上 下
11 / 72
兎と狼

第11話 人質になった少女

しおりを挟む
 電脳空間の海を潜って、セーブポイントのプルーンのきた俺は、速攻でアリスを探した。ちゃんと生存しているだろうか?
 集落には街灯はなく薄暗い。テントの光以外での光源は、ゲーム内での移動不可オブジェクトとしてある再現で作られた月明かりくらいだ。

「アリス?」
「カケル!!」
「よかった……」

 名前を呼んですぐに駆け寄ってくるアリス。元気そうでよかった。そんな彼女に今日の出来事を聞く事にした。

「なあ、アリス。今日は何してたんだ?」
「えーとね。フォルテとバレンとわたしの3人で戦闘練習してた」
「そうか……」
「カケルは? なんか目が泳いでるよ?」
「え?」

 そういえば確かに焦点が合ってない。できるだけ現実世界の有栖とは別人と認識するように意識をしているが、何故かできない。
 お姉さんキャラの有栖と違って、ホワイトゴブリンのアリスは妹キャラ。
 どっちも俺の好みだが、片方選べと言われたらきっと選べないだろう。

「あ、カケルにちょっと見せたいものがあるの。待ってて」

 そう言ってアリスは一人テントの方へ戻っていった。俺は、どう反応するのがAIにとって正解なのか? を考える。
 出されるものの内容にもよるが、素直に喜ぶのがいいのか。それとも少し批評して落としてから受け取るのがいいのか?
 しかし、それは起こった。

『カケル!! 助けて!!』
「アリス!?」

 テントの中からアリスのSOS。俺は走って駆け付けると、サイの姿をしたアバターがアリスを拘束していた。

「おまえ、アリスをどうする気だ!!」
「それよりも、名乗るのが先じゃないかしら? 貴方翔斗よね?」
「ッ!?」

 このサイ。俺のことを知っている? しかもこの口調。この声。聞いたことがある。それは、俺が通ってる学校での話だ。


 ******


「あたしとタッグを1回以上――」


 ******


「もしや、おまえ。坂東美玲!?」
「その通り。なかなかフレンド申請が来ないから、直接来てあげたわ」
「それよりも、アリスを返せ!!」
「へぇ。この子がゲーム世界のアリスなのね……。ただのゴブリンじゃない」

 俺は彼女のプレイヤー名を見る。そこには"アウトヤサイダー"と書かれていた。ダメな野菜のサイダー? 正直飲みたくもない。
 アウトヤサイダーというプレイヤーは、アリスにランスを突きつける。サイのアバターの
主武器はランスのようだ。
 しかし、そんな悠長に考えてる暇はない。俺はすぐにケイからもらったグローブを装備する。

「へー。兎アバターはグローブなのね。それで武器固定なの知ってたかしら?」
「そんな……」

 そんなの知らない。知ってたけど知らない……。つまり、兎アバターって? そうか、だからバレンは俺を無能って言ってたのか!

「カケル。惑わされないで!!」
「残念だったわね。アリスちゃん。彼にはもう既に彼女がいるのよ。貴方と同じ有栖って子がね……」
「そんな……。そんなの嘘だよ……。カケルが嘘をつくはずがない!!」

 アウトヤサイダーの発言にアリスが取り乱す。でもなんでこんな名前なんだ? アリスのことよりも、坂東先輩のネーミングセンスの悪さに困惑する。

「カケル!! 本当のこと言って!! あなたの世界にありすって人はいるの!?」
「すまない……。それは本当だ……。でも、2人とも好きなんだ!! だから、美玲!! いや、アウトヤサイダー。今すぐアリスを解放してくれ!!」
「貴方。この私がすぐに返すと思ってる?」

 アウトヤサイダーが挑発してくる。もうアウトヤサイダーって考えるだけで吹き出しそうだ。ここからはヤサイダーって呼ぶことにしよう。
 そうしているうちにも、ヤサイダーは怪人みたいにアリスを人質にしたまま。俺は至近距離戦しかできない。

「相当戸惑ってるようね……。なら、これならどうかしら? みんな出てきなさい!!」
「!?」
『イェッサー!!』

 ヤサイダーの号令で、全てのテントからプレイヤーが出てくる。それも全員集落に住んでるゴブリンを身動きが取れない状態にしていた。
 人数はざっと30人から40人。対してこっちは俺一人。圧倒的に不利すぎる。それにヤサイダーは俺がまだ初心者プレイヤーということを知っている。

『番長!! こいつらどう処刑しますかね?』
「とりあえずそのままで頼むわ、決して怪我をさせないようにしてちょうだい」
『イェッサー!!』

 アリスはホワイトゴブリンの要的存在。失ったら全員が悲しむ。俺はそんなことをさせたくない。だが、戦闘能力も安定していない無力な俺では、助けられない。
 ここには【アーサーラウンダー】のメンバーがいない。合流時間まであと5分もある。この勢力差に俺は戦意喪失していた。
 そうして、助けられないと思って崩れ落ちそうになった時……。

「ったく、これは一体どういう状況なんだ、アァン!?」
「カケル、何があったのか説明できるかな?」
「【アーサーラウンダー】最強部隊登場!! てな!!」

 この3人の声は……。俺はすぐさま後ろを見ると。まず見えたのはケイの顔だった。そして、その後方には、長いクローグローブを着けたバレンとフォルテ。

「誰よ? アーサーラウンダー? 聞いた事のない名前ね……」
「そうかな?」

 ケイは俺から離れると、ヤサイダーのところへ詰め寄る。

「フォルテ、バレン。戦闘態勢へ移行!」
「おうよ!」
「喧嘩売ってるやつはとことん買いまくるってもんだ。覚悟しとくんだな!! コラァ!!」

 バレンがものすごい喧嘩腰で挑発する。これには敵プレイヤーも怖気付いたみたいだ。だけど、ヤサイダーはビクともしない。

「みんな。相手はたった2人よ。勝機はまだあるわ!」
『で、ですが……。彼らはあの伝説のギルドっすよ!!』
「伝説のギルド?」
『ゲーム界で無敵のプレイヤーと呼ばれる、ルグアが設立したギルドっすよ。そのメンバーは全員が最強。勝ち目は無いに等しい……』
「ぅぐあ!! グチグチ言わない!! さっさと対峙しなさい!!」
「は、はい……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

男の妊娠。

ユンボイナ
SF
2323年ころの日本では、男性と女性が半分ずつの割合で妊娠するようになった。男性の妊娠にまつわるドタバタ喜劇を書いてみました。 途中、LGBTの人たちも出てきますが、性描写はないので苦手な方も安心して読めるかと(多分)。

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥
SF
スキル制VRMMORPG<Life Game> それは自らの行動が、スキルとして反映されるゲーム。 そこに初めてログインした少年アキは……、少女になっていた!? 路地裏で精霊シルフと出会い、とある事から生産職への道を歩き始める。 ゲームで出会った仲間たちと冒険に出たり、お家でアイテムをグツグツ煮込んだり。 そんなアキのプレイは、ちょっと人と違うみたいで……? ------------------------------------- ※当作品は小説家になろう・カクヨムで先行掲載しております。

処理中です...