4 / 72
兎と狼
第4話 カケルとアリス
しおりを挟む
――数分後
俺とアリスは集落の端っこで横に並んで座っていた。集落にはたくさんのテントが置いてある。どれも迷彩柄で、完全に森に溶け込ませていた。
AIにも警戒意識はあるらしい。隣にいるアリスも時どきビクビクと震えていた。恥ずかしくて緊張しているのか。それとも俺が怖いのか?
それは彼女にしかわからない。でも、彼女は深く深呼吸すると、にこやかな表情で語りかけてきた。
「カケル!」
「何? アリス」
今ではお互い緊張が解け、俺も彼女を呼び捨てにするまでになった。
異人種がこうして交流するのはあまりない。なぜかアリスも俺の事を気に入ったようだ。
俺は気にしてないが、アリスは最初驚いただろう。俺が彼女を好きになってしまったのだから仕方がない。
「カケル!」
「だからなんだよ……」
「人参食べる?」
「俺割と肉食派なんだが……」
「でも兎なんでしょ?」
「それのなにが悪い?」
このAIは返答が上手い。テンプレしか話さないやつよりもマシに感じる。だけど、どうやら、相手はだんだん俺に似ていくらしい。
アリスがおサボりマンの俺みたいになったらどうしよう。だけど、咳やくしゃみと無縁の世界にきたけど、バトルと言えるバトルをしていない。
「じゃあ、わたしと行ってくる?」
「いいのか?」
「もっちろん。わたしの魔法はホワイトゴブリン界一位なんだから」
彼女はなんかわからないけどやる気満々だ。俺も一緒に参戦しよう。ここはデートみたいにして、バトル中心で距離を縮めて……。
その後俺がアリスを助けて。キュン展開にさせて、もっと距離を縮めて。とにかくゲーム世界だけでいいから、恋人関係まで繋げたい。
「カケル。変なこと考えてるでしょ」
「い、いや、考えてないけど……」
「絶対考えてた。ぜーーーったい考えてました!」
「考えてないって……!」
どういうわけかこのAIには誤魔化しが効かないようだ。俺は考える。どういいわけしようか考える。こういう時はどうすればいいんだっけ?
「月が綺麗だな……」
「あーーー。気を逸らした!!!!」
「すまん。考えてたのは本当だ。君を一生俺の彼女にしたい」
「え? そんな些細なことだったの?」
「些細?」
「うん」
こんなんがアリスにとって些細なのかよ……。俺の思考バグってるわ。最初から言えば良かったのに……。
それはさておき、アリスは一人森の奥へと消えていった。俺は急いで彼女を追いかける。兎アバターは走るのも速い。
視界もよく。駆け抜ける感覚が非常に気持ちいい。もしかしたら結果オーライだったかもしれない。俺はアリスを探す。
すると、どこからか焦げた臭いが鼻を突いた。近くで火事が起こっているのか? 俺はその臭いがする方へ向かう。
木が燃えている。誰がやったのかは知る由もない。これは自然破壊だ、ゴブリンの森を脅かす災害だ。いや人災。亜人災?
俺はとにかく走る。高い木は兎にしかできない異常なまでの跳躍力で飛び越え、上空からもアリスを探す。
まもなくして、シダ植物が見えてきた。ここは古代林なのだろうか? 森と言ってもたくさん種類がある。
その中でも、いかにも恐竜時代を思わせる多くのシダ植物が生い茂る古代林。ゴブリンの森は古代林にあったようだ。
相変わらず俺は気づくのが遅い。
「カーーーケーールーーー!!」
「アリス!?」
アリスの声がする。俺は声のした方へと近づいていく。そこにはキラービーに襲われるアリスの姿があった。
敵キャラは虫系統らしい。残念ながら俺は虫が大の苦手で、ゴキブリでさえ腰を抜かしてしまうほど。
だけど、今は違う。状況が違う。俺の大好きなアリスをキラービーが殺そうとしている。俺は意を決してキラービーを倒すことにした。
両手が震える。リアルな意味で心臓がバクバク言ってる。でも、そういうのは無理やり押し込んでしまおう。ポジティブシンキングで行った方がいい。
「ラビットフィスト! 最大出力!」
俺はアリスに一番近いキラービーをストレートでぶち抜く。『グギャ』とちっちゃい声に少し悲しくなったが、アリスを襲っている敵はあと10匹。
仲間に助けを呼びたいが、それじゃあかっこいい所を見せられない。
「右! 左! 右!」
できるだけ一発で。そして、何とかアリスの解放に成功すると、俺は彼女の能力を見ることにする。本当に俺にふさわしいか確認するためだ。
「アリス大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃああとは任せた」
「了解。サーマルエクスプロージョン!」
アリスの詠唱で空一帯が真っ赤に染まる。これは火属性魔法か? このゲームにも魔法の要素があるのはありがたい。
とてつもない勢いで収縮する空間。その内側に熱を持ったなにかが見える。それはやがて膨張し、轟音とともに大爆発した。
最初からこうしとけばいいのに。そんなことは置いといて。こうして俺とアリスの第1回バトルデートが終わった。
「さて帰ろっか」
「ううん。帰らない」
「なんで?」
「あのね。あのキラービーが作る蜂蜜が欲しいの」
「蜂蜜?」
「正確には巣蜜と言って、蜂の巣を切り取った蜜の部分が欲しい。あれ、パンにつけると美味しいんだよね」
そんなんでキラービーをエンカウントしてたのか。俺は理解が追いつかなかった。現実世界では蜂蜜にした状態の容器を買うのが普通だ。
巣蜜なんて蜂駆除隊が食べるくらいだろう。リアルでも探すのが苦労しそうだけど。そんなに食べたいなら俺も行く。
ところで蜂はお尻の動きで場所を伝えるみたいだけど、その動きがアリスにとっては可愛いらしい。
アリスは迷うことなく巣があるという場所へと歩を進めた。俺もあとを追いかける。古代林にも蜂が暮らしてる。
ますますゲームの時代の世界観がわからなくなってきた。なんせ、集落の名前がプルーンだ。そういえば最近プルーン食べてない。
「カケル。着いたよ」
「ありがとう……って、巣がデカすぎるんだけど!?」
俺とアリスは集落の端っこで横に並んで座っていた。集落にはたくさんのテントが置いてある。どれも迷彩柄で、完全に森に溶け込ませていた。
AIにも警戒意識はあるらしい。隣にいるアリスも時どきビクビクと震えていた。恥ずかしくて緊張しているのか。それとも俺が怖いのか?
それは彼女にしかわからない。でも、彼女は深く深呼吸すると、にこやかな表情で語りかけてきた。
「カケル!」
「何? アリス」
今ではお互い緊張が解け、俺も彼女を呼び捨てにするまでになった。
異人種がこうして交流するのはあまりない。なぜかアリスも俺の事を気に入ったようだ。
俺は気にしてないが、アリスは最初驚いただろう。俺が彼女を好きになってしまったのだから仕方がない。
「カケル!」
「だからなんだよ……」
「人参食べる?」
「俺割と肉食派なんだが……」
「でも兎なんでしょ?」
「それのなにが悪い?」
このAIは返答が上手い。テンプレしか話さないやつよりもマシに感じる。だけど、どうやら、相手はだんだん俺に似ていくらしい。
アリスがおサボりマンの俺みたいになったらどうしよう。だけど、咳やくしゃみと無縁の世界にきたけど、バトルと言えるバトルをしていない。
「じゃあ、わたしと行ってくる?」
「いいのか?」
「もっちろん。わたしの魔法はホワイトゴブリン界一位なんだから」
彼女はなんかわからないけどやる気満々だ。俺も一緒に参戦しよう。ここはデートみたいにして、バトル中心で距離を縮めて……。
その後俺がアリスを助けて。キュン展開にさせて、もっと距離を縮めて。とにかくゲーム世界だけでいいから、恋人関係まで繋げたい。
「カケル。変なこと考えてるでしょ」
「い、いや、考えてないけど……」
「絶対考えてた。ぜーーーったい考えてました!」
「考えてないって……!」
どういうわけかこのAIには誤魔化しが効かないようだ。俺は考える。どういいわけしようか考える。こういう時はどうすればいいんだっけ?
「月が綺麗だな……」
「あーーー。気を逸らした!!!!」
「すまん。考えてたのは本当だ。君を一生俺の彼女にしたい」
「え? そんな些細なことだったの?」
「些細?」
「うん」
こんなんがアリスにとって些細なのかよ……。俺の思考バグってるわ。最初から言えば良かったのに……。
それはさておき、アリスは一人森の奥へと消えていった。俺は急いで彼女を追いかける。兎アバターは走るのも速い。
視界もよく。駆け抜ける感覚が非常に気持ちいい。もしかしたら結果オーライだったかもしれない。俺はアリスを探す。
すると、どこからか焦げた臭いが鼻を突いた。近くで火事が起こっているのか? 俺はその臭いがする方へ向かう。
木が燃えている。誰がやったのかは知る由もない。これは自然破壊だ、ゴブリンの森を脅かす災害だ。いや人災。亜人災?
俺はとにかく走る。高い木は兎にしかできない異常なまでの跳躍力で飛び越え、上空からもアリスを探す。
まもなくして、シダ植物が見えてきた。ここは古代林なのだろうか? 森と言ってもたくさん種類がある。
その中でも、いかにも恐竜時代を思わせる多くのシダ植物が生い茂る古代林。ゴブリンの森は古代林にあったようだ。
相変わらず俺は気づくのが遅い。
「カーーーケーールーーー!!」
「アリス!?」
アリスの声がする。俺は声のした方へと近づいていく。そこにはキラービーに襲われるアリスの姿があった。
敵キャラは虫系統らしい。残念ながら俺は虫が大の苦手で、ゴキブリでさえ腰を抜かしてしまうほど。
だけど、今は違う。状況が違う。俺の大好きなアリスをキラービーが殺そうとしている。俺は意を決してキラービーを倒すことにした。
両手が震える。リアルな意味で心臓がバクバク言ってる。でも、そういうのは無理やり押し込んでしまおう。ポジティブシンキングで行った方がいい。
「ラビットフィスト! 最大出力!」
俺はアリスに一番近いキラービーをストレートでぶち抜く。『グギャ』とちっちゃい声に少し悲しくなったが、アリスを襲っている敵はあと10匹。
仲間に助けを呼びたいが、それじゃあかっこいい所を見せられない。
「右! 左! 右!」
できるだけ一発で。そして、何とかアリスの解放に成功すると、俺は彼女の能力を見ることにする。本当に俺にふさわしいか確認するためだ。
「アリス大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃああとは任せた」
「了解。サーマルエクスプロージョン!」
アリスの詠唱で空一帯が真っ赤に染まる。これは火属性魔法か? このゲームにも魔法の要素があるのはありがたい。
とてつもない勢いで収縮する空間。その内側に熱を持ったなにかが見える。それはやがて膨張し、轟音とともに大爆発した。
最初からこうしとけばいいのに。そんなことは置いといて。こうして俺とアリスの第1回バトルデートが終わった。
「さて帰ろっか」
「ううん。帰らない」
「なんで?」
「あのね。あのキラービーが作る蜂蜜が欲しいの」
「蜂蜜?」
「正確には巣蜜と言って、蜂の巣を切り取った蜜の部分が欲しい。あれ、パンにつけると美味しいんだよね」
そんなんでキラービーをエンカウントしてたのか。俺は理解が追いつかなかった。現実世界では蜂蜜にした状態の容器を買うのが普通だ。
巣蜜なんて蜂駆除隊が食べるくらいだろう。リアルでも探すのが苦労しそうだけど。そんなに食べたいなら俺も行く。
ところで蜂はお尻の動きで場所を伝えるみたいだけど、その動きがアリスにとっては可愛いらしい。
アリスは迷うことなく巣があるという場所へと歩を進めた。俺もあとを追いかける。古代林にも蜂が暮らしてる。
ますますゲームの時代の世界観がわからなくなってきた。なんせ、集落の名前がプルーンだ。そういえば最近プルーン食べてない。
「カケル。着いたよ」
「ありがとう……って、巣がデカすぎるんだけど!?」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
VRMMOで神様の使徒、始めました。
一 八重
SF
真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。
「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」
これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。
「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」
「彼、クリアしちゃったんですよね……」
あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
男の妊娠。
ユンボイナ
SF
2323年ころの日本では、男性と女性が半分ずつの割合で妊娠するようになった。男性の妊娠にまつわるドタバタ喜劇を書いてみました。
途中、LGBTの人たちも出てきますが、性描写はないので苦手な方も安心して読めるかと(多分)。
いや、一応苦労してますけども。
GURA
ファンタジー
「ここどこ?」
仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。
気がつくと見知らぬ草原にポツリ。
レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。
オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!?
しかも男キャラって...。
何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか?
なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。
お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。
※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。
※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。
春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~
滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。
島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる