には牛倉先生がいる。
「な、何でいるの?」
「そりゃ、初詣だよ。偶然だねぇ」
「なんで、牛倉先生と?」
「そりゃ、初詣だよ」
 猿渡さんは牛倉先生と手をつないで仲良く参道を歩いている。
「だって、牛倉先生は結婚したんでしょう」
「結婚したって、友だちは友だちでしょう?」
 平然と言ってのける猿渡さん。
「お久しぶりですね、犬養さん」
 牛倉先生もいつもと変わらないラブリースマイルを浮かべている。
 この人たちどうなってるんだ?
「犬養さん、せっかくお会いできたのにごめんなさい。私、これから旦那と待ち合わせだから」
 牛倉先生はサラッと言うと、やっぱりラブリースマイルを浮かべて去っていった。
「ちょい、猿渡さん。これって、ふ、不倫だよね」
「いやいや、友だちって言ったじゃない。ものすごく仲のいい友だちってだけだよ」
 その「ものすごく」の辺りが不倫だと言っているんじゃないか。
 いかん、正月早々猿渡さんに会った上に嫌な気分になってしまった。
「つーか、子ザルちゃん、さっきからちゃんと前に歩けてないけど、大丈夫?」
「人波を楽しんでるだけだよ」
「面白い遊びだねぇ」
 猿渡さんはそう言って笑うと、当たり前のように私の手を取った。
「お、おい、なんだよ、離せよ」
 私は抵抗したが、人混みの中では暴れることもままならない。猿渡さんは私の手をギュッと握って引っ張った。そうして引きずられるように歩いていくと、程なく人混みを抜けることができた。
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