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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜
第27話 剣の暴走
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戦場の中心。リアルだと多くの建物が存在しているであろう、荒廃した北朝鮮。
このエリアで、剣と炎を使い、敵プレイヤーと交戦するのは、ルグアとクリム。
クリムは、元々VWDLのボスという立場で、ルグアが捕獲を行い味方になった真紅の龍。
正式名は〈クリムゾン・ドラゴン〉。そして、ルグアが持つ剣は、分身体の〈クリムゾン・ブレード〉だ。
ルグアは、最大まで強化した剣に、慣れることができず、振った分だけ、全身に電撃が走る。
クリムから認められ、強化前の剣にも認めてもらったのに、強くなると拒絶反応を起こしてしまう。
人を厳選する武器。別に嫌いってわけではない。逆に好きな方。強化後、柄に触れて感じた逆鱗の嵐。掴んだ時の強力な炎の流れ。
しばらく使っても認めてくれない、真紅の剣。何が悪いのかがわからない。
疲れ果てた藍に、脳内発信魔法で休むことを促し、巨大爆弾を湖まで投げてアシスト。
遠隔投影魔法で、メンバー状況の確認をしながら、左の剣を無理やり動かす。
クリムも、剣が拒絶するとは思っていなかったようで、時々自ら口に咥えて振り回し、ルグアは魔法で雷鳴を轟かせていた。
〖ルグア殿、我も本気を出して良いか? 我が剣と1つになれば、認めるかもしれん〗
「なら、それでいくか。頼む」
龍は、剣を少女に渡し、刃に向かってぶつかると、一体化。刀身が伸びて、重さで体勢が崩れる。
動きが鈍くなった気がした。敵は好機と見て、攻撃がエスカレート。ものすごい勢いで、ルグアのHPゲージが黄色へ。
最大HPの数値が5,933,685なので、-2,465,790くらいだろう。
自分が思うように戦えず、精神が不安定になり始める。
怒りへの兆候、これまで以上に最悪なやつ。1つ間違えれば、自分でも制御できなくなる。
ゲージの減少は止まらない。黄色からオレンジ、オレンジから赤。
「チョロい」と、挑発をしてくる外国人プレイヤー。狂いだす怒り。自然に身を任せる自分の思考。
「なあ、クリム。ちょっといいか?」
〖何かあったのかね? ルグア殿〗
クリムに伝えた言葉。魔法でメンバー全員にも繋げ話したこと。
{これから先のバトルは、全て私一人。ソロで相手する。精神的な理由で}
事前にみんなへ伝えたおかげで、一斉に引き返す準備を開始。
{私のHPが残り1になったら、退避してくれ}
空を飛び臨時拠点へ、移動する姿が脳内で再生。ゲージのドットは指定していた細い赤。
ルグア1人対外国人プレイヤー5000億人。1ドットのHP。怒りに寄り添う意識。
全てが限界に達し、憤怒が悲鳴をあげる。何も感じない。何も見えない。聴覚が唯一機能して、敵を捉える。
纏う黒炎、歩みが重い。足の裏で察したのは、地面のへこみ。手に持つ剣の重さもわからない。
ただ、歩みが重いのとは逆に、上半身だけが軽い。
勝手に行動を始める、私のアバター。激流の如く薙ぎ倒す。喘ぐ人の声。狼狽える人の悲痛な叫び。
手加減してあげたいけど、言うことを聞かない。居合いの声はなく、操り人形が滑るように動く。
『な、……なんだよ……コイツ。急に強くなりやがった。……て、……撤退だ、今すぐ撤退しろ!!』
発したのは、上機嫌だった外国人の男性プレイヤー。見逃してやりたい、意識を戻そうとしても、怒りに負けてしまう。
その頃には後の祭り。刹那に聞こえたのは、刃の切っ先が、男性の喉元に突き刺さる音。
ゲームなので、痛覚補正はあると思うが、涙の伝う小さなものまで耳にする。
全ては実力ではなく、技術でもない。誰かがそんなことを言っていた。弱さが自分を強くすると。
私は今まで、自分の弱いところを隠して、苦手な分野から逃げていた。
興味が無いゲームに潜り、知識だけを習得しては実戦を行う。勘とはいえ、運引きがほとんどに近い。
また、自分を否定した。弱い心を受け入れようとしていない。なぜ、このようになったのか。
そこで、私はやっと気付く。剣が認めないのは、自分が剣の重みを、受け入れないからではないか?
確かに、重量感をネガティブ思考で振るっていた。重い、だから鈍い。これでは、認めないのも納得できる。
たった一つ、誰にも負けないことは、諦めが悪いため、ハマったやつは、最後までやりきること。
もう、嘆いてはいられない。弱い自分を捨て、受け入れるしかない。
――『でも、明理。今から勉強すれば大学には行けると思うよ』
セレス/三上輝夜の言葉が、フラッシュバックする。もしかしたら、本当にできるという、可能性が見えた気がした。
数学をとにかく勉強し、大学入試のために試験を受ける。最初からそうしていれば、と自己満足。
怒りは収まり、視界が開ける。纏う黒炎は残ったまま、剣の拒絶は消えていた。
心の強さは芯の強さ。芯という大黒柱が緩んでいては、強くはなれない。受け入れなければ何も始まらない。
「こういうことだったのか」
〖正気に戻れたと、受け取れば良いのかね?〗
「ああ、もう苦手なことから逃げないようにしたよ。だから問題ない」
何ら変わりない2人の会話。意識を取り戻した私は、自分を許してくれた剣を構える。
仲間はすでに退避して、フィールドにはいないため、求められるのは、本気で戦う、それだけだった。
「クリム、分担しないか? 無理なら別にいいけど…………」
私は、数分前まで暴走していたにも関わらず、バトルでの疲労を知らない。剣と一つになっている龍は、
〖では、試練として挑むのはどうじゃ? 我はここらで羽休めとさせてもらうかの。重くはなるが、そなたなら、大丈夫だろう〗
【アンゲームブラスター/無敵のプレイヤー】。その名を自分で汚した分、返上するなら今しかない。
一部のプレイヤーだけが使える行為〈レベルリセット〉。
全ての数値を、レベル1まで戻せるが、その代償として集めた経験値も、0になってしまう。
ルグアは、これを迷うこともなく発動、初期化を開始。
プレイヤー名:巣籠 明理
Lv.1
性別:WOMAN 種族:妖精族
ジョブ:エルフソードマン
国民番号:005791871
HP:1,977.895
ATK:1,007,470
DEF:997,690
MAT:1,025,631
MDE:783,185
ステータスは再び、振り出しに戻る。これでいい。私は永遠にレベル1でいい。前を向く。剣を構える。
自分に合わせるのではなく、剣に合わせて、遠心力で斬り裂いた。
このエリアで、剣と炎を使い、敵プレイヤーと交戦するのは、ルグアとクリム。
クリムは、元々VWDLのボスという立場で、ルグアが捕獲を行い味方になった真紅の龍。
正式名は〈クリムゾン・ドラゴン〉。そして、ルグアが持つ剣は、分身体の〈クリムゾン・ブレード〉だ。
ルグアは、最大まで強化した剣に、慣れることができず、振った分だけ、全身に電撃が走る。
クリムから認められ、強化前の剣にも認めてもらったのに、強くなると拒絶反応を起こしてしまう。
人を厳選する武器。別に嫌いってわけではない。逆に好きな方。強化後、柄に触れて感じた逆鱗の嵐。掴んだ時の強力な炎の流れ。
しばらく使っても認めてくれない、真紅の剣。何が悪いのかがわからない。
疲れ果てた藍に、脳内発信魔法で休むことを促し、巨大爆弾を湖まで投げてアシスト。
遠隔投影魔法で、メンバー状況の確認をしながら、左の剣を無理やり動かす。
クリムも、剣が拒絶するとは思っていなかったようで、時々自ら口に咥えて振り回し、ルグアは魔法で雷鳴を轟かせていた。
〖ルグア殿、我も本気を出して良いか? 我が剣と1つになれば、認めるかもしれん〗
「なら、それでいくか。頼む」
龍は、剣を少女に渡し、刃に向かってぶつかると、一体化。刀身が伸びて、重さで体勢が崩れる。
動きが鈍くなった気がした。敵は好機と見て、攻撃がエスカレート。ものすごい勢いで、ルグアのHPゲージが黄色へ。
最大HPの数値が5,933,685なので、-2,465,790くらいだろう。
自分が思うように戦えず、精神が不安定になり始める。
怒りへの兆候、これまで以上に最悪なやつ。1つ間違えれば、自分でも制御できなくなる。
ゲージの減少は止まらない。黄色からオレンジ、オレンジから赤。
「チョロい」と、挑発をしてくる外国人プレイヤー。狂いだす怒り。自然に身を任せる自分の思考。
「なあ、クリム。ちょっといいか?」
〖何かあったのかね? ルグア殿〗
クリムに伝えた言葉。魔法でメンバー全員にも繋げ話したこと。
{これから先のバトルは、全て私一人。ソロで相手する。精神的な理由で}
事前にみんなへ伝えたおかげで、一斉に引き返す準備を開始。
{私のHPが残り1になったら、退避してくれ}
空を飛び臨時拠点へ、移動する姿が脳内で再生。ゲージのドットは指定していた細い赤。
ルグア1人対外国人プレイヤー5000億人。1ドットのHP。怒りに寄り添う意識。
全てが限界に達し、憤怒が悲鳴をあげる。何も感じない。何も見えない。聴覚が唯一機能して、敵を捉える。
纏う黒炎、歩みが重い。足の裏で察したのは、地面のへこみ。手に持つ剣の重さもわからない。
ただ、歩みが重いのとは逆に、上半身だけが軽い。
勝手に行動を始める、私のアバター。激流の如く薙ぎ倒す。喘ぐ人の声。狼狽える人の悲痛な叫び。
手加減してあげたいけど、言うことを聞かない。居合いの声はなく、操り人形が滑るように動く。
『な、……なんだよ……コイツ。急に強くなりやがった。……て、……撤退だ、今すぐ撤退しろ!!』
発したのは、上機嫌だった外国人の男性プレイヤー。見逃してやりたい、意識を戻そうとしても、怒りに負けてしまう。
その頃には後の祭り。刹那に聞こえたのは、刃の切っ先が、男性の喉元に突き刺さる音。
ゲームなので、痛覚補正はあると思うが、涙の伝う小さなものまで耳にする。
全ては実力ではなく、技術でもない。誰かがそんなことを言っていた。弱さが自分を強くすると。
私は今まで、自分の弱いところを隠して、苦手な分野から逃げていた。
興味が無いゲームに潜り、知識だけを習得しては実戦を行う。勘とはいえ、運引きがほとんどに近い。
また、自分を否定した。弱い心を受け入れようとしていない。なぜ、このようになったのか。
そこで、私はやっと気付く。剣が認めないのは、自分が剣の重みを、受け入れないからではないか?
確かに、重量感をネガティブ思考で振るっていた。重い、だから鈍い。これでは、認めないのも納得できる。
たった一つ、誰にも負けないことは、諦めが悪いため、ハマったやつは、最後までやりきること。
もう、嘆いてはいられない。弱い自分を捨て、受け入れるしかない。
――『でも、明理。今から勉強すれば大学には行けると思うよ』
セレス/三上輝夜の言葉が、フラッシュバックする。もしかしたら、本当にできるという、可能性が見えた気がした。
数学をとにかく勉強し、大学入試のために試験を受ける。最初からそうしていれば、と自己満足。
怒りは収まり、視界が開ける。纏う黒炎は残ったまま、剣の拒絶は消えていた。
心の強さは芯の強さ。芯という大黒柱が緩んでいては、強くはなれない。受け入れなければ何も始まらない。
「こういうことだったのか」
〖正気に戻れたと、受け取れば良いのかね?〗
「ああ、もう苦手なことから逃げないようにしたよ。だから問題ない」
何ら変わりない2人の会話。意識を取り戻した私は、自分を許してくれた剣を構える。
仲間はすでに退避して、フィールドにはいないため、求められるのは、本気で戦う、それだけだった。
「クリム、分担しないか? 無理なら別にいいけど…………」
私は、数分前まで暴走していたにも関わらず、バトルでの疲労を知らない。剣と一つになっている龍は、
〖では、試練として挑むのはどうじゃ? 我はここらで羽休めとさせてもらうかの。重くはなるが、そなたなら、大丈夫だろう〗
【アンゲームブラスター/無敵のプレイヤー】。その名を自分で汚した分、返上するなら今しかない。
一部のプレイヤーだけが使える行為〈レベルリセット〉。
全ての数値を、レベル1まで戻せるが、その代償として集めた経験値も、0になってしまう。
ルグアは、これを迷うこともなく発動、初期化を開始。
プレイヤー名:巣籠 明理
Lv.1
性別:WOMAN 種族:妖精族
ジョブ:エルフソードマン
国民番号:005791871
HP:1,977.895
ATK:1,007,470
DEF:997,690
MAT:1,025,631
MDE:783,185
ステータスは再び、振り出しに戻る。これでいい。私は永遠にレベル1でいい。前を向く。剣を構える。
自分に合わせるのではなく、剣に合わせて、遠心力で斬り裂いた。
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