インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

文字の大きさ
上 下
33 / 48
第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第33話 受注クエスト:エネミー雪崩警戒区域

しおりを挟む
――とは言ったものの…………。


「りんり~ん♡ どこまで歩くのぉ~?」

「なんで、お前だけ着いて来てんだよ!!」


 私の背中を追ってくる藍に、力強いツッコミを入れて、ため息をつく。

 藍はどうしても、私の近くに居たいらしい。自分の本音は、1人で素早く終わらせたいのだが、そう簡単にはいかないようだ。


(まあ、藍がどこまで着いていけるのか、試してみるか…………全てはそこからだな)


 ルグアは、藍を残して最大加速の5000倍速で駆け抜ける。目的地は、青森県の津軽地方。

 今回は、飛行船等を使わずに徒歩で移動していた。理由は、基本ソロで活動するのが1つ、もう1つは、乗り物扱いにされたくないという、自分のわがままである。

 ルクスやセレス、努たちは、しっかり受け止めてくれたが、約1名話を聞かない人がいた。

 そう、問題児の藍のことだ。彼女は、確かに戦いの腕はとても良い。でも、この案件、建物や自然等への被害を最小限に抑えるという難題付き。

 爆破魔法と投擲しかできない藍には、相性が最悪だった。そのため何度も、拒否の弁を述べたが、勝手にくっついてきたわけだ。


(ま、普通の徒歩じゃ6日以上かかるから、その頃には解決するだろうし……)


 等倍速から×5000倍。舗装されていないゲーム内では6日以上かかる旅路も、数分で踏破できるスピード。

 白神山地を通り過ぎると、モンスターで溢れ返った村を見つけた。

 向かって正面に、村長らしき高齢男性が手を振っている。


「ルグア様!! こちらでございます。どうかお助けを…………」


 ボロボロに破れた衣服を身につけていることから、絶大な被害に見舞われているようだ。

 ルグアは、ボールのように転がる生き物を指差し、こう問いかけた。


「じいさん、敵はあのアルマジロみたいなやつか?」

「ええ、そのモンスターです。名前は〈アナグリム・ノワール〉。最近繁殖力が増して、手に負えなくなり、依頼しました」

「そういうことだったのか…………。ん? うわやべっ!? 拠点に武器置いて来ちまった。なにか代わりになるものは…………。じいさん、素手で戦ってもいいか?」

「構いませんが、〈アナグリム・ノワール〉は、人肌に触れた瞬間、コンクリート造りの建物を消し炭にするくらい強力な電流を…………」

「ハハハ、それおもしれぇじゃん。決めた、やっぱ素手でやる!!」


 両手を胸の前に持っていき、敵の方向に身体を向けた。

 続いて、無言魔法で自分に注目を集めると、〈アナグリム・ノワール〉が一直線にルグアの方へ転がってくる。

 1体ではなく、一度に50体。もちろん、まとめて相手するしかない。

 加速を最大で使うと、運搬ほどではないが、膨大な疲労感に襲われるが、短時間で到着したことで回復済み。


  ――ウュウォーン!!


 可愛いらしい、子犬のような鳴き声が、村全体に響き渡る。けれども、それは害獣の声。

 迫りくる〈アナグリム・ノワール〉を、黒髪の少女が拳で弾き飛ばす。

 津軽地方の村は、何とか生活できるのではないか、と言っても過言ではないほど損傷が激しい。

 穴だらけの住宅、焼け焦げた小屋と思われるいびつな建物、枯れ果てた井戸の水。

 空っぽの商品棚、引っかかっているのがやっとの割れたハンガーラック。

 異臭が漂う家畜の死骸。これらは、全てモンスターの仕業に違いない。

 目の前で、つぶらな瞳を輝かせる子供の〈アナグリム・ノワール〉が、戦意がないことを訴えてきた。

 私も殺したくはない、ないけど倒さねばならない。その場で屈み子供の頭を優しく撫でる。


 ――ビリビリッ!!


 芯まで伝わる電流が、ルグアの身体に流れ始めた。彼女の脳にも同様な影響を与えるが、撫でるのをやめない。


「ルグア様。一体何をされて……。おや? 敵が襲って……来ませんね」


 私も気付かなかったが、確かに他の〈アナグリム・ノワール〉は、足を止めて立ち上がり子供を見守っている。

 と、その時。


『りんり~ん!! 速いよ~、でも追いついてよかった~♡』


 遠方から、置き去りにしたはずの藍が、なにかをばら撒きながら猛ダッシュで駆け寄ってきた。

 ルグアが、東京から津軽地方まで、約37分。対して藍は、20分後に到着。

 自分の勘がここで初めてハズレを引いた。後日、ルクスこと兄の巣籠陸に、地形情報を加えて計算してもらったところ、

 685km=142時間+山道5箇所各40分仮定で3時間=145時間=6日と1時間

 その先は、細かく計算しすぎで何一つ理解出来なかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ずれたので、現在に戻す。ルグアは、藍がばら撒いている物が気になっていた。


「なあ、お前何やってんだ?」

「これのこと~? グリちゃんの餌だよ~、ねぇ? グリちゃん飼いた~い!!」

「はぁあ?」


 害獣をペットにできるわけない、と思ったが、撫で続けたことで完全に懐いたのが1個体。


「連れて行こうよ~」

「しょうがねぇなぁ~。…………全部引き取るか…………」


 私以上にわがままで、自分勝手で、自己中で、歯向かうと機嫌を悪くする藍の言うことは、絶対守らなければならない。

 というのも、反対しても言うこと聞かないし、拒絶すると精神暴走で、被害が拡大しかねない分、めんどくさいことになるからだ。

 ルグアは、藍に餌付けを頼み、通常飛行で東京に戻った。


 ◇◇◇◇◇◇


「って、ことで~、前回に引き続き、みんなの底辺アイドル、藍がお送りしま~す」


 ◇◇◇◇◇◇


 はい、ハート♡


(いらねぇわ!! あとまたやんのかよ……。ファンサービスほどほどにな。 by.ルグア)


 おけおけ、了解!! それじゃあ行っくよ~!!


(絶対わかってねぇだろ。by.ルグア)


 東京に戻ったりんりんは、早速空き地を見つけて、耐電付きの巨大牧場をその日のうちに建設!!

 群馬県1つ分の牧場は、餌箱や餌の栽培施設などなど、様々な設備が整っているんだよ~。

 そして、ルグア特製の巨大ケージに、約200万匹のグリちゃん入れて、牧場に放牧!!

 なんということでしょう!? グリちゃんたちが、のびのびと生活を始めたではないですか……!!


(何とか○○○、みたいな語りになっているのは気のせいだよな。 by.ルグア)


 餌箱に向かって転がるグリちゃんかわゆい♡ 転がりながらじゃれ合うグリちゃんかわゆい♡

 丸まってコロコロ転がって昼寝するグリちゃんかわゆい♡ 寝返りうって転がり落ちるグリちゃんかわゆい♡

 転がりながら跳ねるグリちゃんもかわゆい♡


(さっきから、転がってばかりじゃねぇか!! by.ルグア)

(モードレさんと藍さん、コンビ組んでも良さそうなくらい、息ぴったりです。 by.ガロン)


(組むわけねぇだろ!! リアルの私がどう思っているは、わからないが……。 by.ルグア)

(いいよ~♡ by.明理)

(マジかよ!! ってか、どうやって干渉してきたんだよ!! by.ルグア)


(ルグアさんって、二重人格者なのでしょうか? by.セレス)

(違うわ!! ・違います!! ルグア&明理)


 それは、置いといて…………。


(でも、リアルの私はツッコミ苦手だからよろしくね~。 by.明理)

(丸投げかよ!! 嗚呼、めんど……。 by.ルグア)


 ねぇ、これで説明終わりだけど、みんな話聞いてる~?

(聞いていませんでした……。 by.全員)


 ◇◇◇◇◇◇


「ということで、次回予告!! 次回は、りんりんからの依頼で、武器強化素材集めだよ~」


 ポジティブ過ぎる藍が、堂々と発表する。みんなは顔を合わせて、ガイアが、


「なぜ、ルグアさんが依頼したのですか?」


 と、問いかける。


「それはだな。日本軍全員の装備を新調しようと思ったからだ。もちろん、手伝ってくれるよな?」

「「はい!!」」


 私の回答にみんなが頷き、


「おふざけ、お遊び禁止で、集中して作業してくれ!!」

「「了解しました!!」」


 そして、ルグアの我が家は、私とフェンリルの2人だけになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...