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兎と狼
第16話 アリスの可愛さ百科事典
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目的は決まった。俺たち4人は巨大カブトのいる場所へ歩きながら移動していた。やはりこの平原は広すぎる。アメリカもすっぽり入りそうなくらいに広い。
そんな中でも、ケイが全体の緊張をほぐすために色々話題を出してくれた。
「ヤマトさんはお仕事されているんですか?」
「仕事はしてないな。まだ高校生ってことなんだが……」
「それにしても、大人びた口調ですよね」
「そう、かもしれん……。ま、ゲーム内とリアルじゃ違うけどよ」
ヤマトさんって俺と同じ高校生なんだ。何年生だろ? 気になった俺も質問する。
「ヤマトさんは高校何年生なんだ?」
「高2だ」
「俺と一緒なのか……」
「ん? そなたも高2と?」
「そうだ。部活は陸上部。とはいえ、大会に出たことないけどな」
「なんと!!」
ヤマトは驚きとともに、左手のひらを右拳でぽんと叩く。なにか俺変なこと言った? 彼の思考がわからない。
それをよそ目にアリスはルンルン気分でスキップをしていた。彼女も彼女で緊張感がないのは、いいことなのか悪いことなのか。
「俺様も陸上部さ。特待生にもなってるから、そろそろ大学からスカウトされる頃だけどな!」
「と、特待生!? スカウト!?」
次元が違いすぎる。俺は遅れてるのか? どうしてそんな差があるんだ? 俺のどこの能力が低い?
このヤマトさんって人。もしかしたら……。
「学校は……」
「言えないな……」
「ですよね……」
俺はアリスの様子を見る。時々、地面にある花オブジェクトを引っこ抜いて、俺に見せて来たりしていた。
正直歩きづらいが、アリスのことだからなにも言わないでおく。俺もかなり花が好きで、名前はあまり知らないが、部屋に飾ったりとかもしていた。
「ねぇねぇ。カケル!!」
「なんだ? アリス」
「一応みんなにも聞くけど、なんでわたしのいる世界に入ってきたんですか?」
「「・・・」」
アリスの質問に沈黙する俺たち。みんな一斉に考え込み、歩く明日もピタリと止まった。そういえば俺。母さんに勧められたから始めたんだった。
特に理由も考えず、自分なりにアバターを選択するはずが、風邪のせいでランダムを選んでしまい今がある。
そう考えていると、ケイが切り出す。
「僕がこのゲーム。この世界に入った理由だけど、僕の場合サークルの一環でやっててね。夢はeスポーツ選手なんだけど……。自分の判断力向上や、プレイ技術。精神面の強化のために遊んでる」
「サークルの一環か……」
「うん。ちなみに、アーサーラウンダーのギルメンの、ラミア姉妹も元々はサークルメンバーだったんだ。今は僕がリーダーをしてるよ」
ケイはほんと忙しいんだなぁ。でも、サークルの一環でこのゲームをしているのは意外かも。サークルってボランティアのイメージが強いけど、趣味の集まりとかもあるんだ……。
次に口を開いたのはヤマトだった。言うことは決まってるらしく、半ばドヤ顔のような表情をしている。
「俺様はただ自由に遊んでるだけだ。普通のフルダイブゲームだと顔バレするが、このゲームは顔バレしないからな!! 家の決まりで身バレ厳禁なのさ。仕方ねぇが、今遊べるゲームはビースト・オンラインくらいだよ」
「そ、そんな理由で……。でもなんでライオン?」
「それはだな……。ただ単にかっこいいと思ったからだ。ガハハ。この鬣決まってるだろ?」
「は、はぁ……」
アバターはただ自慢したいだけだったらしい。でも、その気持ちはわかる気がする。俺だってヤマトみたいなかっこいいアバターを使いたかった。
でも、変更できない。この現実に何度もぶち当たって、どうすればいいのかわからなくなった。
そう、気持ちが落ち込んでる俺に、アリスがつんつん突っついてくる。見上げるように覗き込んでくるクリクリとした瞳は、とても可愛いかった。
こんなにも癒されるAIはあまりいないだろう。いくらホワイトゴブリンでも、愛嬌がありすぎて、暗くなった心もスッキリ洗い流される。
「カケルはなんでこの世界にきたの?」
「え……」
ついにきたか俺の番。特になにも考えてなかった。なされるがままに遊んでる俺に、このゲームでの理由はない。
でも、アリスはものすごく気になってるようだ。やっぱり俺のことが好きだからか? 可能性としては有り得るだろう。
俺は理由をとにかく探す。どうしても答えないといけないと言うのなら、どんなものでもいい。
そう思っていると、アリスが突然自分を指差してニカニカ笑った。どうやら、アリスは俺が遊ぶ理由として、自分を選んで欲しいようだ。
やっぱりまだ子供なんだなぁ。俺もまだまだバリバリの子供だけど。俺は、アリスを理由の一つとして加えることにした。
しかし、その時にはケイたちがものすごく先の方へ歩いていて、俺とアリスが追いかける形になる。
「アリス。俺に掴まって」
「うん!!」
兎アバターの強烈すぎる程の脚力で、追いかける俺とアリス。思ったよりも近かったので、さほど遅れることはなく、アリスが再びルンルン気分で歩いていると、彼女の身体が小さくバウンドした。
真後ろには焦げ茶色の壁。いや違う。俺たちが目的としていた、巨大カブトムシだった。
そんな中でも、ケイが全体の緊張をほぐすために色々話題を出してくれた。
「ヤマトさんはお仕事されているんですか?」
「仕事はしてないな。まだ高校生ってことなんだが……」
「それにしても、大人びた口調ですよね」
「そう、かもしれん……。ま、ゲーム内とリアルじゃ違うけどよ」
ヤマトさんって俺と同じ高校生なんだ。何年生だろ? 気になった俺も質問する。
「ヤマトさんは高校何年生なんだ?」
「高2だ」
「俺と一緒なのか……」
「ん? そなたも高2と?」
「そうだ。部活は陸上部。とはいえ、大会に出たことないけどな」
「なんと!!」
ヤマトは驚きとともに、左手のひらを右拳でぽんと叩く。なにか俺変なこと言った? 彼の思考がわからない。
それをよそ目にアリスはルンルン気分でスキップをしていた。彼女も彼女で緊張感がないのは、いいことなのか悪いことなのか。
「俺様も陸上部さ。特待生にもなってるから、そろそろ大学からスカウトされる頃だけどな!」
「と、特待生!? スカウト!?」
次元が違いすぎる。俺は遅れてるのか? どうしてそんな差があるんだ? 俺のどこの能力が低い?
このヤマトさんって人。もしかしたら……。
「学校は……」
「言えないな……」
「ですよね……」
俺はアリスの様子を見る。時々、地面にある花オブジェクトを引っこ抜いて、俺に見せて来たりしていた。
正直歩きづらいが、アリスのことだからなにも言わないでおく。俺もかなり花が好きで、名前はあまり知らないが、部屋に飾ったりとかもしていた。
「ねぇねぇ。カケル!!」
「なんだ? アリス」
「一応みんなにも聞くけど、なんでわたしのいる世界に入ってきたんですか?」
「「・・・」」
アリスの質問に沈黙する俺たち。みんな一斉に考え込み、歩く明日もピタリと止まった。そういえば俺。母さんに勧められたから始めたんだった。
特に理由も考えず、自分なりにアバターを選択するはずが、風邪のせいでランダムを選んでしまい今がある。
そう考えていると、ケイが切り出す。
「僕がこのゲーム。この世界に入った理由だけど、僕の場合サークルの一環でやっててね。夢はeスポーツ選手なんだけど……。自分の判断力向上や、プレイ技術。精神面の強化のために遊んでる」
「サークルの一環か……」
「うん。ちなみに、アーサーラウンダーのギルメンの、ラミア姉妹も元々はサークルメンバーだったんだ。今は僕がリーダーをしてるよ」
ケイはほんと忙しいんだなぁ。でも、サークルの一環でこのゲームをしているのは意外かも。サークルってボランティアのイメージが強いけど、趣味の集まりとかもあるんだ……。
次に口を開いたのはヤマトだった。言うことは決まってるらしく、半ばドヤ顔のような表情をしている。
「俺様はただ自由に遊んでるだけだ。普通のフルダイブゲームだと顔バレするが、このゲームは顔バレしないからな!! 家の決まりで身バレ厳禁なのさ。仕方ねぇが、今遊べるゲームはビースト・オンラインくらいだよ」
「そ、そんな理由で……。でもなんでライオン?」
「それはだな……。ただ単にかっこいいと思ったからだ。ガハハ。この鬣決まってるだろ?」
「は、はぁ……」
アバターはただ自慢したいだけだったらしい。でも、その気持ちはわかる気がする。俺だってヤマトみたいなかっこいいアバターを使いたかった。
でも、変更できない。この現実に何度もぶち当たって、どうすればいいのかわからなくなった。
そう、気持ちが落ち込んでる俺に、アリスがつんつん突っついてくる。見上げるように覗き込んでくるクリクリとした瞳は、とても可愛いかった。
こんなにも癒されるAIはあまりいないだろう。いくらホワイトゴブリンでも、愛嬌がありすぎて、暗くなった心もスッキリ洗い流される。
「カケルはなんでこの世界にきたの?」
「え……」
ついにきたか俺の番。特になにも考えてなかった。なされるがままに遊んでる俺に、このゲームでの理由はない。
でも、アリスはものすごく気になってるようだ。やっぱり俺のことが好きだからか? 可能性としては有り得るだろう。
俺は理由をとにかく探す。どうしても答えないといけないと言うのなら、どんなものでもいい。
そう思っていると、アリスが突然自分を指差してニカニカ笑った。どうやら、アリスは俺が遊ぶ理由として、自分を選んで欲しいようだ。
やっぱりまだ子供なんだなぁ。俺もまだまだバリバリの子供だけど。俺は、アリスを理由の一つとして加えることにした。
しかし、その時にはケイたちがものすごく先の方へ歩いていて、俺とアリスが追いかける形になる。
「アリス。俺に掴まって」
「うん!!」
兎アバターの強烈すぎる程の脚力で、追いかける俺とアリス。思ったよりも近かったので、さほど遅れることはなく、アリスが再びルンルン気分で歩いていると、彼女の身体が小さくバウンドした。
真後ろには焦げ茶色の壁。いや違う。俺たちが目的としていた、巨大カブトムシだった。
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