インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第34話 受注クエスト:武器素材収集

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{連絡、連絡。みんな聴こえてるか?}


 私の得意技になりつつある無言通信魔法は、日に日に進化を遂げていた。


{ガイアです。メンバーの藍、セレス、彰、4人全員目的地の三重県に到着しました}


 真っ先に返信がきたのは、革収集チーム。


{はい、こちら鉄鉱石他収集担当、高知県のルクスです}


 続いて、兄のチーム。兄の他にゼアン、ガロン、レーナ、ノアンも一緒だ。


{こちら努。しっかり聴こえています。メンバー全員無事に鹿児島県に到着しました}



 ゲームの世界では、鹿児島でも鉱石を入手できるため、派遣した。メンバーというのは、ノンノ、クリム、ルナの3人。



{ルグアさんが来る前も、このように遠距離通信をしてましたが、鹿児島と東京で繋ぐのは初めてです。それに、ノイズも全くない。 by.努}

{そりゃどうも。私は満足できてないけどな}


 離れた場所で、このような会話をしている理由は、ただ単に採集がめんどくさくなったから……。

 ではなく、ルグアは武器錬成に集中するため、東京に残っている。


 素材が集まったら、こっちに転送してくれ!!}


{{了解しました!!}}



◇◇◇数分後◇◇◇



「フェンリル。だんだん、素材が集まってきたな。そろそろ作業に入るか…………」

「そうですね。武器ランクは、20でしたっけ?」

「ああ」


 目の前には積み上げられた大量の原石と、革。ルグアは、原石を加工可能な鉱石に変える作業に入る。

 と言っても、無言詠唱で一瞬なのだが。鉱石組は順調のようで、絶え間なく送られてくる。

 革も、魔法を使えばあっという間に増やせるが、ルグアの場合作りすぎてしまう。


「私の魔法は時に便利だし、時に理不尽なくらい不便なんだよな」

「いいじゃないですか、自分も使ますが、能力値レベルが低いので……、是非使ってください」

「良いのか? んじゃ早速」


 ルグアは、革の山から一枚選び出し、裏で個人的に作った巨大シェルターに移動すると、部屋の中心に置く。

 倍加魔法の効果を、かなり控えめに設定して脳内で詠唱を開始。直後、一枚の革はコピーされるように増えていく。

 控えめのため、効果時間も短い、薬草の時は説明してなかったが、ただ倍加させただけでは、数分後に元の枚数に戻ってしまう。

 それも、効果範囲が狭ければ狭いほど、持続時間も短い。実体化させるには、別の魔法が必須となる。

 今回は、全体100%のところ、ルグアの能力値の関係もあり、2%の力で使用しているため、効果時間は、たった20秒しかない。

 普通に考えれば、十分なくらいの時間だが、実体化魔法は詠唱に時間がかかることで、有名らしい。

 そのため、ルグアは特殊な式を薬草収集の時に、1秒ほどで生成、成立まで行い同時詠唱で反映させている。

 後に彼女は、このゲームの魔法に詳しい人物に出会うのだが、それは遥か先の話。

 ルグアは、実体化リアライズした革を抱え、シェルターの外に出た。


「フェンリル、用意してきたぜ。おっ!? 収集組も相当集めたようだな」

 まるで、占領されているような散らかりっぷりに、ルグアは感心した。

「さて、さっさと片付けて整理しますかね。0.005秒で……」

「というと?」

「はい、終わり。やっぱ、魔法便利だな。めんどくせぇことも一瞬でケリがつく」


 部屋の両角りょうすみに、原石と洗浄前の革。それぞれの内側に、鉱石と洗浄後の革で敷き詰められ、空間が広くなる。

 向かい側には、フェンリルが精錬した剣が数本。このままだと素材が増える一方で、溢れ返ってしまう。


「例の質問はあとで話す。私も手伝うから、一本持って行ってもいいか?」

「何をされるんですか?」

「精錬するなら同レベルのやつがいいだろ? 私の場合、少ない素材で、強力な武器を生成できる。これだと、フェンリルの剣と同等のものを作るのは難しい。だから、素振りに行って、威力を試してくる。それだけだ」

「そうですか。わかりました。どれくらいで戻りますか?」


(ゲームで普通そこまで……。まあいいか)


 ルグアは自身の能力値を計算すると、


「最速5分で戻る」

「わかりました」


 問いかけに答え、ルグアは外に出た。


◇◇◇5分後◇◇◇


「帰ったぜ。平均攻撃力とダメージ量、重さ全て叩き込んできたから、一旦代わってくれ」


 そのように、鉱石を剣へと鍛えるフェンリルに伝える。フェンリルは、快くその場から離れると、疲れが溜まっていたのか、ルグアのベットに横たわった。


 ――ガコーン……。ガコーン……。ガコーン……。


 私が、フェンリルのために用意した、精錬かまどで金属を軽く溶かし、硬くならないうちに叩いて鍛える。


 ――ジュゥゥゥ……。


 時々冷水で冷やし、形状を確認。同じ工程を何度も繰り返す。

 精錬で魔法を使うと、威力に差が生まれてしまうという、デメリットがある。

 ルグアでも、成すには多くの時間を要するため、集中力を限界まで高めて作業に励む。


 ――ガコーン……。ガコーン……。ガコーン……。ジュゥゥゥ……。


 やはり、最初は上手くいかない。これは、すでに把握しきっていたことだ。

 経過も、想定の範囲内で進んでいる。もちろん、呑み込みの早い彼女は、格段にペースを上げていく。


 ――ガコーン……。ガコーン……。ガコーン……。ガコーン……。ガコーン…………………………。


 四六時中、地下拠点に響き渡る、精錬の音色。それは、途絶えること無く、約1週間続いた。


◇◇◇1週間後◇◇◇


 ――ガコーン……。ガコーン……。ガコーン……。


「ルグア先輩、ただいま戻りました。精錬の方は…………」


 真っ先に部屋に入ってきたルクスは、予想を裏切る光景に、目を見開いて固まった。

 ルグアの背後に積み上げられた素材の山。魔法で飛んでいく鉱石。随時製錬されていく無数の原石。

 響き渡る鍛錬の音色。向かい側には、綺麗に並べられた数万本の剣。

 これら全て、ルグアが作ったというのは想像できるが、サイクルを1人で一定に保っているのは、意外だった。

 わかる範囲では、5種類以上の術式を無言詠唱で行っているはず。
 そんなこと、できっこない。

 だが、それを簡単に成功させるのが、妹のルグア……。否、巣籠明理なのだ。

 フェンリルに聞いたところ、1週間の間座ったままで、一睡もしていないらしい。

 よくそんな無茶ができる。兄としての心配で不安な気持ちは、サラサラと積もる塵のように、膨らんでいく。


「おっ!! 帰ったか。おかえりルクス。鉱石がちぃと足りなそうでな、今、倍加魔法も使っているんだ。合計で10種類魔法を展開させている」

「そうなんですね。……いや、それより体調は…………」


 顔を上げ、こちらを窺うルグアには、疲れの兆候が何一つ感じられない。

 1週間寝ていないように思えないのも、不思議だ。積もった塵も風でふわりと吹き消される。


「ああ、そのことか。安心してくれ。一応仮眠はとっている。まあ、3、4回ほどだが…………」

「それなら良かったです」

「心配してくれてありがとな。陸兄」


 そして、目標の本数を超えて、一斉に配布された。ルグアとフェンリルが作った剣は、紛れもなく上等品。

 威力の差はほぼ0に近く、重さも変わらない。やがて人気を博し、世界中から依頼がくるようになった。

 時間の流れは早く、1年が過ぎ去った。
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