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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第40話 剣撃と拳撃

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「もしかして、ぼくに合わせているんですか?」

 基本の動き、縦・横・斜めの攻撃を繰り返す私に、ルナが尋ねる。

「そうに決まってるだろ!! ”けん”は”けん”でも、拳撃けんげきしかできないお前の剣術は、半人前それ以下だ。
 長期戦で拳を使うと微量の反動ダメージを受けるし、単体と戦うわけではないから、その分的にされやすい。
 加えて攻撃範囲が狭いから、ダッシュで攻撃しても一方向、多くて二方向が限界。対して、剣は横にスライドさえすれば、複数の敵に攻撃できる。
 まあ、私の場合は、どちらでも問題ないんだが…………。状況に合わせて対応できる、マルチスタイルが一番ってことだな」

「ちょ、長文…………お疲れ様です……。大変勉強になりました……」


 ルナが、引いている。ちょっと熱が入りすぎてしまった。これだけ、ゲーム好きになってしまったから、なのだろう。

 小学5年の時に友人の誘われ、半分イヤイヤでプレイして、攻略本と勘で操作しただけで、すぐにクリア。

 ハンティングゲームではなかったが、最速に近いタイムを出せば、周りから人が消えていく。

 当時はゲームの知識は0だった。その後、簡単すぎるゲームが嫌いになり、知識を得ようとしないまま、遊ぶのをやめた。

 しばらくして、高校退学後に引っ張り出したゲーム〈ゾンビハント〉がきっかけで、再びゲームを始めた。

 デバイスの種類も変化を続け、操作方法も複雑に。攻略本を読んで攻略したが、不具合の関係で断念。

 別のゲームも同じだったが、気付かないうちに、攻略本を読まなくなった。

 つまり、勘だけでプレイするようになったわけだ。

 ゲーム内では口調を変えて、至近距離のスリリング感を気に入り、適正武器以外での近接戦闘をするようにもなった。
 そして、知らぬ間に有名人となり、審査会社からも依頼が来て、ゲームにのめり込む生活。

 当たり前になっていた。嫌いなゲームを自ら難易度を上げて、縛りプレイをしては、最速タイムをたたき出す。

 一度離れた人は、なかなか戻って来ない。でも今は、兄や努、親友といった新しい仲間がいる。

 思い返せば、そのおかげで少しゲームが好きになれた。友は類を呼ぶ。類を呼べば福も来る。

 だが、全て上手くいくとは…………、限らない。


「アンゲーマー、大丈夫ですか? 顔色が、あまり優れてないように見えますが…………」

「すまん、ちぃと考え事をだな。さ、ビシバシすっから着いてこい!!」

「……は、はい!!」


 不安な気持ちを押し殺して、剣技をレクチャーする。できるだけルナのペースに合わせて、一撃一撃を的確に。


 ――ブギュ!?


(虫が倒れた時の|効果音SEにしては、なんか違うよな)

「アンゲーマー、突然手を止めて、どうしたんですか?」


 さっきから、ルナに質問されてばかりだ。理由は、気になる点が、たくさんあるからなのだが……。

 まあ、気にしすぎもあまり良くない。ルナはとても筋がよく、基本の振り方も力強くなった。

 ただ、実践編に入った途端、群がる敵に対して、1体ずつ倒す癖が表に出てしまい、振り払うだけで刃は空を斬るだけ。

 毎回私が助け出しては、レクチャーを見せる。下界にいる住民のこともあるため、ざっと900垓以上の虫を、一閃で1000兆分の300万消す。

 私1人なら、あっという間に片付く数だが、今は現在進行形で指導中。

 教え子に、手を抜くわけにはいかない。


「ルナ。剣の特長は、大勢の敵に対して対応しやすいこと、攻撃範囲=腕の長さ+剣の長さでダメージ判定がある。今回の場合、敵が密集していることから、横スライドで広範囲に斬れば、複数体同時に倒せる」


 ここまで説明すると、溜めを行わずに、群れへ向かって刃を真横に動かす。


 ――ブギュッ!!


 少し違和感がある声と一緒に、深緑色のポリゴンが、粉雪のように降り注ぎ、はかなく消える。


「なるほど、ぼくは今まで、狭く見過ぎてたみたいです。それに、横の動きがイマイチ納得できないので、コツを教えて下さい。アンゲーマー先生!!」


(妙に変化したな……、っていうか呼び方長くなってねぇか? ”先生”は必要ないだろ!! ……ん? いや待てよ?
 私が教えてやってんだから、間違ってはいない。まあ、いいか…………)


「わかった。んじゃ、始めるぞ!! まずは…………。この剣に向かって、一度横斬りをしてくれ」


 私は、〈クリムゾン・ブレード〉を縦に真っ直ぐ構え、護りの体勢をとる。

 ルナも意味をわかったようで、剣の中央目掛けて振り抜く。確かに、剣の動きは強くなっていて、後ろに押される感覚もある。

 しかし、最初は良かったが、途中で刃が斜めに傾き、斬るより叩いている感じだった。


「手首と、腕の動きが原因だな…………。横の場合、今は手首を固定した方がやりやすい。さっきのでわかったのは、手首のスナップを入れようとした時、横ではなく縦に持ち上がっていた。スナップは、どちらかというと、応用に近いしさ。加えて、腕が縮んでいる。なあ、ちょっといいか?」

「…………はい」


 私は、ルナの右手首を掴み、


 ――マークバインド


 拘束魔法をかける。部分的な拘束なので、一時的に固定したのと同じ。


「…………これって。あれ? 手首が動かない」

「動かないんじゃない。そういう風にしたんだ。この状態で、ある程度水平に振れるようになってから、スナップを使うといい。スナップを使う場合は…………」


 私は、身体が回転しないように腰を固定し、スナップを効かせて振り抜く。


「こんな感じになる。君の手首を固定した理由としては、腕を真っ直ぐに動かすことを、できるようにするためだ」

「わかりました。やってみます」


 そして、ルナは素振りを始める。手首を固定しているため、剣は上を向いたままだが、解除すると、重さで自然に横を向く。

 私は、虫を少しずつ一掃しながら、彼の成長を見届けた。
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