自転車センパイ雨キイロ

悠生ゆう

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 散々話し合った結果、学校が終わってからセンパイの自転車特訓をすることが決まった。場所はセンパイの自宅近くのサイクリングロードだ。
 もちろんセンパイを頷かせるのは大変だった。
「自転車の練習をしましょう」
 私がそう言ったときのセンパイの第一声は「なんで?」だった。
 唐突過ぎる感は否めないが、それにはちゃんと理由があった。自転車に乗れないセンパイが私との練習で乗れるようになったら、きっと一生そのことを忘れないだろうと思ったからだ。
 子どもっぽい考えだと思うし、センパイの前の彼女に嫉妬しているだけなのかもしれない。だけど私は、センパイの傷ではなく、幸せな楽しい思い出としてセンパイの心に残りたい。
 だけどそんな恥ずかしいことをセンパイに言うことはできなかった。
「なんでって、センパイが自転車に乗れないからです」
「そうじゃなくて、そもそも私と一緒にいない方がいいって話で」
「そんな話でしたか?」
「そうだよ」
 なんだかセンパイは少し怒っているようだった。
「センパイの話を聞いて、それで私が一緒にいるべきじゃないって納得したら、でしたよね。話しを聞いても一緒にいちゃいけない理由はわかりませんでした」
 センパイは困ったようでもあり、うれしそうでもある微妙な笑みを浮かべる。
「だから私は今まで通り、朝はセンパイと勉強するし、放課後は自転車の練習をします」
「一緒の時間が増えてるし」
「嫌なんですか?」
「嫌というか、私と一緒にいると……」
「誰かが何かを言うかもしれませんけど、それと私の気持ちは関係ありません」
「でも、紫蒼さんのあのお友だちも……」
「藤花? 大丈夫です。桃がなんとかしてくれますから」
 桃に任せておけば大丈夫だとなぜだか確信が持てる。
「だけど……」
「大丈夫です。それに、今更でしょう?」
 朝、一緒に勉強をしていたのも結構見られているだろうし、文化祭では手をつないでいたのを目撃されている。今更距離を置いても、噂が立つのならばそれを止めることはできないだろう。
 センパイはまだ迷っているようだだったが、私の意思が変わらないと思ったのか別の質問をした。
「どうして急に自転車の練習なの?」
「えっと、ほら、カナダに行って急に自転車に乗らなきゃいけないことになったらどうするんですか」
「そんなこと、あるかな?」
「ないとも限らないでしょう。そんなとき教えてくれる人もいない状態で、一人で練習するのは大変です。だから今のうちに練習しておきましょう」
「うーん」
「風を切って走るの、気持ちいいですよ。楽しいし。もしも何か嫌なことがあっても、自転車に乗れば風に乗って飛んで行っちゃいますから」
 センパイは俯いて少し考える様子を見せた。そして顔を上げると、八重歯を覗かせたうれしそうな笑顔で言った。
「自転車、乗れるようになりたい」
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