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第1章

画面越しの出会い

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 こんな私に務まるのだろうか……。未だ許可待ち。朝の送迎バスに揺られながら、スマホの画面をスクロール。

 夕方には反応がくると思う。それまでただひたすら待つ。おりなければ、また探せばいい。
 私の中の作品と、相手の中の作品が共鳴するまでひたすら待つ。ただただ待ち続ける。その時が来るまで……。

「八ッ坂さん? 八ッ坂さん、そろそろ降りる用意をしてください」
「あ、すみません。星野さん」

 職場の先輩である星野文恵に呼ばれ、急いでスマホをリュックにしまう。白いジーンズ、藍色のポロシャツ。その上に薄手のシャツという、ラフな服装。

「八ッ坂さん。小説を書いているんでしたっけ? どうですか?」
「まだ。イマイチですね。読まれているのだか、いないのか……。一応三桁以上には行くんですけど、多くて五百止まり。四桁には程遠いです」
「ウェブ小説家も大変なんですね…………」

 今できることは、作中の情報集めと、ストーリーを書くことだけ。許可がおりたとしても、私は物語を『書く』。そして、相手はイラストを『描く』。

 漢字は違えど、同じ『かく』。物を作るのは変わらない。書籍作りは二人で一人。それぞれが、できることを全うするだけ…………。

 ◇◇◇◇◇◇

 夕方になっても返信は来ない。悩みに悩んで別の人を探す。送っても返信は来ない。そんなすぐに来るわけがない。
 相手も忙しいんだから、当たり前だ。このままでは、進まない。思えばずっとゲームのことを考えていた。

「新しい作品を……。ゲームではない作品を書こう。でも、何を書こうか…………」

 ネタは浮かばない。そんなすぐに浮かぶわけもない。誰だってそうだ。急に『書け』と言われても、筆は進まない。

「八ッ坂さん。ちょっとそのツイート見てもいいですか?」

 今日もあっという間に終わり、送迎バスでの帰り道。隣の席に座る先輩が、私のスマホを覗き込む。

「いいですけど。そんなに上手くないですよ?」
「大丈夫。あなたの作品。前から気になってましたから」

 にかりと笑う星野先輩。スマホを渡して操作も教える。ものすごい楽しそうに読む先輩。

「ん? ちょっと待って?」

 千鶴は気づいた。このツイートを使えばいいのではと…………。私は内容全てをコピペして、様々な内容を付け足していく。

〝「こんな私に務まるのだろうか……」

 頬杖をつき画面を眺める。イラストレーターに申請したが、未だ許可待ち。
 夕方には反応がくると思う。仕事をしながら時間を潰す。
 おりなければ、また探せばいい。私の中の作品と、相手の中の作品が共鳴するまで……。

 少しでも早く彩りたい。際立たせてくれる二つとないイラストで……。
 私はひたすら待つ。ただただ待ち続ける。その時が来るまで……〟

「これならいけるかも‼」

 だんだん自信が湧いてきて、一つの画面を言葉で飾る。あとはイラストレーターを探せばいいだけ。
 アプローチと交渉を何度も繰り返し、断られても諦めなかった。諦めることができなかった。

 いい作品になると信じていたから。最後に見つけた絵……。その絵を見た瞬間、身体全体に電流が走った。相手の名前は〈白峰琴葉〉。早速連絡を取ってみると、快く引き受けてくれた。
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