女子高生に拾われる話。

悠生ゆう

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オマケ そして私はクビになる

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「碧依!」
 頭の上から怒鳴り声が響いて、私は重たいまぶたをこじ開ける。
「ん? 朝? 散歩?」
 ぼんやりした頭に手を当ててゆっくりと体を起こす。昨日は精神的にも肉体的にも疲労したから、まだ疲れがとれていないような気がする。
「そうじゃなくて、どうしてここで寝てるの!」
 ようやく目の焦点が定まってきた。琥珀が顔を真っ赤にして怖い顔をしていた。
 昨日、彼と別れ話をしに行き、そこに琥珀が駆けつけてくれた。
 広瀬家に戻り、私は琥珀の部屋で一緒に寝ようとしたのだけど、素気無く断られてしまったから、しばらく時間を置いて琥珀が眠ったころに部屋に侵入したのだ。
 別に夜這いというわけではない。
「琥珀の側で眠りたいなと思ったから」
 私は素直に心境を伝える。昨日の琥珀はかっこよくてかわいかった。
「もう一緒には寝ないって言ったでしょう!」
 琥珀はなんだかすごく怒っているようだったけれど、私はそれよりもピョンと跳ねている琥珀の前髪が気になった。琥珀がしゃべるたびに、跳ねた前髪がぴょんぴょんと動く。
「んー、でも……」
 私は手を伸ばして琥珀の跳ねた前髪を抑えた。
「なに?」
「前髪、跳ねてる」
「え? ホント? って、そうじゃなくて」
 私は跳ねた前髪を直すように琥珀の頭を何度か撫でる。
「一緒に眠ったこと?」
「そう」
 琥珀は頭を後ろに引いて私の手から逃れると、自分の手で前髪を抑えた。
「犬ってそういうものでしょう?」
「だって碧依は……」
「琥珀の犬でしょう?」
 すると琥珀は髪を抑えていた手をグッと握ると手を降ろした。琥珀自身のようにめげない前髪は、またピョンと跳ねる。
「もう、それナシ」
「え?」
「碧依を犬にするの、もう止めた!」
 琥珀の言葉に、私は悲しい表情を作って上目遣いで琥珀を見る。
「琥珀は、私を捨てるの?」
「ち、違う。捨てるんじゃなくて犬はもうクビなの!」
「私、犬じゃなくなるの?」
 琥珀はコクンと頷いた。
 それと共に大きく揺れる琥珀の前髪に私は再び手を伸ばした。そして笑みを浮かべて尋ねる。
「琥珀の犬でなくなるのなら、私は琥珀の何になるの?」
 すると琥珀は目を丸くして、口をパクパクと動かした。
「犬でなくなるのなら、もう『待て』は聞かなくてもいい?」
 私はさらに問い掛けながら、髪を抑えていた手をゆっくり下にずらしていき頬に添える。
 琥珀の顔がみるみる赤くなって、体がプルプルと震え出した。
 そして「散歩!」というと勢いよく立ち上がる。
「散歩行ってくる!」
 琥珀はそのまま逃げだすように部屋を飛び出した。
「ちょっと、待って琥珀、私も行くから」
 ちょっとからかいすぎたかなと反省しつつ、私は琥珀の後を追う。
 琥珀の『待て』にそう長く待てないと思ったけれど、さすがに一日も待てないなんて、われながら堪え性がなさすぎる。
 そうして私は琥珀の犬をクビになった。


   オマケもおしまい
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