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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第43話 WWMの魔法

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「お客様です。どうやら、魔法関連のようです」


 主のいない家に、ガロンが帰ってきた。


「お邪魔します。ルグアさんはいらっしゃいますでしょうか?」

「モードレさんは、今外出中です。あと17秒ほどで、帰ってくるはずなので、少しだけ待っていてほしいです」


 ガロンは、一人の女性を連れて、客室に入る。女性は脇に、大きな巻物スクロールを抱えていた。

 何が書かれているのかは、わからない。お目当てのルグアは、2時間前から、新しい依頼を攻略中。

 今回は外国からの依頼で、ドラゴン討伐だとか。ドラゴンと言っても蛇竜のようで、大きさは日本1つ分らしい。

 加えて、ソロで戦いに行っているため、出発の勢いが凄かった。

 なぜなら、家が半壊しかけたのだから。その後、すぐに修復されたが……。

 彼女は、一人で攻略となると、ものすごく張り切っている。とても、生き生きとしている。

 敵が強いと、無理しているのではないか、というくらい激しくなる。


「ルグアさん。大丈夫でしょうか?」


 バルコニーに立つセレスが、心配そうに、空を見つめた。


 ◇◇◇2時間前 ロシア中央部◇◇◇


「思ったよりでけぇな、こりゃ。ガロン達には、日本1つって言ったが、その倍はありそうだ」


 自身の身長と比べものにならない蛇竜は、ただの蛇だった、奈良県のモンスターより、竜らしさがあった。

 竜といえば、有名な漫画が存在するが、それの反転色と考えれば、想像しやすいだろう。


「まずは、お手並み拝見。それから本気でぶっ倒す!!」


 エルフの羽根で宙に浮き、ストレージから愛剣を取り出し、左手に持つ。

 事前にフェンリルに頼んでおいた、レベル50000・限界突破回数600回・重量計測不能の化け物になり始めた〈クリムゾン・ブレード〉だ。

 私の体重の何倍も重い剣は、体勢を崩すためのものになっていた。だが、対応する、させるコツも掴んだ。

 以前は、剣を私自身に合わせていたが、今回は私自身を剣に合わせる。

 剣の重さに身を任せ、わざと体勢を左に傾けた。そして、空気の壁を蹴り飛ばし、遠心力で回転斬りを繰り出す。

 縦横無尽に切り裂き、コンボを重ねる。敵も火炎を吹き、鋭爪えいそうで引っ掻き回し、私は身体で受けながら、真っ向勝負で挑む。

 楓……。いや、ウェンドラに書き換えてもらった、負荷に耐えながらのバトルは、難易度が高い。

 負荷が強ければ強いほど、その分本気になれる。規格外すぎる思考回路が、私の身体を突き動かす。


「これで!! ラスト……だ!!」


 ◇◇◇現在◇◇◇


「ただいま。今帰ったぜ」

「おかえりです。お客様がいるので、よろしくです」

「了解」


 家に帰ってすぐに客対応、誰が来たのか楽しみになる。私は、そのまま、客室に向かった。

 部屋には、一人の女性が椅子に座っていた。


「はじめまして、あなたがルグアさんですね。このゲームの魔法研究をしているルミナです。よろしくお願いします」

「こっちこそよろしくな。んで、話ってのはなんだ? 新クエか?」
 

 新しい依頼なら、喜んで引き受けるのだが……。


「いえ、あなたが使う魔法が気になりまして…………」

「んで、ルミナだったか? 私の魔法がどうした?」

「それはですね。ルグアさん……、噂で、ほとんど発声詠唱をしていないと聞きまして……。どこまで魔法を知っているのかを…………。これが、現在存在する魔法です」


 ルミナは、客室の隅に立て掛けられた、スクロールを持ってくると、床一面に開いた。

 書かれていたのは、4万文字はあるだろう、術式の表。すでに、ここまであるとは、想像もつかなかった。


「ルミナ、これ全部でいくつあるんだ?」

「約900個です。ざっと4万6000字ですね。これら全てを揃えるのに、ゲーム内で30年以上かかりました」

「そりゃ、ご苦労なこったぁ。でこれを、全て暗記しろと……」

「いえ、そういうわけでは…………」

「おもしれぇじゃん。数日で終わらせてやるよ」

「そんなの、できるはずが…………」

「できちまうんだよ!! これが。えーと、この魔法が……」


 スクロールに食いつき、私は文字列を頭に叩き込む。同時進行で、短縮術式も生成。10分に5つのペースで覚える。


 ◇◇◇翌日◇◇◇


「おーい、ルミナいるか?」

「はい、今行きます。どうかしたんですか?」

「暗記終わったぜ!! ついでに、短縮術式も生成済みだ!! 今から魔法で書き起すから、ちぃと待ってろ」

「嘘……でしょ。私でも30年かかったのに…………、ありえない」


 ――E級魔法 マジックペインティング!!
 ――G級魔法 メモリーロード!!
 ――C級魔法 オブジェクトトレース!!
 ――A級魔法 オブジェクトリアライズ!! 同時展開!!


 無言詠唱するごとに、のしかかる負荷。耐えて耐えて、発動に成功。

 白紙のスクロールが生成され、コピーから実体化。そこに、新たな文字が書き記される。


「よし!! これが短縮術式だ。ざっと2万文字だな。文字数半分以下にしといたぜ!!」

「夢じゃないですよね? しかも、声に出さずに4つの魔法を」

「どうだ!! 脳への負荷が半端なかったが…………。別に同時詠唱で、全魔法も発動可能だ。無言でさ」


 魔法には、階級が存在。

 一番下から、C級、E級、B級、A級、G級、Z級、Z+級。そのうち、Z+級は特異点だけが使用できる、シークレット魔法だ。

 また、階級が設定されていない魔法もある。というのは…………


 ――マジックガトリング!!


   すなわち、魔法火炎弾の連射攻撃。私の得意技でもある。なぜ、階級が設定されていないのかというと……。


「実は、マジックガトリングを測定しようとしたら、測定器ぶっ壊した。結果測定不能」

「そんなこともあるんですね。測定器を破壊する人は、初めて見ました」

「ま、あの後、しっかり修復したけどな。魔法でさ」

「それで、ルグアさんはなぜ無言詠唱を? コツとか…………。脳への負荷とかも」

「ああ、そのことか……。わかった」


 ◇◇◇リアルでは◇◇◇


「キャップ、聞こえてますか?」


 明理の自宅アパートで、ガサゴソと作業をする、一人の男性。


「何かね? 宗田くん。作業の方は?」

「順調に進んでいます。先程、彼女のヘッドギアの周波数を、変更する準備が終わりました。あと室田です」

「そうか、なら500倍を基準に、今は50000倍に、設定してもらえないか?」

「わかりました」


 ◇◇◇ルグアの自宅◇◇◇


「…………うっ?! マジかよ?! こんなん聞いてねぇぞ!!」

「急に、大丈夫ですか?」


 定期的に与えられる、一ヶ月おきの脳への代償ダイレクトダメージ。

 それが、今までより何百倍も強力な負荷が、脳に伝わる。常人なら、死んでいるだろう、その威力は、ゲーム機が出せる周波数を超えていた。

「……うぅ!? や、やべぇ!! 痛い!! けど、なんか…………。やっぱし、痛てぇ…………」

「本当に、大丈夫ですか?」

 悶絶する私に、ルミナが問いかける。普通なら、大丈夫ではない。だが、私は馴れ始めていた。

「……ああ、もう……大丈夫だ。心配させてすまなかったな」

 そして、話が終わり、長い年月が去り、ゲーム内で150年が過ぎていた。
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