インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第25話 舞いとトラップ

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  敵が多い、多すぎて間に合いそうにない。心の奥で半分弱気になるガイア。

 いくらセレスの回復量が高くても、弾いた分だけダメージを受ける。


「ガイアさん、大丈夫でしょうか? もう少しで、ルグアさんが応援に来てくれる、はずなんですけど………」


 作戦には、開戦から1時間後に、セレスとガイア。1時間30分後に努とルクス。

 2時間後は彰とガロン。2時間25分後藍のところに、移動する予定になっていた。

 開戦時から1分ずつ進んでいく時計には、まもなく1時間を過ぎようとしているが、来る気配がない。

 ここは見せ場なのでは。ガイアは、斧を隠し持っていた日本刀に替えて、下段に構える。

 切り上げ、上段で刃の向きを直し下ろす。間を空けずに腰の横に添えて一閃。

 回転斬りを含めた1人の侍の動きに、外国人プレイヤーは、攻撃を止めて手を叩く。

 まるで、ショーをしているかのような光景に、セレスも扇を取り出し、着物姿で日本舞踊を披露。琴の音色が響き渡り、闘争心を打ち消していく。

 癒されたのだろうか、相手の何人かが眠りについて、武器を捨てると横になった。

 日本には、特殊な武器が存在するんだ。ガイアはすみませんと声に出しつつ、眠ったプレイヤーを倒す。


『卑怯者!!』


 1人の敵プレイヤーが叫んだ。

 このゲームをしている人は、複数の言語を話せる。正確には、リアルタイム翻訳が搭載。

 言われてみれば、卑怯かもしれない。

 正々堂々と勝負するのが、正しい戦い方だ。でも、セレスは舞踊を踊っているが、攻撃もしていた。

 扇を手首の返しでヒラヒラ流すと、先から炎の花弁が舞い、まっすぐ振ると、水が飛び出す。

 花弁を受けた者は燃焼し、水を受けた者は、一瞬にして凍りつく。ガイアの身体も凍ったが、こちらは、HPを増やし最終的に全回復。

 刀から斧に戻して、振り回す。攻撃は全て命中――敵が密集・密着状態なのもあるが――ポリゴンが散らばった。


「セレスさん、これが続けば、しばらく問題なさそうです。それと、着物姿、とても似合っています」


 侍より日本舞踊、技の美しさより舞いの美しさ。戦いながらも魅了された、踊りは続く。

 2曲目に入り、聴こえてきた三味線の音。振り付けも激しくなる。

 速くなったらゆっくりに、ゆっくりになると再び速く。手首の返しも増えて、桜吹雪が戦場の空を彩る。

 癒され、争いを放棄したプレイヤー。ガイア達の周辺は、あっという間に文化会館と化した。


◇◇◇◇◇◇


「努さん、そろそろリプレイヤーが来るので、バトルの準備を…………」

「こっちは万端です。いつでもいけます」


 妹の言う通りだ。俺との相性をしっかりと。何にしても几帳面だけど、忘れっぽい。

 対して努は、記憶力が高く一つ、いや二つ先の動きを教えてくれる。

 加えて、用意のスピードも速く、指示を出す前には、全てが終わっているのだ。

 これなら、自分のことで精一杯の俺でも、集中して挑める。


 ――ドドドドドォォォォ…………。


 走る音が近づく。努は盾剣を、俺は盾斧じゅんふを構えると、見えてきたのは人の群れ。

 押し寄せてきた敵プレイヤーは、仕掛けたばかりの落とし穴にハマり、上を走る者が必然的にダメージを与える。

 これも、妹が計算していたならば、退学の必要性はない。


(いや、待てよ…………。本人曰く、ルグアの勘はゲーム内でしか当たらない、と言っていた)


 これも、ただの勘が当たった結果なのかもしれない。目の前を過ぎる人。

 その一部が踏み外し、身動きが取れなくなった外国人プレイヤーは、無様な姿で消えていく。


「ルグア先輩…………。俺の妹であるあなたは、このビジョンを予想して…………。すでに見ていたので……」


 リアルでは、自分を頼ってくれる明理。でも、ゲーム内では自分より強く守られてばかり。

 思い返せば、昔からそうだった。新しいソフトを、同じ時間プレイしたのに、妹は先に操作を覚える。

 初めてのジャンルは別だが、攻略法を見れば、すぐ実行できるくらい、のめり込んでいた。


「ゲームは興味無いと普段から言ってるくせに、一番楽しんでるのは、…………明理の方じゃないか」


 兄としての情けなさ。高校卒業直後に上京し、自身の勉学だけに力を入れて、大学へ進学。

 いつしか、妹のことを忘れかけていた。卒業後の最初の1年は、バイトをしながら勉強。

 大学に受かり、19歳で入ったが、当時の明理は中学2年で13歳。

 高校の進路を決める大事な時期に、相手してやれなかった。もちろん、苦手な数学を克服させることも。

 後悔の気持ちが込み上げ、時々漏れる震えた声に涙を流す。歪む視界には、減り続けるHPゲージ。

 動き出している努は、複数人と攻防戦をしている。もしも、自分が妹だったら。


「妹のように強かったら……」

 〈VWDLステータスデータとの連携を開始します〉

「えっ?」


 光に包まれていくルクスのアバター。やがて消え、ステータスを確認すると。


 プレイヤー名:ルクス
 レベル:81676
 HP:98,760,000
 攻撃力:98640
 防御力:97350
 魔法攻撃力:86240
 魔法防御力:62740
 ユニークスキル
 常時攻撃力上昇
 常時防御力上昇
 常時魔法防御力上昇
 至近距離武器装備時上昇効果10倍


 確かにVWDLの自分のデータだ。しかも、レベルが、7万増えている。

 もしかして、クリムが反映してくれたのだろう。武器も、愛剣の〈ポイズン・ドレインブレード〉。

 これは、妹からもらった剣で、大事に使い始めた装備の一つだった。


「頑張れ、ってことなら。妹と同じように、本気で素早く!!」


 力強く駆け出した風の音は、加速音に変化。妹はいつもこの音を聴いて、戦っているのかもしれない。


「努さん、俺がタイミングを合わせます!! 連携プレーで!!」


 俺のセリフに、ペースを揃える、ただ1人の味方。努は、後方へ移動すると、前に出た。

 途切れ途切れで、波打つ人々に交代を繰り返し、コンボを繋ぐ。これが、本来の姿。これが、本当に本気で戦う俺。

 恐怖に襲われても、のたうち回らず、前を向く自分なんだ。俺は自信を持って、剣で群れを斬り裂いた。
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