27 / 72
兎と狼
第27話 野うさぎ確保
しおりを挟む(――まずは勢いをつけて……。一発目!!)
俺は野うさぎの身体で助走をつけて跳ぶ。できるだけ遠くに行きたい。俺がいた建物とアリスがいる建物は約300メートルから400メートル。
1回のジャンプで10メートル行けるのなら最低でも30回以上空中蹴をしないといけない。この小さい身体じゃあ、かなりの難易度だ。
でも、ケイがこの方法がいいって言ってくれたのだから。リーダーの意見は素直に聞いた方がいい。
『おい!! 空になにかいるぞ!!』
(視界に入った……。ここで一度ビーストモードを解除してすぐに使用。ジャンプ回数を回復させて空中蹴!!)
ビーストモードを解除。すると、身体の身軽さが消え、重力で下に落ちる。真下からくる風を感じながら、再び使用。
斜め上に跳び上がる。野うさぎ状態の身体はやっぱり軽い。だから、かなり遠くまで跳ぶ。
しかし1回の跳躍では5メートル行くかどうか。二足歩行状態での最高記録20メートルには届かない。
(もう少ししたらもう一度解除しよう。この身体の空中移動できる回数は……!!)
3回。できるだけ斜め上を狙って跳ぶ。
――システム起動。カケルにアバタースキルを付与します
(そんなの見てる暇ないんだ!!)
――空中跳躍のビーストモード時パッシブスキルを付与。真上への跳躍飛行距離を上乗せします。
(パッシブスキルってことは常時スキル? けど真上か……)
俺はそれを試すことにした。スキル未使用の真上跳躍距離は5メートルが限界。でもこの名前の無いパッシブスキルの効果はどれくらいなのか?
俺は一度ビーストモードを解いて、野うさぎに戻す。そして、真上に向かって跳んだ。すると、アリスのいる建物の屋根よりも上の方まで行った。
約40メートルだろうか? かなりの飛距離だ。これならすぐに助けられる。でも、真上限定というのがネックだった。
ここは滑空した方がいいけど。飛膜を持たない野うさぎでは、できたとしてもたんきょりしかできない。
逆パターンを使おう。野うさぎ状態で上空まで行って、人型アバターで滑空。それを繰り返す。
(4回目……)
(15回目……)
どんどんアリスのいる場所に近づいて行く。真下のプレイヤーはまるでサーカスを見ているんじゃないかという顔をしている。
「やあ、ロゼッタヴィレッジの皆さん。俺はアーサーラウンダーのメンバーカケルだ。あの姫君は俺の彼女でさ……」
ここはファンサ的なことでもして俺の方に注目を集めておきたい。きっと、今ケイたちが向かってるはずだ。
目にチリのようなものが入る。ゲームなのに空気中物質の再現度が高い。一瞬目を閉じ汚れを出そうとした時。俺の身体が何かで小さく跳ねた。
『捕まえたぞ!! あの少女は渡すものか!!』
「ッ!?」
どうやら民衆の1人に確保されたらしい。しかも、今俺は野うさぎの姿だ。まだ完全に意識操作ができないため、もがくことしかできない。
「カケル!!」
「アリス!! ゔっ……」
『カケルと言ったか……。ここでゲームオーバーになってもらう』
小さな俺の身体をギューっと押し潰そうとするロゼッタヴィレッジの幹部。ここで殺られる訳にはいかない。
しかし、俺はケイたちの助けを求めることしかできない。タウンエリアなのに体力が削られていく。
このまま終わってしまうのか? 俺はそっと目を瞑る。これは簡単な降参の合図。完全に放棄することにした。
こんな展開になるとは思わなかった。あとは祈るのみ。しかし、プルーンからアンデスまでは少し遠い。
加えて、ケイが俺の場所を特定できるかどうか? でも、あの紋章なら最善策が見えてるはず。
俺は仲間を信じる。ただひたすら待つ。誰かが俺の身体を宙に飛ばした。俺は目を開ける。
すると、暗がりの中少し低い位置に光る物を見つけた。
「カケル。おまたせ」
「ケイ!! やっぱり紋章を……」
「ごめん。これ使った方が楽に片付けられるから」
「それなら早く!!」
俺の援軍が到着した。ケイ右手の甲を見せると、一気にロゼッタヴィレッジのメンバーが彼の方を見る。
『あれって、ヤサイダーが言ってた謎の紋章を持ってるプレイヤーじゃないか?』
『しかも、一人は違うけど他メンバーも紋章を持ってるぞ!!』
『に。逃げろ!! 中央に立ってるプレイヤーは、ヤサイダーを一発で倒した化け物だ!!』
ビビりが多いもんだ。ケイたちが現れたことで、人の群れは痕跡残さずきえた。俺はビーストモードを解除して、アリスを助ける。
「ふぅ……」
「はぁ……」
なぜか沈黙……。そして。
「遅くなってごめん」
「いいや、俺の実力不足のせいだ。すまない……」
「違うって。僕が紋章の力を上手く制御できないから」
「何。自信無くしているんだよケイ」
そんな会話に、他メンバー全員が苦笑する。そういえば、まだ夕食を食べていない。俺たちは、案内所へ戻り一度ログアウトすることにした。
「今日の夕食はフォルテが作ってくれたから。楽しみにしてて」
「フォルテさん料理できるんだ……」
「魚料理が基本だけどね」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
VRMMOで神様の使徒、始めました。
一 八重
SF
真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。
「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」
これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。
「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」
「彼、クリアしちゃったんですよね……」
あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
男の妊娠。
ユンボイナ
SF
2323年ころの日本では、男性と女性が半分ずつの割合で妊娠するようになった。男性の妊娠にまつわるドタバタ喜劇を書いてみました。
途中、LGBTの人たちも出てきますが、性描写はないので苦手な方も安心して読めるかと(多分)。
いや、一応苦労してますけども。
GURA
ファンタジー
「ここどこ?」
仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。
気がつくと見知らぬ草原にポツリ。
レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。
オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!?
しかも男キャラって...。
何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか?
なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。
お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。
※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。
※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。
春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~
滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。
島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる