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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第37話 狂気の来訪者

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『…………ねぇ、あの人。魔女の生まれ変わりだよね?』


 今日はなんだか外が騒がしい。


『……多分そうだと思う。ほら、ギルドの家に入って行くわ……。なんか、恐怖でしかない…………』


 早朝から外が騒がしい。そして、その中で1番騒がしいのは…………。


「りんり~ん♡ 紹介したい人が来たよ~♡」


 藍である。藍の本名は船岸藍。双子の妹だ。となると、


「お初にお目にかかります。藍の姉、プレイネーム・ウェンドラこと、船岸 かえでです」

 やはり、この紹介だった。だが、嫌な予感がする。


「私はルグア、リアルネームは巣籠明理。よろ…………」


 念のため名乗ると、
 

「…………死んで。この世から消えて。ルグアのせいで、世界書き換えが不可能になった。だから、排除する」

「お前、今なんて言った?」


 急に、口調が変わったのだ。


「殺す。ルグアが……。明理が〈レコード・ノート〉にイタズラしたせいで、世界はめちゃくちゃになった」

「はぁ?」


 楓が話しているのは何のことやら、


「さっぱりわかんねぇんだけど……。やった覚えないし。ってか、〈レコード・ノート〉ってなんだよ?」

「しらばっくれないでください。二世界最初の特異点、”世界創造”を持つ自分には、過去や未来、全てが見えているのです」


 どうやら、それが理由らしい。でも、思い当たることが一切出てこない。

 それより、謎が多すぎだ。ルグアは黙り込み、藍は右へ左へ目をきょろきょろさせる。

 まずは、〈レコード・ノート〉。ノートは普通のノートだろうが、”レコード”が付いてる点に、気になってしまう。

 ”レコード”は、確か”記録”という意味だったはず。つまり、記録帳。文字通りの名前だ。

 だが、”過去や未来も”となると、普通ならどこかしらに”ヒストリー”が入るのでは?

 中学校時代、沙耶華に教わった英単語を思い出しながら、細かい指摘を頭の中に巡らせる。

 そして、彼女が最初の特異点であること。特異点はゲーム内だけのものだと思っていた。

 ”二世界”とはきっと、現実リアル仮想バーチャルの、2つのことだろう。

 となると、確かに最初の特異点で間違えないようだ。理由としては、ゲーム内のみ発動できる、私やゼアンと違い、リアルでも発動・反映されるようだ。

 その間、楓はおもむろに剣を手に取り、


「これは、貴方が精錬した物ですか? ルグアの剣。見た目は綺麗ですが、威力はどうでしょう? そこに立っていてください」


 批評を言うと、躊躇うことなくルグアの胸に突き刺す。どこまで、私を嫌っているんだ。

 ゲームのため、血しぶきに見立てた、赤く微小なポリゴンが流れ出る。

 私の特性なのか、痛みは気になるほどではない。それを察したのか、楓は一度引き抜き、禍々しいオーラを纏うと、再び胸に突き刺した。


「…………うっ!?」


 1回目とは違う、威力変化。HPゲージも大きく削れる。


「やはりね。さっき、貴方の〈レコード・ノート〉を書き換えたわ。貴方の残りの生命時間を……」

「…………ふーん。それは気になるな。けど、この場所には友人が多いんだ。話すなら、せめて別のとこにしようぜ」


 ルグアは、脳内で強烈な痛みをかき消し、楓の腕を掴む。そして、勢いよく飛翔すると、光の城ダンジョンに向かった。


 ◇◇◇光の城ダンジョン郊外◇◇◇


 遠くにガーディアンが見える、静かなサバンナ地帯で、私は高度を下げる。


「…………残り時間、現実世界で6時間40分、ゲーム内では400年。1年過ぎ去ったと同時に、脳へ一定数の負荷がかかり、信号送受信パルスの電磁波で焼かれ死亡」

「突然、何言ってんだ?」

「貴方の行く末です。これで貴方の運命は確定しました」

「私の生命時間のタイムリミット追加したってか? そんなん、私には関係ねぇよ」


 殺害予告…………なのだろう。だが、1年ごとに一定数は物足ない。負荷をかけるなら、もっと頻度を多くして欲しい。


「なあ? 1ヶ月ごとに負荷の威力を強くしてくれないか? それと、魔法使用時の負荷を5000倍、被ダメ時の負荷を60000倍にさ。反映は100%で頼む」


 常人には考えられない思考回路に、失笑してしまうが、刺激は強い方がいい。


「正気ですか? それでは脳が耐えきれない。早死する気なのですか? 自分は……、どうでもいいことですが…………」


 そんな私に、楓はそっぽを向き、吐き捨てる。


「…………よしっ……と、ついでに、ゲーム機の安全装置のリミッターを解除した。これで、本格的にプレイできるな。ほら、やってくれよ」

「忠告を無視、ですか。…………ほんと、命知らずなのですね」

「まあな」


(少し前の会話は、芝居なんだよなぁ~。中学生の時、演劇部で正解だったぜ。加えて、なんでも話してすぐ行動する、藍の情報も)


 ◇◇◇それは、昨夜のこと◇◇◇


「ねぇねぇ、りんり~ん。明日、ウチのお姉ちゃんが来るんだけど…………、はい、これ!!」

「な、なんだよ?! ノート?」


 手渡された本をめくると、今まで起きた出来事が、書かれていた。そして、ノートを藍に返す。


「これ、ガデっちの部屋に、置いてあったんだよねぇ~」

「ちょっ!! それは、まずいだろ? 大事なやつの可能性もあるんだぞ!! しかもガデルって、1番やばいじゃないか!!」

「でも筆跡から、最近書いた文字だと思うけど……」


 確かに、文字の色はとても濃く、はっきり見える。擦れて薄くなった形跡もなかった。


「でも、そういう問題じゃないだろ!!」

「えーとぉー。『ルグアは○○○倍にも耐えられる』。それからぁー、『ここに書いた内容は、対象者とガデル以外誰も知らない』……っと」

「勝手に書き込むな!!」


 私は激怒し、藍が持つノートを奪い取る。だが…………、


「ん~? 何ぃ~? ウチ書いてないよ~♡」


 藍はとぼけて否定した。これはもしやと、ノートを読み進めると、書かれた通りになっていたようだ。


(これは使えるな。次の出来事は…………)


 ――ペラリ……。ペラリ……。ペラリ……。


(そうなるのか……。んじゃ、ここに……、こう書きたして…………、隠蔽すれば…………。んで、誰にも見つからないように、サブストレージの中へ。……っと)


 ◇◇◇そして、現在◇◇◇


(私の仮想ストレージは、楓が書き換えても開けない。パスワードロックが20個付いてるからな)

「わかりました。では、貴方の宣言通りにしておきます。まあ、即死は免れませんが…………」

「ああ、よろしく頼む!!」


 楓は何も気付いていない。ルグアが、中学生の時の記憶を、全て消したから……。

 私の行動・発言が、全て演技というのも、気付いていない。作戦は順調だ。

 もちろん、ガデルが続きを書けるように共有もしている。さらに、私が書いた内容の流出防止等、対策済みだ。

 あとは、このまま上手く動けば、問題ない。高確率で、チェックメイト、楓は詰んで終わりになる。


(この物語、面白くなりそうだぜ!! あとは頼んだ!! ガデル!!)


 ◇◇◇◇◇◇


「…………ぶえっくしょん!! 風邪でもひいたかな?」


 自室にこもるガデルは、目をしょぼしょぼさせながら、ノートを取り出す。


「…………さて、今日の執筆を始めますかね」


 袖で涙を拭い、表紙に手をかけ筆を取る。


 ――ペラリ…………。


「何? この記述は?! 見覚えも書き覚えもないんですけど!! 加えて、書き直しもできないんですけどぉ!! って、ん~?」


 そこに書かれていた言葉。それは、ルグアからの伝言だった。
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