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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第29話 ゲームマスター

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「これは、久方ぶりです、ほんの数日前ではありますが。モードレ様。敵対者として、お目にかかれて、光栄でございます」


 ゼアンは、礼儀正しく挨拶を述べる。私もこの展開は予想できなかった。


「ベディ、いや今は関係ないか。なぜ、外国のメンバーなんだよ!!」

「その理由のことでしょうか? 実は、在住地域がアメリカでして。在住場所の関係で、こちらの司令官になっております」


 引っ越し先の地域で、敵味方が判別されるのは、初耳だ。


「この舞台は、広く濁り朽ち果て、開拓するにはもったいない。わたくしは、昔の世界を荒らす人は嫌いなのでございます」


(変な趣味だな。まあいじりたくない気持ちは、わからなくもないが……)


 やれやれと首を動かす少女。ゼアンの話は、まだ終わらない。


「聞きましたよ。モードレ様が、味方を避難させたというのを……。こんな状況で仲間割れでもしたのですか? あなたに勝ち目など無いというのに…………」


 侮辱するにも程がある。けれども、彼はやめようとしない。


「わたくしも、あなたと同じ特異点でしてね。こういうことが可能なのですよ。〈敗れ眠りし屍よ、今ここに命を宿せ〉!!」


 突然の魔法詠唱。さすがに無言とはいかないようだ。地中から痩せ細った人が這い出してくる。

 まるで、ゾンビ映画でも観ているのではないか。そのような光景に、足がすくむ。

 加えて、現れたゾンビのレベルバーには9000正と、文字数制限なのか漢字で書いてあった。

 それがなんと、同じ数分の大衆。地味な絵面の派手な演出で、特異点の意味がわかった、気がした。

 では、私の特異点は何なのだろうか。

 数値の高いステータス? でも、これはゲームの設定だから違う。

 加速攻撃? いや、ルクスも成功している。無言詠唱? これは、藍が実際に使用した。

 広い効果範囲? きっと、同じようにできる人もいるに違いない。怒り狂うのは自分の弱点からだし。


〖何を考えておる!! ルグア殿!! そなたの特異点は、天変地異。全てをひっくり返すのが……〗

「黙れ!! 小賢しい龍め!!」


 ゼアンの発狂。VWDLでの彼とは考えられない言葉だ。

 少し前の私と同じ。だが、深刻ではあったが、彼女は発狂をしていない。

 一時的に盲目状態になったものの、状況の把握はできていた。


(天変地異、やってみるしかない!!)


 無言詠唱を行った瞬間、荒野は一面緑に染まり、屍の動きが鈍くなる。

 これが、私の特異点。自分にしか使えない魔法。加速を始め、あっという間に1000倍まで速度を上げる。

 クリムゾンブレードの威力も増して、レベル無視の100連強攻撃。ゼアンも、わんこそばの同様おかわりゾンビを繰り出す。


「ルナ!! 他のみんなを安全な場所に!! 100km西に移動してくれ!!」


 私とゼアンの戦い。青年は大軍勢を引き連れその場を離れた。


(それにしても、天変地異? 確かに間違ってはいないが……、レベル低すぎね?)


 起こった現象といえば、荒野が自然溢れる世界になったのと、たった数回の雷鳴。

 無言ではあるものの、”神々の雷を”というフレーズが入っているにしては、電撃の規模が少なすぎだ。

 私もゼアンと同じ、ド派手な演出を予想したのに、真逆だったことで後ろに倒れ長座。

 少しだけ戻した剣を再びナックルに変えた。すると、


「モードレ様。異名持ちで特異点なのは、あなただけですよ? 筋違いで呆れてしまいました。どうして選ばれたのでしょう? 見当もつきません」


 遠くに立つ敵の総大将が、皮肉ったセリフを並べる。腹立たしい。怒りが絶頂に達するが、それでも動かない。

 実は、隠していたことがあった。”天変地異”と聞いて、思い出したことを。

 私はゾンビの攻撃を受け続ける。HPを減らし、怒りの力を無限に上昇。

 パラメータは、限界値を超えると、壁も全て突き破る。50分の間身体の内側で暴れたのち、急激に灼熱から極寒へ変化。

 凍りつき、身動きが取れなくなった……、きっと動けないだろう。そう考えたゼアンは、


「モードレ様、突然ただの塊になってしまいましたが、どういうおつもりですか? 急な温度変化はお身体に……、いえ、脳に悪いと思いますよ? フルダイブですので」


 と、さらに攻め立てる。実は、この挑発が目的だった。身震いせず、静かに立ち上がると、拳を構え、


 ――ブォン!!


 聴き取れない、言葉で表現しても、合っているかがわからない音。

 目を凝らすと、氷塊になった私は勢いのある打撃で連打。次々と倒しつつ、剣にウェポンチェンジ。

 ゲームの仕様なのか右側に出現。左右なんかどうでもいいと、普段使わない右手で掴んで、攻撃内容の思考も変更。

 後ろに降ろした龍が宿る深紅の剣。赤みが増して、私の意志でより一層色が濃くなっていく。

 柄は血塗られた紅。刀身は燃え盛る赫。そして、広範囲に火種が移る。

 纏う氷は解けず、へばりついたまま。炎はその氷を覆うように、敵も巻き込んでいった。


「さーて、準備が終わったことだし。ガチでぶっ倒すか…………。お前は飽きたしな。なんなら、一気に正の3つ上の位分を出してもいいぜ? 30秒で片付けてやる!!」


 正の3つ上。0の数ではない、単位での3つ上だ。つまり、

 正、載、極、恒河沙。9000恒河沙になる。長いので、短く9000恒と呼ぼう。


「フフフ、本当に言っているのですか? それだけ自信がおありと。30秒。面白い。では、実現させて差し上げるとしますかね~」


 どこからか出てきたステッキが、ゼアンの手に握られると、魔法詠唱。無数のゾンビが出現し、フィールドを埋め尽くす。

 私も無言詠唱で天変地異の効果を発揮。今回は自分オリジナルの魔法だ。

 地面に電流を発生させ、ゾンビは痺れでもがく。そのうちに、1000載を倒し、ループさせるとあっという間に全滅。

 呆気なく終わってしまった。約28秒で……。宣言通りの時間内だった。


「私には、敵レベル関係ないか。普通にやったんだけどな」


 満足感が薄いバトルに、不満を持つ。最近Mobとの勝負はつまらなくなったきた。

 それは、自分とのレベルが違いすぎるからである。CPMobは、行動モーションが一定で、不安定な信号だけを使い1つの目的を果たす。

 大掛かりなプログラムなら、もっと多くの動きを設定できるが、この数に天変地異を合わせると、処理しきれていないように見えた。


(サーバー数増やせよ!!)


 小声で愚痴を漏らす私。そんな少女に、


「サーバー数……ですか。わかりました。増やしておきましょう。実は未使用のサーバーが1億、受注生産中のサーバーが50万ありますので」

「どういうことだ? ゼアン?」


 謎の発言に問いかける。彼は表情を変えず、

「わたくし、このゲームのGMなのですよ。元々は自分1人で遊ぶために制作したのですが。ヒョンなことから、不正に出回ってしまいまして……。このような事態になってしまった、という訳です」

 GMが、特異点。これもこれでレアじゃないか。1つ尋ねたいことができた。

「あとどれくらいで、リアルに戻れるようになるんだ?」

 GMなら当然知ってるはずの質問。だが、返ってきた答えは本人も調査中とのことだった。

 まずは、ゲームを楽しむ。そして、暇を潰しながら――人によっては違う人もいるだろうが――ひたすら待つ。

 現実の時間が止まっているなら、別に問題ない。総大将も頷き、「サレンダー」と叫ぶ。

 参加プレイヤー全員に、ウィンドウが表示され、日本の勝利で戦争が終わった。
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