インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第35話 未確定の団長、特異点の魔法

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「結成から1年経ちましたが、団長を決めていませんでしたよね?」


 セレスが、ボソリとそのようなことを呟く。思えば指示者はルグアが基本的に行っていたが、統一者は決めてなかった。

 勘では、やはり自分#__ルグア__#になると言っている。でも、その間に何かしらのハプニングが起こることも、このメンバーでは否定できない。

 なぜなら、約1名が…………。


「はいはーい!! ウチだんちょ~やりたーい♡ どう? どう?」


 一人騒がしくはしゃいでいたからだ。藍は、やりたい放題で、みんなを困らせる。


「そうだな……。でも、めんどくさいことばっかだぞ? 私は、ギルマスやったことはないが、内容は覚えている」

「それじゃあ……、教えて~!!」

「ちょ、くっつくな!! 気色悪い……。いくら元クラスメイトでも、やり過ぎだぁ~あぁ~。うぉっとっ!? あぶねぇ~」


 寄ってたかって剥がれない藍に押され、危うく一緒に精錬かまどへ入るところだった。

 つい最近も、剣を作ったいたため、火の気が残り、時間が経った今でも2000度以上の熱がある。

 このゲームの鉱石は、6000度で、ようやく溶けるものが多く、規格外のルグアならまだ大丈夫だが、いくら異名持ちでも、常人の藍は全損しかねない。

 ルグアは、かまどに踏み入れた瞬間、藍を勢いよく突き飛ばし、反動で熱気漂う炉の中に倒れ込む。

 じわじわと伝わる高温の風。少しずつ減少するHPゲージ。それより前に、狭い空間の居心地の良さに、普通ではない感覚を覚える。


「モードレさん大丈夫ですか? 早く出た方がいいですよ?」


 ガロンが心配そうに私を見つめる。確かに、本来なら誰もがそう思うだろう。

 けれども、なぜだかこの安心感が、藍に対する自身の怒りを鎮める。だんだん、ここから出たく無くなった。


「その……。私は、ここで会議に参加してもいいか? なんかわかんねぇけど、落ち着く」

「…………アハハ、……了解です。では、本題に移るので、皆さん準備して欲しいです」

「「はい!!」」


 ガロンの合図で、一斉に部屋の角に移動する。ルグアは、炉の中から手だけを出すと、


 ――G級魔法、ラウンドテーブル、展開!!


 と、思考内で唱え、1つ繋ぎの円形の机を、広いリビングに出現させる。

 みんなはそれぞれの席に座り、ガロンが議題の用紙を配り始めた。


「モードレさんは、大丈夫ですよね。念のため渡しますが、燃やさなようにして欲しいです」

「ああ、わかってる。サンキュー」


 資料には、藍が知りたがっていた、ギルマスの役割等、様々な情報が記されていた。

 文書作成者はルグア、複製者はガロンの共作だ。一人3枚の用紙を確認し、意見を交換。

 藍には難しい内容だったようで、机に突っ伏していびきをかく。

 約1時間の会議は、ハプニングが少なく、ルグアは、団長兼司令官として活動。

 秘書にセレスとレーナが選ばれ、副司令官にルクスが就任。

 地方担当は、北海道がノアン、東北地方が藍、関東地方が努、中部地方がガロン、近畿地方がノンノ、中国地方が彰、四国地方にガイア、九州にルナ。

 各地方の現状維持に関わるメンバーとなっている。ルグアが常時情報提供を行い、地方担当が偵察することになった。


◇◇◇◇◇◇


「あ、熱い。部屋も暑いし、常に武器精錬していたからか、炉の温度はレベルが違いすぎる」

「モードレさん、本当に大丈夫なんですか?」

「…………はぁ、まーた心配されちまった。私としたことが…………。事実と言えば事実なんだけどさ」


 燃え盛る小部屋――精錬かまどの中――で寝転がり、ルグアは背筋をピンと伸ばす。

 触れる身体の面積分、約1万度の高温が肌や衣服を、漆黒に焦がした。

 彼女にとっては、天国であり地獄でもある、精錬かまどの炉の中。

 外気温とは9986度差だ。炉の外に出た途端、悪寒がよぎる。まあ、ここで耐えているのも、ありえない状況なのだが……。

 通常なら、HP全損。リアルなら骨の髄まで灰にして、その灰すらも消えてしまう。

 けれども、ルグアはなぜか例外のようで、HPも数ドットしか減っておらず、いまだ健在。

 この件に関して、頼りになる人といえば…………。


「おーい、ゼアンいるか?」

「これはこれは、お呼びのようで。はて、何用ですか? モードレ様」


 この人しかいない。


「例のあれ、もっと詳しく教えてくれないか? というか、特異点専用スペルの技名、先決めようぜ!! そんな使ってねぇけど、毎回術式詠唱すんの、めいどいからさぁ……。わりと長ぇし、言うの恥ずいし」

「そうですか。わたくしは気にはしていませんが…………」


 ルグアの唐突な切り出しと切り替えに、ゼアンは首を傾げる。


「実はだな。一応ネーミング候補は決まっているんだ」

「それは、どのようなお名前で?」

「まず、ゼアンのやつ。あれ、見た感じアンデットだよな? 効果範囲は狭くて、すぐに道が塞がる。突破口を開けば、多少変わるだろうが、一種の壁だった」


 確かに、一瞬で終わらせたが、度々ブレーキをかけていた。かけざるを得なかった。なので、


「〈アンデットラビリンス〉。ルクスにも協力してもらって決めた。アンデットは死者の亡霊…………」

「続くラビリンスは、迷宮……でしょうか?」

「ああ。んで、私はそれに合わせて、〈ジャッジメントラビリンス〉だ」

「”審判の迷宮”…………」


 これだけではない。クリムに聞いたところ、ルグアの特異点には、個々に災害を発生させることができる。


「だから、津波を〈オーシャン〉。台風を〈フロル〉。雷撃を〈レイ〉。溶岩流を〈サージ〉。そして、私のオリジナル〈ヒール〉にした」

「なるほど。ですが、溶岩流がサージというのは、接点が想像できませんねぇ…………」

「……だろうな。ルクス!! ちょっと説明頼む!!」


 部屋の掃除をする兄に、声をかけると、そそくさとゴミをはしに寄せ、かまどの近くにやってきた。


「俺が、サージを選んだ理由ですね。ゼアンさんは、火砕サージを知っていますか?」


 火砕サージ。昔、ポンペイという都市を襲った火砕流で、近くにそびえる、ヴェスヴィオ山の噴火で起こった自然災害。

 これは、日本でも同じことがあり、群馬県と長野県にまたがる浅間山が、日本のヴェスヴィオ山、嬬恋村等近辺の村が、日本のポンペイだとか…………。


「という理由で、サージにしました」

「なかなかのネーミングセンス。意味があると納得できる」

「だろ?」


 ルクスの説明にゼアンは頷き、ルグアは自慢げに、にやりと笑う。


「あくまでも、俺が決めたので、ルグアは関係ないんだけどね」

「ルクスに、一票入れさせてもらおう」


 目の前の2人は意気投合、弾かれたガロンは、ルクスの代わりにほうきを持ち、ルグアはぼんやり眺める。

 彼女を狙う人が、訪ねるとも知らずに…………。


 ◇◇◇一方リアルでは◇◇◇


「キャップ、ターゲットの部屋に侵入成功しました。今から改造を開始します」

『了解した。素体に危害を与えぬよう、作業してくれ』

「そんくらい、わかってます。じゃあ、切りますよ。キャップ」

『うむ!!』


――プチン…………、トゥー……、トゥー……、トゥー……。


 とある部屋に潜り込んだ、一人の男性。その近くに横たわるのは、巣籠明理だった。
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