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彼女と逃走……オレ土地開拓始めました

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『アンタもやればできるじゃない。さ、腐る前に街の外へ捨てて来なさい』
「わかりました……お姉様……。とでも言うと思ったか!!」

(本当にごめんな。未来……。今すぐ仇を討ってやる!!)

 オレは、まばらに血が付着したナイフを強く握りしめる。仇を討つと言ったが攻撃したのはオレ自身。
 しかし『攻撃しろ』と言ったのは、爆弾を隠し持つライチだ。オレには罪と復讐の二つがある。これを果たすのが新たな目的。
 未来を守る。公爵家の攻撃から守る。オレは、ライチを一度黙らせたあと、街から離れることを決意した。

「あらら、もの聞きが悪いわね……。ごめんなさい。サクラはもう終わりよ」
「んだとぉ!!」
「こちらにはまだ奴隷がたくさんいるのよ。残虐な殺戮兵器が」
「さ、殺戮兵器!?」
「咲夜……くん。もう、言い争いはやめ……て……」
「未来!!」
「まーだ死んでいなかったのね……。爆弾でも食わせようかしら?」

(爆弾食わせるってどんな頭してんだよ!!)

 ライチは殺戮兵器どころではない。完全な馬鹿野郎だ。そんなテロ集団のような発言は聞きたくもない。
 加えて、未来に爆弾を食わせるなどできっこない。思考回路そのものが殺戮兵器だ。
 まだ逃げるには早すぎる。近づけば爆弾で返り討ち。オレも魔物に囲まれて、身動きも取れない。
 一番頼りになる未来も瀕死状態だ。

(こうなったら!!)

 一度未来の魔法効果を思い出す。彼女の魔法は火属性。血液はオレの足を赤く染めている。
 目からは不安と罪悪感と怒りの涙。溢れすぎた水晶が落ちると、未来の血で蒸発した。もしや血液にも火属性が?
 
「なるほどな。直接刺すのは真っ平御免だが、これなら行ける!!」

(すぐにひるませて避難させる。だから……)

 オレは未来の血をナイフに塗りつける。もしこれで、彼女が貸してくれた剣を出現できるのならば!!

 ――ブウォン!!

「剣が……伸びた……。行ける!!」
「あらまぁ。そんなもので私を倒せるのかしら。反吐が出ますわ。サクラは一人では生きて行くことすらできないのに……」

(頼む!)

「バーニングブラスト!!」

 オレは勢いよく回転斬りを決める。ブラストと言うだけあって、オレと未来を包み込むと、出口が生まれてそこから逃げる。

「もう少しで街の外に……」
「う、うぅぅぅ……」
「未来!?」
「さ……くや……くん……」
「未来大丈夫か!?」
「う、うん……。なんとか……」
「もう少しで街の外に出る。それまで演技でもなんでもいいから、未来はまだ死んでてくれ・・・・・・!!」

 このセリフを言った時には、彼女は気を失っていた。オレの攻撃で彼女の身体はボロボロ。傷口も大きな亀裂レベルの重症。
 意識があるのも不思議なくらいだ。
 少しづつ見えてくる街の門。約30分の移動に彼女の傷が悪化する。今は茂みを探すしかない。そこでならオレ達は自由の身。
 平原を進み始めてからさらに20分。なんとか木陰のある茂みに辿り着き、未来を寝かせてから大きな木にもたれ掛かる。

「やっと逃げ切った……。未来……。未来大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ……。少し寝てただけだし……」
「にしても、あの発狂は流石だな。ちっとオレもやりすぎたが……」
「それくらいでいいんじゃない? うぐゥゥ……」
「未来!?」
「早く……。早く回復魔法を唱えないと……」
「今は無理すんな!!」
「だ……め……だよ……。自然治癒じゃ間に合わない……から……」
「あとどれくらい耐えられるんだ? オレが聖導士を連れて来てやる!!」
「最長で3日間なら……。できるだけ早く呼んできて……」
「3日間か……。わかったオレに任せてくれ!!」

 たったの3日間。でもまだ3日もある。もうあの街には戻れない。追放されたのも同然だ。
 オレは未来の身体を茂みの深い場所に隠す。幸い皮膚に触れる草が薬草だったため、少しは回復してくれるだろう。
 全身を覆うようにして、オレは街とは真逆の方向へ走る。村がある保証はない。今のオレは風来者。

「絶対助けを呼んできてやる!!」

 走らないといけない。胸を気にしてはならない。足を動かすことだけ考える。とにかく前へ進む。

『な、なになのッ!! あ、あああ、アイスボール!!』
『ミカエル!! ぼぼボクも!! えいやぁ!!』
『このゴブリンつよつよなのぉ……。これじゃあ魔力持たないのぉぉぉぉ!!』

(どこかで戦闘しているのか?)

 オレは声がする方へ向かう。そこには大量のゴブリンと戦う三人の冒険者。どう見てもゴブリンが優勢だった。
 瞬間的に危険を感じ、ドレスの袖からナイフを取り出す。走る速度を殺さずに斬りかかった刃は、見事ゴブリンへ命中。

「貴方は一体?」
「自己紹介はまたあとだ!! 今はコイツらを!! オリャァァァァァァァ!!」
「す、すごい……。あんな身体なのに……」
「まだまだ!! せぇいッ!!」

 ――ウガァァ……!? ピシャン!!

「これで全滅か……。みんな大丈夫か?」

 結局彼らの見せ場を奪ってしまったオレ。結果オーライにはなっただろうが、オレの容姿が気になるようで……。

「そ、そのありがとなのです!」
「すみません。助けてもらっちゃって……」
「なんのなんの。礼なんかいらねぇって。オレは金森咲夜。見た目は巨乳女だが中身は腹黒の男だ。君たちは?」
「はは、初めまして……。せせ、聖導士のミカエル・アントワです……。あたし冒険者になったばかりで……」

 はじめに名乗り出たのはミカエル。さっき弱気な男子が呼んでいた少女。身長は150程だろうか? 桃色の三つ編み女子だ。

「お、同じく冒険者のレノン・ファンクスです。12歳です……。弱いけど剣士やってます……」
「俺はガノン・ファンクス。レノンの双子の兄だ。基本は監視役だけどな」
「いや、ガノン戦わんのかーい!!」
「あはは、咲夜さんって面白いお方なのです!!」

 オレのツッコミで盛り上がる冒険者達。だけど無事に聖導士を見つけられた。こんなにもすんなりとは思わなかったが……。
 ミカエル達に事情を話し、四人で未来の元へ帰る。ミカエルのおかげで傷口はキレイに塞がれ、感謝の気持ちでいっぱいだ。
 これにはオレも感無量……。ポロポロ涙を流しながら、愛しき未来を抱きしめる。

「咲夜くん……。ありがとう。ミカエルさんにレノンさん。ガノンさんもありがとうございます」
「いえいえ、咲夜さんへの恩返しなのです!! 礼は不要なのです!!」
「あん時はヒヤヒヤもんだったからな!」
「良ければ一緒に来て欲しいのです!」
「はぁ?」
「あたし達には家がないのです。家を見つけて欲しいのです!!」

 旅は道連れ。オレに仲間が増えた。だけどオレも未来も家がない。ただ、オレ達ができることとすれば……。

 ――ポロン!

「未来通知か?」
「う、うん。開くよ」

〝おめでとうございます

ペアスキル2【職業無双・スーパー大工】

 のレベルが2になりました。
 追加された効果は以下の通りです

 レベル2効果

 ・高速伐採(木こり職追加)

 武器種問わずに木を伐採可能。大半の樹木は一発で伐採可能。

 ・スーパー建築(建築職・加工職追加)

 伐採した木材を瞬時に加工。

・スーパー設計士(建築職サブスキル)

 瞬時に設計図作成。建設時の成功率上昇。

 以上です。これからのご活躍を楽しみにしています。

 裏日本冒険者ギルド協会本部より〟

「レベル……アップ……」
「いや待て!!」
「咲夜くん!?」
「〝高速伐採〟。〝スーパー建築〟。〝スーパー設計士〟。つまりは……。『自分で家を作れ!』ってことだろ?」
「気づかなかった。考えて見ればスキルは揃ってるね……」
「んじゃみんな!! これから木を伐採に行くぞ!!」

 ここまで嬉しいことはない。加えてここまで重労働になるとは思っていない。
 だけど家を手作りできるのは、とても楽しいはずだ。
 五人で目指す場所は木々の多い樹海。そこで幹の太い樹木をかき集め、加工スキルで建材に変える。
 ただ、どう運ぶのか……。それが問題だった。

「咲夜さん!! まもなく樹海なのです!!」
「ミカエル助かるよ……。未来。風魔法とかは可能か?」
「できるよ。ちょっとやってみる。チェンジタイプブロウ!! エアカッター!! フォームエクストラ!!」

 未来の属性変換。ローブ炎のオレンジから風の緑に変わっている。彼女のローブは使用属性と連動しているようだ。
 発生した風刃は次々と木に当たり、ドサドサと切り倒していく。それも全て一発だ。

「えーと、1……10……20……100……1000……2000。あと7000本か……。今度はオレが!! ワイドスラッシュ!! 連斬!!」
「咲夜くん!!」

 ――ドババババババババババババババババァァァァァァァァァァァァ!!

「すすす、スゴすぎなのです!!」
「は、はい……」
「ふむふむ……。手応えありか……」
「ガノン兄さん?」
「なんでもない。気にするな……。ただの独り言だ」
「ふぅ……。これで9000本。デカめの一軒家なら建てられるな」

 欲しい本数は手に入った。次はこの木を運ぶのだが、それだけの人数はいない。
 改めて樹海を見る。そこには大量の切り株があり、取り除けば家を建てることができそうだ。ならば……。

「未来!! ミカエル!! レノンガノン!! ここに村作るぞ!!」
「む、村!?」
「そうだ、村だ!! 切り株を片付けるところからだな」(めんどくせぇけど……)
「了解なのです!! 大将!!」

(た、大将ってマジかよ。ま、まあいいか……。けど、ここからどうする? スコップないからなぁ……)

「それなら私たちに任せてよ」
「未来?」
「そうなのです!! あたしもお手伝いするのです!!」
「ミカエルもありがとな」
「いえいえなのです!! 未来さん。整地するのです!!」
「根まで燃やした方がいいのかな?」
「未来さんは火属性が得意なのですか? あたしは水属性が得意です。消火は任せろなのです!!」

 ニコニコしながら会議をする未来とミカエル。まるで女子会のようで、中身男のオレは入ろうにも入れない。

「チェンジタイプバーン!! フレアダイナマイト!! フォームポイント!!」
「アクアスプラッシュ!! フォームポイント!! なのです!!」

 二人の魔法使いが唱える。未来は得意技の火属性魔法で切り株ごと燃やし、ミカエルは水属性で消火作業。
 初対面にも関わらず、コンビネーションは抜群だった。ちゃんと建材を避けているし、見る役のこちらも楽だ。

「咲夜くん!! これくらい整地すれば大丈夫かな?」
「ちょっと確認するか……えーと……」

(ここには巻尺というものがない。巻尺があれば距離をより詳しく測れるのだが……。いや、方法はある!!)

 ――ゴロゴロゴロ……。

「咲夜さん。何をされるのですか?」
「ちょっと距離測るためにだな……」

 ――ゴロゴロゴロゴロ……。

 オレは丸太を伐採前の木の根元へ並べる。切った時の面同士を合わせ、快適な広さまで模索を続ける。
 早い段階で二階建てなどはまず不可能。ここは平屋建てにするとして、奥行き優先で作業を進めていく。

「こんなもんでどうだ?」
「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
「目算で敷地面積は一般的な一戸建ての二軒分。約78坪くらいだな。次は設計図と工具の調達なんだが……。」
「こうぐ? 工具って何?」
「レノン知らないのか? ドライバーとかノコギリとか金槌とか、あとはビスにネジだろ? 釘やくいも必要なのか……」
「あたしそういうのは初耳なのです!! ここでは見たこともないのです!!」
「ま、マジかよ。そりゃそうだろなぁ……」

 いつの間にか、巨乳は気にならなくなっていた。もうこのまま巨乳系美少女悪役令嬢でもいい。未来と一緒ならなんでもいい。

 ――ポロン!

「また通知……。開けるよ」
「おう!!」


〝おめでとうございます!!

ペアスキル2【職業無双・スーパー大工】

 のレベルが3になりました……〟
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