インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

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第3章 150年の月日

第48話 ソロの楽しみ(WM53年)

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  矢を射る。やはり上手く当たらない。連射する。弓自体が連射に対応していないようで、楽しくなる。

「明理さん、ちょっと使い方がぎこちなく…………」

「まあな。今まで使ってなかったからさ。でも、感覚は思い出してきた」

 次に無理やり連射をしてみた。すぐにコツを覚え、得意の接近戦にもちかける。

「え、遠距離武器でそこまで近づいたら…………。適正距離で戦ってください!!」

「ん? 私のプレイスタイルは、全武器接近戦だ。それ以外の戦い方はやったことがない」

 私は、敵に近づき弓の先で斬りつけたあと、身体を捻って魔法で矢1本手に取ると、すぐさま発射させる。

 バックステップで少し距離をおき、今度は矢を10本生成。ペン回しをするように、1本ずつ手の平で移動させ、連射。

 飛んでいく矢は、全てヘッドショットを決めていく。だが、やはり最弱武器だ。いくらヘッドショットでも、矢1本ではとどめを刺せない。

 2本目、3本目。5本目でやっと1体撃破。敵を倒すよりもHPの減りが早く、間に合わせるために、とにかく連射を極め続ける。

 敵の隙を突き、再び接近戦にすると、今度は矢と弓で交互にダメージを与え、振り向いたタイミングで後退。至近距離で矢を当てる。

「明理……さん…………。速い……。ひっきりなしに矢が飛んで…………」

「私には普通だ。それにこの武器気に入った。イベント中は弓でプレイする。君、名前は?」

「れ、礫斗《レクト》です。けど、なぜ名前を聞いたんですか?」

「それはだな…………。私のギルド、【アーサーラウンダー】に入らないか? 歓迎するぜ」

 ぽかんと口を開ける少年レクト。私の誘いよりも、戦い方に驚いたようで、棒立ちになる。

 会話をしているのに素早い射撃。減速しない移動速度。疲れの見えない真剣な表情。私も気づいていたが、負荷に負けない集中力に、不思議な気持ちで満たされていた。

「わわ、わかりました!! レクトも、明理さんのように強くなりたいです!! ぜ、ぜひ、入らせてください!!」

「そうか。んじゃ。私のギルドへようこそ!! 他メンバーにも伝えておく。改めて、私は【アーサーラウンダー】の団長、ルグアだ。呼ぶ時はルグアでもいいぜ。まあ、強制はしねぇから、好きにしてくれ」

「はいっ!! では、ルグア団長と呼ばせてください!!」

(まさかの、"団長"かよ……。ま、いいか……)

「よろしくな、レクト」

 そして、少年の意向で、一緒に行動することになった。


 ◇◇◇30分後◇◇◇


「初めまして、ルグアの兄のルクスです。レクトさん、まずは初級編からということなので、最初に俺が教えますね」

「えっ!? ルグア団長。これって……」

「ちょうど、レクトとルクスの戦闘能力が一緒だから、少しの間2人で行動してくれ。私が教えると難易度が高すぎるからな」

「ということなので、よろしくお願いします」

 やる気満々のルクスと、予想を裏切られたレクトに背を向け、新たな戦場に向かった。


 レクトを兄のルクスに預け、私は地下より深い深海洞窟にいた。深海洞窟は視界が悪く……、というより真っ暗で何も見えない。

 これも、私には関係ないことだが……。なぜなら、目で見るよりも勘と風の流れだけの方が、スムーズに攻略できるからだ。

「えーと、次はここの角を曲がって…………。突き当たりに雑魚モンスターが…………」

 ぶつぶつと声に出して、暗闇の中を進む。やがて見えてきたのは、ウミガメを模した水生生物。

 よく目を凝らすと、水の膜を境に海になっていた。だが、真っ暗なのは変わらない。泳ぎが得意で良かった。

 私は、水の壁を突っ切って、海の中に飛び込んだ。スクリーンに表示される酸素ゲージ。本格的なマリンバトルが始まった。

 水中では身動きが取りづらい。でも、それが楽しい。片手で泳ぐ時は左を使うので、左で水を掻きながらウミガメに接近する。

 HPはカナダで戦った時のままで、半分に削られた状態。回復は一切していない。理由は、回復したら面白くないからだ。

「もう少しで、ヒットエリアに…………」

 ヒットエリアは、矢などが命中しやすい場所。合っているかは知らないが、勝手にそう呼んでいる。

 泳いで少しずつ距離を縮めていく。勘と水の流れが、位置関係を教えてくれるので、ヒットエリアで矢を放つ。

 ゆっくり前進する矢は、水の抵抗に負けて減速を始めると、一歩手前で停止した。どうやら、水中というのが裏目に出たようだ。

 けれども、私はレクトからもらった弓一つで乗り切ると決めた。今になって、剣に変えたら意味がない。

 さらに近づいて接近戦へ。そして、至近距離まで行くと、矢を剣に見立てて切り裂く。

「手応えあり…………か……。レクトも言ってたが、確かに適正距離の方がボーナスダメージが発生する。けど、今回のバトルは、攻撃魔法も使うか……」


 ――マジックガトリング!! 疾風《はやて》!! ラピットフルファイア!!


 高速発射される貫通弾。もちろん、外れることなく全て命中。ウェンドラに追加で頼んだことで、魔法発動時攻撃力を1桁にしてもらっていた。

 魔法攻撃力と魔法発動時攻撃力は、少しだけ違いがある。魔法攻撃力は、魔法全体の攻撃力で、数値が高ければ強い。対して魔法発動時攻撃力は、発動直後の初撃ダメージの威力。

 魔法攻撃力は変動が少ないが、魔法発動時攻撃力は1つ上下しただけで、全てが変わってしまう。

 それだから、乱射をしている。しばらくの間、射撃魔法を常時展開させたまま、洞窟の中を進み続けた。
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