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兎と狼 第2部
第61話 便利すぎる魔法
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結人さんが切ってくれたマグロの刺身。全部厚さが一緒で、一口で食べやすいサイズになっていた。
だけど、なぜしゃぶしゃぶ用の土鍋があるのかわからない。俺は一人立ち上がり、テーブルに置かれているものを見る。
テーブルの上にはやはり刺身しかない。フグは別として、刺身は普通火を通すことなく生で食べるもの。
気になった俺は結人さんに尋ねる。
「あ、あの……」
「なにかな? 翔斗くん」
「刺身しかないのに、なんでしゃぶしゃぶ用の土鍋が?」
「んーー。それってどう受け取ればいいのかな? しゃぶしゃぶも食べたいってこと?」
「いや、そういうわけではなく……」
結人さんは亜空間を開き肉を取り出した。下ごしらえ済みの超薄切り肉。すぐにしゃぶしゃぶ用ということがわかった。
だけど、テーブルには置き場がない。俺は結人さんがどうするのかを推測してみる。
ひとつは刺身の皿を亜空間に入れて、メニューを総入れ替え。だけど、それでは刺身パーティ。否、刺身しゃぶしゃぶパーティが偏ってしまう。
すると、結人さんはしゃぶしゃぶ用の肉が乗った皿を宙に浮かべたまま停止させた。
「しゃぶしゃぶ食べたかったら、僕が皿移動させるから安心してねーーー」
「は?」
「この家での決まりだよ。皿の置き場がなかったら、空中にも置き場を作ればいい。ちょっと邪魔になるけどね」
「いやそういう問題じゃ……」
結人さんはかなりテンションが高い感じがした。今回の食事は刺身がメインなのかしゃぶしゃぶがメインなのかわからない。
大樹はフグの刺身を土鍋でしゃぶしゃぶして、軽く火を通して食べている。どうやら身が締まるみたいで気に入ったらしい。
そろそろ俺も刺身を食べようと思った時。また亜空間が開いた。今度は結人さんではなく景斗さんの亜空間だった。
そこからは赤貝やミル貝。牡蠣などが乗った貝類の皿。景斗はそれを刺身の乗っかった皿の上に乗せる。
「黒白様。これもお願いします」
「わかった」
そうして、ゆっくり宙に浮く貝類の皿。俺は挙手して赤貝をもらった。結人さんの魔法はかなり安定している。
それも昔から普通に普段使いしているくらいに、皿が停止している。移動させる時も速度を一定に保ち、上に乗ってる肉や貝類が落ちる気配すらない。
「結人さん。私も赤貝もらっていいですか?」
「大樹くんも貝類好き?」
「大大大好きです! あ、生牡蠣もください。あとは、マグロの刺身がちょっと遠いので近づけてもらってもいいですか? 大トロも中トロも好きなので」
「ふふ。食べ盛りっていいね。ちょっと待って順番に移動させるから」
「ありがとうございます!」
大樹の大食い癖が大爆発している。さすがは、未来ある陸上部。俺だったらそんなにたくさん食べられない。
大樹の目の前にあった刺身の皿はもう何も乗っかってなくて、そこに何があったのかもわからない。続けざまに大樹は……。
「結人さん。しゃぶしゃぶ肉いいですか? あと、取り皿も」
「はいはい。どんどん食べてねー。余っても亜空間なら長期保存効くから、無理しない程度に」
「はいっ!」
俺はまだ赤貝しか食べていない。刺身の皿が減ってきたタイミングで、結人さんが立ち上がる。
結人さんは亜空間から大マグロを取り出した。そこから大きい包丁を器用に使って捌いていく。
突然始まったマグロの解体ショー。複数本の包丁を使って3枚にして、そこから刺身として切っていく。
解体ショーは約30分程で終わった。手馴れた手付きで増えたマグロの刺身は、半身分を大樹の方へ。
大樹は皿から数枚取るとわさびたっぷりの醤油をかけて食べ始める。案の定ツーンときたらしく、渋い顔をして悶絶していた。
「翔斗くんは食べないのかな?」
「え、あ、はい。ちょっと普段の生活とかけ離れていて、困惑していただけで……。じゃ、じゃあ、大トロと、豚しゃぶを4枚……」
「了解」
すると、俺の目の前に豚しゃぶが乗った皿と大トロが乗った皿が飛んできた。ちゃんと取りやすい高さに停止している。
俺はそこから大トロを2枚。豚しゃぶを4枚取る。しゃぶしゃぶ肉は、土鍋で湯掻いて、しっかり火を通すとゴマだれとポン酢と混ぜたたれにくぐらせて口に運んだ。
甘くしっかりして、とろけていく豚肉。何ミリで切っているのか知りたいくらいに美味しい。
次に大トロを醤油につけて食べる。俺は小さい時から刺激物が得意ではなく、わさびは入れていない。
そうして、大トロを醤油煮絡ませる直前、結人さんが止めてきた。
「大トロはまず素材の味を楽しんでからの方がいいよ。醤油をつけずに食べた方が本来の味が楽しめるからね」
「は、はぁ……」
俺は言われた通り醤油をつけずに食べてみる。すると、ほんのり甘い香りが鼻腔を駆け抜けていって、口の中がお花畑になったような感覚になった。
とても美味しい。回転寿司で食べる大トロよりも美味しい。こんな思い出を作れるなんて、思ってもいなかった。
「どうやら気に入ったみたいだね」
「はい。こんな贅沢なメニューは群馬じゃありえないですよ。学校のみんなには内緒にしておきます」
「あ、言い忘れてた。そのマグロは青森であがったものだよ。いつ取ったかは忘れたけどね」
「え?」
(このマグロがいつ取れたものかわからない? いや、鮮度良かったしめちゃくちゃ美味しかったし)
俺は言葉を探すことにした。
だけど、なぜしゃぶしゃぶ用の土鍋があるのかわからない。俺は一人立ち上がり、テーブルに置かれているものを見る。
テーブルの上にはやはり刺身しかない。フグは別として、刺身は普通火を通すことなく生で食べるもの。
気になった俺は結人さんに尋ねる。
「あ、あの……」
「なにかな? 翔斗くん」
「刺身しかないのに、なんでしゃぶしゃぶ用の土鍋が?」
「んーー。それってどう受け取ればいいのかな? しゃぶしゃぶも食べたいってこと?」
「いや、そういうわけではなく……」
結人さんは亜空間を開き肉を取り出した。下ごしらえ済みの超薄切り肉。すぐにしゃぶしゃぶ用ということがわかった。
だけど、テーブルには置き場がない。俺は結人さんがどうするのかを推測してみる。
ひとつは刺身の皿を亜空間に入れて、メニューを総入れ替え。だけど、それでは刺身パーティ。否、刺身しゃぶしゃぶパーティが偏ってしまう。
すると、結人さんはしゃぶしゃぶ用の肉が乗った皿を宙に浮かべたまま停止させた。
「しゃぶしゃぶ食べたかったら、僕が皿移動させるから安心してねーーー」
「は?」
「この家での決まりだよ。皿の置き場がなかったら、空中にも置き場を作ればいい。ちょっと邪魔になるけどね」
「いやそういう問題じゃ……」
結人さんはかなりテンションが高い感じがした。今回の食事は刺身がメインなのかしゃぶしゃぶがメインなのかわからない。
大樹はフグの刺身を土鍋でしゃぶしゃぶして、軽く火を通して食べている。どうやら身が締まるみたいで気に入ったらしい。
そろそろ俺も刺身を食べようと思った時。また亜空間が開いた。今度は結人さんではなく景斗さんの亜空間だった。
そこからは赤貝やミル貝。牡蠣などが乗った貝類の皿。景斗はそれを刺身の乗っかった皿の上に乗せる。
「黒白様。これもお願いします」
「わかった」
そうして、ゆっくり宙に浮く貝類の皿。俺は挙手して赤貝をもらった。結人さんの魔法はかなり安定している。
それも昔から普通に普段使いしているくらいに、皿が停止している。移動させる時も速度を一定に保ち、上に乗ってる肉や貝類が落ちる気配すらない。
「結人さん。私も赤貝もらっていいですか?」
「大樹くんも貝類好き?」
「大大大好きです! あ、生牡蠣もください。あとは、マグロの刺身がちょっと遠いので近づけてもらってもいいですか? 大トロも中トロも好きなので」
「ふふ。食べ盛りっていいね。ちょっと待って順番に移動させるから」
「ありがとうございます!」
大樹の大食い癖が大爆発している。さすがは、未来ある陸上部。俺だったらそんなにたくさん食べられない。
大樹の目の前にあった刺身の皿はもう何も乗っかってなくて、そこに何があったのかもわからない。続けざまに大樹は……。
「結人さん。しゃぶしゃぶ肉いいですか? あと、取り皿も」
「はいはい。どんどん食べてねー。余っても亜空間なら長期保存効くから、無理しない程度に」
「はいっ!」
俺はまだ赤貝しか食べていない。刺身の皿が減ってきたタイミングで、結人さんが立ち上がる。
結人さんは亜空間から大マグロを取り出した。そこから大きい包丁を器用に使って捌いていく。
突然始まったマグロの解体ショー。複数本の包丁を使って3枚にして、そこから刺身として切っていく。
解体ショーは約30分程で終わった。手馴れた手付きで増えたマグロの刺身は、半身分を大樹の方へ。
大樹は皿から数枚取るとわさびたっぷりの醤油をかけて食べ始める。案の定ツーンときたらしく、渋い顔をして悶絶していた。
「翔斗くんは食べないのかな?」
「え、あ、はい。ちょっと普段の生活とかけ離れていて、困惑していただけで……。じゃ、じゃあ、大トロと、豚しゃぶを4枚……」
「了解」
すると、俺の目の前に豚しゃぶが乗った皿と大トロが乗った皿が飛んできた。ちゃんと取りやすい高さに停止している。
俺はそこから大トロを2枚。豚しゃぶを4枚取る。しゃぶしゃぶ肉は、土鍋で湯掻いて、しっかり火を通すとゴマだれとポン酢と混ぜたたれにくぐらせて口に運んだ。
甘くしっかりして、とろけていく豚肉。何ミリで切っているのか知りたいくらいに美味しい。
次に大トロを醤油につけて食べる。俺は小さい時から刺激物が得意ではなく、わさびは入れていない。
そうして、大トロを醤油煮絡ませる直前、結人さんが止めてきた。
「大トロはまず素材の味を楽しんでからの方がいいよ。醤油をつけずに食べた方が本来の味が楽しめるからね」
「は、はぁ……」
俺は言われた通り醤油をつけずに食べてみる。すると、ほんのり甘い香りが鼻腔を駆け抜けていって、口の中がお花畑になったような感覚になった。
とても美味しい。回転寿司で食べる大トロよりも美味しい。こんな思い出を作れるなんて、思ってもいなかった。
「どうやら気に入ったみたいだね」
「はい。こんな贅沢なメニューは群馬じゃありえないですよ。学校のみんなには内緒にしておきます」
「あ、言い忘れてた。そのマグロは青森であがったものだよ。いつ取ったかは忘れたけどね」
「え?」
(このマグロがいつ取れたものかわからない? いや、鮮度良かったしめちゃくちゃ美味しかったし)
俺は言葉を探すことにした。
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