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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜
第20話 ルグアの噂 火山ダンジョン
しおりを挟む――ドゴォン!!
勢い余って城に激突。今までにない激痛が走った。私は、瓦礫をどかし外に出る。
『ねぇ、外の大きな音しなかった?』
4分の1が崩壊した城内から、聞こえたのは女性の声。
(まずい!!)
急いで物陰に隠れて様子を伺うと、出てきたのは、ドワーフとヴァンパイア。
きっと、多族同盟軍だろう。吹雪く風に意識を集中させると、人族や獣人の気配を感じる。
どうやら、私と同じ妖精族のエルフはいない。気づかれないよう、吹雪に紛れて物陰から出た。
『あれ? あそこにいるのってりんりんじゃな~い?』
遠くから聞き覚えのある声は、だんだん大きくなり、振り向くと幼なじみの姿。
「やっぱり、巣籠んりんだ~!! 久しぶり~!! 元気してた~? 藍だよ~!!」
軽快な口調でくっつき、道を塞ぐ。そんな彼女に、
「いきなり何すんだよ。久に会えたのは、私も嬉しいが……。今は邪魔者にしか見えねぇ……」
やはり、ゲーム内ではリアルの話し方ができない。そのため、
「りんりん、人違いじゃないよね~?? 本物のりんりんだよね~?」
疑われてしまった。この時に役立つのが、プレイヤー情報。メニューを開き確認してもらう。
プレイヤー名:巣籠 明理
Lv.2
性別:WOMAN 種族:妖精族
ジョブ:エルフソードマン
国民番号:005791871
HP:3,955,790
ATK:2,014,940
DEF:1,995,380
MAT:2,051,262
MDE:1,566,370
レベルが1つ上がっていた。証明書と同じ役割の、ステータスを見た藍は、
「本人なんだぁ~、性格が違うから赤の他人だと思った……。そういえば、りんりんのMPNなに~?」
訳も意味もわからない英語の文字。予想ではあるが、〈メインプレイヤーネーム〉だと思う。
「ルグアだ。自分で言うのもあれだが、例の凄腕タイムアタッカー」
聞かれたら名乗る。VWDLでの円卓の役目は終わっていない。別ゲーだろうが、任務は果たす。
いつの間にか、集まってきた元クラスメイトの1人は、私を指さし、
「噂の異名プレイヤーですよ。確か、【アンゲームブラスター】のルグア!!」
はっと思い出したかように叫ぶ。まさか、裏でこう呼ばれていたとは、想像もしていなかった。
他のみんなも、
「明理が、ルグアだったの?」
だの、
「アンゲームって、略式不正サービスだよね? ゲームではないゲームのやつ」
だの、
「それってつまり、明理が1人でアンゲームの正式サービス化を、させてきたってことでしょ」
だの、
「ブラスターだから、発火者。この場合はきっかけを作る人、っていう意味だと思うよ」
だの、たった一つの話題だけで広まっていく。でも、一体誰がそんな異名を私に?
謎の答えは深く、見えそうで見えない。私はみんなにフレンド申請を送って、氷山と火山が合わさった、山頂へ向かう。
左にカルデラ、右は急傾斜。奥に獄炎世界、今向かってる場所だ。
風の噂で、火口の中に攻略不可能の、超上級者向けダンジョンがあると聞く。
たくさん人が挑戦しても、HP全損でホームエリアにリスポーンをする人が多いらしい。
私は、そんな火山ダンジョンが気になり、火口の縁から飛び降りる。
「うへぇ……。他のゲームでも火山地帯を攻略してきたが、この温度設定は初めてだ……」
思わず声に出た言葉同様、たちまち、炎でHPが減り始める。
火山の炎や自然の属性攻撃は、魔法防御でのダメージ判定で、私の場合毎分-25000。
HPが高いこともあり、長くて40時間は持つだろう。奥へと進み目的地を探して散策する。
爆発と噴火、天から降り注ぐ赤い雨。もろに受ければものすごく熱いが、この場所を気に入った。
運がいいことに、テントを張れそうな平地を発見。素早く設置すると、燃えないよう耐火魔法バフをテントに付与する。
気付けば、もう夜。火山の真っ赤なエフェクトでわからなかったが、夜空に光る星。
その後、私は周辺を回り、無事ダンジョンに到着。仮拠点から意外と近い場所だったことを確認する。
テントへ戻って、ストレージを確認すると、火の粉を浴びながら眠りについた。
◇◇◇◇◇◇
「ふわぁーう~……うぅぅ……ん」
大きなあくびをしながら、起き上がる。現在のHP残量は、3,755,790。まだ余裕はたくさんある。
全損予想時間を40時間としたが、定期ヒールを使えば家が完成する頃まで問題無さそうだ。
「じゃ、早速行くか……」
誰もいない火山地帯では、声を出すも出さないも自由。テントをストレージに入れ、昨日見つけたダンジョンへ移動する。
地面には噴火口、空からは火の粉。吹き出すのは、アーチ型の炎。輪を潜り目的地に向かう。
だが、その場所に建物はなかった。熱風を頼りに道なき道を進む。
時々、立ち止まり方向を確認。横切る荒れ荒れしい強風が、右から左へ。
勘で着いた祠の場所は、北東の突き当たり。業火を纏い行く手を阻む。
炎に焼かれ、HPが半分まで急激に減少。熔岩の海を泳ぎ、減り続けるゲージに注意する。
向こう岸へ渡り、辺りを見回すと、数え切れないくらい大量のゴブリン。
「んじゃ…………、容赦、手加減無しで…………」
氷が溶け元通りになった羽根は、炎の翼に変化して、火の鱗粉を撒き散らした。
ゴブリンは、団体戦に持ち込み、私の動きを封じるが、回転斬りで剥がす。
「このゲーム、大衆攻撃がほとんどなんだな……、きっと。ってことは」
私のゲーム勘は良く当たる。当たりすぎるくらいほんとに当たってしまう。なので、運ゲーはゲーセンでも家庭用ゲームでも、必ず出禁。
違法系ギャンブルでは、今に至るまでにざっと1600人は負かしてる。
ちなみに、ゲーム内の収入は興味ないので、現金化できても賭けたお金は、対戦相手に返した。
そうこうしているうちに、敵は少なくなり、武器スキルのおかげなのか、自身のHPは回復。
いよいよボスに挑戦。ボスはゴーレムより大きなゴブリン。なんだかな……、失笑レベルの設定だ。
敵は、そろそろ離れて突進してくる。正面でガードの体勢をとると、その通りにゴブリンが行動。
だが、相手は攻撃せずに私を抱き上げた。理由はわからない。高い高いと振り回す。
ゴブリンに遊ばれ、だんだん気持ち悪くなってきて、漏れ出そうな嗚咽と嘔吐感に耐える。
ゲームでこうなったのは、初めてで、VR酔いというよりは、VRアトラクション酔いだろう。
どう見てもアトラクションではないが。やっと、地上へ返したゴブリンは、疲れ果てて寝転んで寝始める。
こんなボス戦はボス戦ではない。私は、酔いで千鳥足状態だ。
20分ほどでデバフが解除され、最奥の宝箱を開けると、中にはゲーム内通貨や装飾品。テイムアイテムらしき、カプセル型の筒もある。
試しに寝ているゴブリンに投げ、パカッと開いた筒に吸い込まれた。
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