インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

文字の大きさ
上 下
19 / 48
第2章 WWM 〜世界魔法大戦〜

第19話 種族大戦とエリア探索

しおりを挟む

 ――オオオオオォォォォ…………!!


 テントの外に響く威勢のいい雄叫び。慌てて剣を握り、現場に向かうと、街は砂埃に覆われていた。

 近づく2人のシルエット。駆け寄ってきたのは、努と彰。


「ルグアさん、大変です。種族大戦が……ゴホッゴホッ……、しゅ、種族大戦が、始まってしまいました」

(ふぇ?)


 埃を吸ったのだろう、報告する努も隣で息を切らす彰も、咳き込んでいる。


「種族大戦というのは、様々な種族。妖精・人・獣人・魔族それぞれの精鋭が繰り広げる戦争です」

「それって、精鋭部隊でなくても参加できるのか?」


 質問した。2人は顔を見合わせ答える。


「不可能ではありませんが、9千億近くのプレイヤーばかりですよ? 最前線に立てるわけ……」

「問題ない。私、別ゲーで仲間はいたが、1京のボスをソロで倒してるからさ。億単位は雑魚同然だ」


 言いかけに遮って宣言したルグア。少年たちは硬直し、そのままフリーズ。

 ラッキーと心の悪魔が騒ぎ、空を飛んで参戦する。住民たちは、地下拠点に避難して誰もいない。

 砂埃が激しくなり、視界が悪いが、勘だけで戦える私には好都合。

 空気中の脈の流れを、研ぎ澄ました感覚で読み取る。


(上空右に50、左に36。ぶつかるのは12。空振りが24。地上後方に5000)


 頭の中に浮かぶ数字。数学が苦手なのは変わらないが、これに関しては結構優秀。

(私に衝突する可能性がある人数は、2000。秒間248人。衝突まで、10、9、8、7…………)

 カウントダウンに合わせて身体を捻り、進化したばかりの魔剣に集中させる。
 そして、

(……5、4、3、2、1。ここだ!!)

 0のタイミングで、解き放つ。


 ――ビュゴォォォォ!!!!


 コンマ1秒の風切り音より大きな轟音。気づかずに走る精鋭達は、ドミノ倒しのように倒れる。

 最初に触れた人だけはなく、2km先のプレイヤーまでポリゴンとなって消えた。

 加速させて、今度は空中戦。同じように切り裂く。この戦争は夕方まで続いた。

 全てが終わり鎮まると、地下に避難していた少年たち。努は、地に足をつき静止する少女に、


「もしかして……、勝ったのは……」


 驚いた表情で言葉を詰まらせる。私は、2人に、


「そうみたいだな……」


 一言だけ、呟いた。


◇◇◇◇◇◇


  種族大戦から一夜明け、私は一時的に村を離れることにした。

 実際問題、家が完成するまであと1ヶ月かかるため、暇つぶしとレベリングを兼ねての決断である。

 日本列島はとても広く、現実との建築物配置が違うので、エリア別に回る予定だ。


「ルグアさん、フレ登録いいですか? 寂しくなりますが、家が出来上がったら連絡するので……、」


 努が、申請を送る準備をしながら、別れを惜しむ。まあ、たったの1ヶ月なので微妙だが……。

 旅立つ少女は、申請を承認。低空飛行でその場に留まると、


「時は、現実世界で止まっていても、日が昇り過ぎ去るのは、とても早い。まるで明日のように私は戻る」


 名言風に言い残し、村に背を向け高度を上げる。


(まずは、北海道だな)


 進行方向を北へ変更。村の真上を通り過ぎ加速させると、1つのほうき星になって消える。

 風は、だんだん冷たくなり、露出した肌が低温熱傷を始めた。でも、これは想定の範囲内。

 最近覚えた妖精族と魔族、そして、一部人族のみが使える魔法を、裏技の無言詠唱で唱える。

 すると、瞬間的に全身が炎で包まれた。唱えたのは、【火焔包囲】魔法。
意味はそのままで、火焔で身体を囲い包むというもの。

 自由に対象を変えられるので、攻撃手段としても使える。温まったことで冷えが無くなり、さらにスピードを上げた。

 やがて視界に入ったのは、手前半分が極寒の嵐、奥が獄炎の海で生成された北海道。

 運営は、片方を天国と言いたいのだろう。けれど、普通の人からすれば、地獄と地獄のデュエットにしか見えない。

 私は、はじめに極寒の地へ降りる。一度魔法バフを解除。瞬く間に羽根が凍り、閉じなくなった。

 さっきは、バフで寒さ対策していたが、正直なところ、ただの検証で、必要性は無い。

 現実世界と違って、ゲーム内の気温設定は、極寒とはいえ紛い物。慣れてしまえば、たかが低温熱傷でも、信号による脳の勘違いなのだ。

 私は、短期間で多くのVRソフトをプレイして、ゲーム内での冬を越してきている。それらを脳に伝えることができても、私にとっては関係ない。

 気候を遮る山の麓には、巨大な城。私は、飛べないことを知りながら、光の速さで潜入した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...