自転車センパイ雨キイロ

悠生ゆう

文字の大きさ
上 下
11 / 21

11

しおりを挟む
 長かったような、あっという間だったような夏休みが終わった。
 夏休み明けの初登校日は快晴だった。私は駅から自転車で学校に向かい、そのまま教室に入った。
 今日は授業がないけれど、念のためにと持ってきた一冊の教科書とノートを開く。だが、集中することができず、すぐに閉じて鞄の中にしまった。
 夏休み、あれからセンパイとは会っていない。メッセージも送っていない。今日、センパイは学習ラウンジにいるのろうか。多分、いるだろう。だけど私はそこに行けなかった。あの日から毎日考えているけれど、センパイとどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。いや、自分がどんな顔をしてしまうのか予想できたからだ。
 センパイが卒業したら、一緒に学校に通うことも、一緒に勉強をすることもできなくなる。それは当たり前のことだ。それなのにセンパイが海外に行ってしまうと知って、どうしてこんなに苦しくて、寂しくて、動揺してしまうのか、よく分からなかった。
 私は立ち上がって教室を出た。そして真っすぐに学習ラウンジに向かう。
 学習ラウンジの扉を開けた。センパイはいつもの窓際の席でテキストを開いていた。集中しているのか、私が入ってきたことに気付いていないようだ。
 私は大きくひとつ息を吸ってから笑顔を作る。
「センパイ、おはようございます」
 するとセンパイは少し驚いた顔で私を見た。そして笑みを浮かべて「おはよう」と言う。
「やっぱりいましたね」
「紫蒼さんは、ちょっと遅かったね」
「久しぶりの学校だったので、ちょっと寝坊しちゃいました」
 頭を掻きながら答える私に、センパイは少し間を開けて「そっか」と言った。私の言葉が嘘だと分かったのかもしれない。鞄は教室に置いてきてしまった。ちょっと考えれば分かってしまうだろう。
 センパイのテキストの横にはスマホが置いてあった。寂しい思いはさせない。そう言ってメッセを交換してもらったのに、私はセンパイに寂しい思いをさせてしまっていたのかもしれない。
 胸の奥のやけどのような痛みがまた少し広がる。
「センパイ、あれから夏休みはどうでした? 私、宿題がギリギリで、もう必死だったんですよー」
 軽い口調で嘘を重ねる。
「そうなの? 宿題は早めにやった方がいいよ」
 嘘に気付いているのか、いないのか、センパイは笑みを浮かべたまま私の言葉に答えた。
「ですね。本当、反省しました」
 私は言いながらセンパイの顔を見つめる。センパイは笑顔だけど、これまでと何かが違う気がした。
「九月になったけど、やっぱりまだ自転車だと暑いですよ。今日なんて汗だくですもん」
「そうだろうね。でも、風が当たるから涼しくなるんじゃないの?」
「いやいや、当たる風自体が熱いですから」
「なるほど」
 意味のない会話を繰り返して私は気付いた。センパイは笑っているけど、八重歯が見えていない。胸の奥のやけどがまた少し広がる。
「そうだ、センパイ。今日って午後から予定ありますか? よかったら、お昼を一緒に食べに行きませんか?」
「お昼?」
「はい。今日は午前中だけだし」
 センパイは少し考える素振りを見せてから、「いいよ」と答えた。
 考えてみれば朝以外の時間にセンパイと会ったのは、あの夏休みの一日だけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一口分の毒りんご

null
恋愛
人は愛されてこそなんぼだ。 アイドルとして順風満帆な人生を送っていた花月林檎は、自分の容姿、雰囲気、振る舞い…それらから得られる全てを享受しながら生きてきた。 そんな花月にも理解できないモノがあった。 友人もいない、愛想も悪い、本ばかり読んでいて、そして、私にも興味がない人間、時津胡桃。 一人孤独に、自分の中だけで生きている時津とちょっとしたことで共に行動することになった花月は、段々と彼女の隣で居心地の良さを感じるようになっていくのだが…。

私の先輩、先輩の私

まったり
恋愛
主人公の伊井野 花(いいのはな)と、花の先輩吉高 心陽(よしたかこはる)の間で繰り広げられるお話です。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

鈴蘭

オダケン
恋愛
「『普通』って何だろう?」 「あなたの『異常』を肯定したい」 大切な人を失い、未だ立ち直れないでいる少女、小出真美《こいでまみ》。この事で人生の『時』が止まってしまった高校生の真美は、先の見えぬ未来に不安し怯え、周りの人たちみたいに生きられない自分に悩み、自分の殻に閉じこもって生きていた。そんな真美は、耐えきれぬ不安を解消するために幼馴染で同級生の霞優理奈《かすみゆりな》の身体を求めていった。しかし、優理奈は真美を拒むことなく、慈しみに満ちた笑顔を浮かべて真美に身体を貸す。真美はそんな優理奈に不信感を抱きつつも、欲に身を任せていく。これから自分はどうやって生きて行けばいいのか? こんな自分はやっぱり普通ではなく、異常なのだろうか? そもそも、普通とは何なのだろうか?

乱交的フラストレーション〜美少年の先輩はドMでした♡〜

花野りら
恋愛
上巻は、美少年サカ(高2)の夏休みから始まります。 プールで水着ギャルが、始めは嫌がるものの、最後はノリノリで犯されるシーンは必読♡ 下巻からは、美少女ゆうこ(高1)の話です。 ゆうこは先輩(サカ)とピュアな恋愛をしていました。 しかし、イケメン、フクさんの登場でじわじわと快楽に溺れ、いつしかメス堕ちしてしまいます。 ピュア系JKの本性は、実はどMの淫乱で、友達交えて4Pするシーンは大興奮♡ ラストのエピローグは、強面フクさん(二十歳の社会人)の話です。 ハッピーエンドなので心の奥にそっとしまいたくなります。 爽やかな夏から、しっとりした秋に移りゆくようなラブストーリー♡ ぜひ期待してお読みくださいませ! 読んだら感想をよろしくお願いしますね〜お待ちしてます!

春の残骸

葛原そしお
ミステリー
 赤星杏奈。彼女と出会ったのは、私──西塚小夜子──が中学生の時だった。彼女は学年一の秀才、優等生で、誰よりも美しかった。最後に彼女を見たのは十年前、高校一年生の時。それ以来、彼女と会うことはなく、彼女のことを思い出すこともなくなっていった。  しかし偶然地元に帰省した際、彼女の近況を知ることとなる。精神を病み、実家に引きこもっているとのこと。そこで私は見る影もなくなった現在の彼女と再会し、悲惨な状況に身を置く彼女を引き取ることに決める。  共同生活を始めて一ヶ月、落ち着いてきたころ、私は奇妙な夢を見た。それは過去の、中学二年の始業式の夢で、当時の彼女が現れた。私は思わず彼女に告白してしまった。それはただの夢だと思っていたが、本来知らないはずの彼女のアドレスや、身に覚えのない記憶が私の中にあった。  あの夢は私が忘れていた記憶なのか。あるいは夢の中の行動が過去を変え、現実を改変するのか。そしてなぜこんな夢を見るのか、現象が起きたのか。そしてこの現象に、私の死が関わっているらしい。  私はその謎を解くことに興味はない。ただ彼女を、杏奈を救うために、この現象を利用することに決めた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

優等生不良ちゃん

四国ユキ
恋愛
【完結まで毎日更新】不良ばかりの荒れた高校に通う内海春子(うつみはるこ)は三年生に進級した日に運悪く五人組の不良に絡まれてしまう。どうやって切り抜けようかと考えていると、頬に大きなガーゼが張られ金髪で長身の夜崎美枝(やざきみえ)に助けられる。春子は助けてくれたお礼にと、普段は鍵が掛かっていて入ることができない屋上へ招待する。鍵は春子が一年生のときに勝手に複製したもので、美枝はそれを聞いて呆れる。その日以降二人でよく屋上でサボるようになる。美枝は長身と金髪が相まって周りから勝手に恐れられているが、一緒の時間を過ごすうちに春子はそれが間違いであることに気がつく。そして春子は美枝にどんどん惹かれていく。夏休みの直前、春子が意を決し告白すると美枝は「付き合うのは駄目だが、セフレならいい」と言ってのける。美枝がどうしてそんなことを言うのか春子は理解に苦しむが、セフレから恋人になれるはずだと自分に言い聞かせ了承する。早速事に及ぼうとする美枝を制し、春子はデートの約束を取り付ける。夏休みの間デートをし、体を重ねるようになり、まるで恋人のようだ、今の関係性でいいんだと春子は言い聞かせる。時折顔に大きな傷をつけたり、名前で呼ばれることを嫌がったり、今時携帯電話を持っていなかったりと、さまざまなことに疑問を持ちながら。

処理中です...