インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

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第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第19話 種族大戦とエリア探索

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 ――オオオオオォォォォ…………!!


 テントの外に響く威勢のいい雄叫び。慌てて剣を握り、現場に向かうと、街は砂埃に覆われていた。

 近づく2人のシルエット。駆け寄ってきたのは、努と彰。


「ルグアさん、大変です。種族大戦が……ゴホッゴホッ……、しゅ、種族大戦が、始まってしまいました」

(ふぇ?)


 埃を吸ったのだろう、報告する努も隣で息を切らす彰も、咳き込んでいる。


「種族大戦というのは、様々な種族。妖精・人・獣人・魔族それぞれの精鋭が繰り広げる戦争です」

「それって、精鋭部隊でなくても参加できるのか?」


 質問した。2人は顔を見合わせ答える。


「不可能ではありませんが、9千億近くのプレイヤーばかりですよ? 最前線に立てるわけ……」

「問題ない。私、別ゲーで仲間はいたが、1京のボスをソロで倒してるからさ。億単位は雑魚同然だ」


 言いかけに遮って宣言したルグア。少年たちは硬直し、そのままフリーズ。

 ラッキーと心の悪魔が騒ぎ、空を飛んで参戦する。住民たちは、地下拠点に避難して誰もいない。

 砂埃が激しくなり、視界が悪いが、勘だけで戦える私には好都合。

 空気中の脈の流れを、研ぎ澄ました感覚で読み取る。


(上空右に50、左に36。ぶつかるのは12。空振りが24。地上後方に5000)


 頭の中に浮かぶ数字。数学が苦手なのは変わらないが、これに関しては結構優秀。

(私に衝突する可能性がある人数は、2000。秒間248人。衝突まで、10、9、8、7…………)

 カウントダウンに合わせて身体を捻り、進化したばかりの魔剣に集中させる。
 そして、

(……5、4、3、2、1。ここだ!!)

 0のタイミングで、解き放つ。


 ――ビュゴォォォォ!!!!


 コンマ1秒の風切り音より大きな轟音。気づかずに走る精鋭達は、ドミノ倒しのように倒れる。

 最初に触れた人だけはなく、2km先のプレイヤーまでポリゴンとなって消えた。

 加速させて、今度は空中戦。同じように切り裂く。この戦争は夕方まで続いた。

 全てが終わり鎮まると、地下に避難していた少年たち。努は、地に足をつき静止する少女に、


「もしかして……、勝ったのは……」


 驚いた表情で言葉を詰まらせる。私は、2人に、


「そうみたいだな……」


 一言だけ、呟いた。


◇◇◇◇◇◇


  種族大戦から一夜明け、私は一時的に村を離れることにした。

 実際問題、家が完成するまであと1ヶ月かかるため、暇つぶしとレベリングを兼ねての決断である。

 日本列島はとても広く、現実との建築物配置が違うので、エリア別に回る予定だ。


「ルグアさん、フレ登録いいですか? 寂しくなりますが、家が出来上がったら連絡するので……、」


 努が、申請を送る準備をしながら、別れを惜しむ。まあ、たったの1ヶ月なので微妙だが……。

 旅立つ少女は、申請を承認。低空飛行でその場に留まると、


「時は、現実世界で止まっていても、日が昇り過ぎ去るのは、とても早い。まるで明日のように私は戻る」


 名言風に言い残し、村に背を向け高度を上げる。


(まずは、北海道だな)


 進行方向を北へ変更。村の真上を通り過ぎ加速させると、1つのほうき星になって消える。

 風は、だんだん冷たくなり、露出した肌が低温熱傷を始めた。でも、これは想定の範囲内。

 最近覚えた妖精族と魔族、そして、一部人族のみが使える魔法を、裏技の無言詠唱で唱える。

 すると、瞬間的に全身が炎で包まれた。唱えたのは、【火焔包囲】魔法。
意味はそのままで、火焔で身体を囲い包むというもの。

 自由に対象を変えられるので、攻撃手段としても使える。温まったことで冷えが無くなり、さらにスピードを上げた。

 やがて視界に入ったのは、手前半分が極寒の嵐、奥が獄炎の海で生成された北海道。

 運営は、片方を天国と言いたいのだろう。けれど、普通の人からすれば、地獄と地獄のデュエットにしか見えない。

 私は、はじめに極寒の地へ降りる。一度魔法バフを解除。瞬く間に羽根が凍り、閉じなくなった。

 さっきは、バフで寒さ対策していたが、正直なところ、ただの検証で、必要性は無い。

 現実世界と違って、ゲーム内の気温設定は、極寒とはいえ紛い物。慣れてしまえば、たかが低温熱傷でも、信号による脳の勘違いなのだ。

 私は、短期間で多くのVRソフトをプレイして、ゲーム内での冬を越してきている。それらを脳に伝えることができても、私にとっては関係ない。

 気候を遮る山の麓には、巨大な城。私は、飛べないことを知りながら、光の速さで潜入した。
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