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兎と狼
第27話 野うさぎ確保
しおりを挟む(――まずは勢いをつけて……。一発目!!)
俺は野うさぎの身体で助走をつけて跳ぶ。できるだけ遠くに行きたい。俺がいた建物とアリスがいる建物は約300メートルから400メートル。
1回のジャンプで10メートル行けるのなら最低でも30回以上空中蹴をしないといけない。この小さい身体じゃあ、かなりの難易度だ。
でも、ケイがこの方法がいいって言ってくれたのだから。リーダーの意見は素直に聞いた方がいい。
『おい!! 空になにかいるぞ!!』
(視界に入った……。ここで一度ビーストモードを解除してすぐに使用。ジャンプ回数を回復させて空中蹴!!)
ビーストモードを解除。すると、身体の身軽さが消え、重力で下に落ちる。真下からくる風を感じながら、再び使用。
斜め上に跳び上がる。野うさぎ状態の身体はやっぱり軽い。だから、かなり遠くまで跳ぶ。
しかし1回の跳躍では5メートル行くかどうか。二足歩行状態での最高記録20メートルには届かない。
(もう少ししたらもう一度解除しよう。この身体の空中移動できる回数は……!!)
3回。できるだけ斜め上を狙って跳ぶ。
――システム起動。カケルにアバタースキルを付与します
(そんなの見てる暇ないんだ!!)
――空中跳躍のビーストモード時パッシブスキルを付与。真上への跳躍飛行距離を上乗せします。
(パッシブスキルってことは常時スキル? けど真上か……)
俺はそれを試すことにした。スキル未使用の真上跳躍距離は5メートルが限界。でもこの名前の無いパッシブスキルの効果はどれくらいなのか?
俺は一度ビーストモードを解いて、野うさぎに戻す。そして、真上に向かって跳んだ。すると、アリスのいる建物の屋根よりも上の方まで行った。
約40メートルだろうか? かなりの飛距離だ。これならすぐに助けられる。でも、真上限定というのがネックだった。
ここは滑空した方がいいけど。飛膜を持たない野うさぎでは、できたとしてもたんきょりしかできない。
逆パターンを使おう。野うさぎ状態で上空まで行って、人型アバターで滑空。それを繰り返す。
(4回目……)
(15回目……)
どんどんアリスのいる場所に近づいて行く。真下のプレイヤーはまるでサーカスを見ているんじゃないかという顔をしている。
「やあ、ロゼッタヴィレッジの皆さん。俺はアーサーラウンダーのメンバーカケルだ。あの姫君は俺の彼女でさ……」
ここはファンサ的なことでもして俺の方に注目を集めておきたい。きっと、今ケイたちが向かってるはずだ。
目にチリのようなものが入る。ゲームなのに空気中物質の再現度が高い。一瞬目を閉じ汚れを出そうとした時。俺の身体が何かで小さく跳ねた。
『捕まえたぞ!! あの少女は渡すものか!!』
「ッ!?」
どうやら民衆の1人に確保されたらしい。しかも、今俺は野うさぎの姿だ。まだ完全に意識操作ができないため、もがくことしかできない。
「カケル!!」
「アリス!! ゔっ……」
『カケルと言ったか……。ここでゲームオーバーになってもらう』
小さな俺の身体をギューっと押し潰そうとするロゼッタヴィレッジの幹部。ここで殺られる訳にはいかない。
しかし、俺はケイたちの助けを求めることしかできない。タウンエリアなのに体力が削られていく。
このまま終わってしまうのか? 俺はそっと目を瞑る。これは簡単な降参の合図。完全に放棄することにした。
こんな展開になるとは思わなかった。あとは祈るのみ。しかし、プルーンからアンデスまでは少し遠い。
加えて、ケイが俺の場所を特定できるかどうか? でも、あの紋章なら最善策が見えてるはず。
俺は仲間を信じる。ただひたすら待つ。誰かが俺の身体を宙に飛ばした。俺は目を開ける。
すると、暗がりの中少し低い位置に光る物を見つけた。
「カケル。おまたせ」
「ケイ!! やっぱり紋章を……」
「ごめん。これ使った方が楽に片付けられるから」
「それなら早く!!」
俺の援軍が到着した。ケイ右手の甲を見せると、一気にロゼッタヴィレッジのメンバーが彼の方を見る。
『あれって、ヤサイダーが言ってた謎の紋章を持ってるプレイヤーじゃないか?』
『しかも、一人は違うけど他メンバーも紋章を持ってるぞ!!』
『に。逃げろ!! 中央に立ってるプレイヤーは、ヤサイダーを一発で倒した化け物だ!!』
ビビりが多いもんだ。ケイたちが現れたことで、人の群れは痕跡残さずきえた。俺はビーストモードを解除して、アリスを助ける。
「ふぅ……」
「はぁ……」
なぜか沈黙……。そして。
「遅くなってごめん」
「いいや、俺の実力不足のせいだ。すまない……」
「違うって。僕が紋章の力を上手く制御できないから」
「何。自信無くしているんだよケイ」
そんな会話に、他メンバー全員が苦笑する。そういえば、まだ夕食を食べていない。俺たちは、案内所へ戻り一度ログアウトすることにした。
「今日の夕食はフォルテが作ってくれたから。楽しみにしてて」
「フォルテさん料理できるんだ……」
「魚料理が基本だけどね」
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