インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

文字の大きさ
上 下
8 / 48
第1章 VWDLと農作業

第8話 円卓の名を持つ者とレイドボス

しおりを挟む
 サーカス会場のワープゲートを通り、着いた場所は石畳の通路。

 手に持つ剣は軽く感じ、セーブエリアの鍛冶屋へ向かうと、見つけたのはアイテムの投入口がある機械だけ。

 なんでもいいやと、所持しているモンスター素材を入れると、小窓に武器種が表示され、私は迷わず長剣を選ぶ。


――ゴトン!!


 金属が落ちる音とともに出てきたのは、全体的に紫色の剣。もちろん、武器ステータスも確認する。


武器名:ポイズンドレインブレード
攻撃力:3500000
基本能力
攻撃時、90%の確率で毒付与(毎分2000000ダメージ)
与ダメージ分HP回復


 やはり、めちゃくちゃだった。攻撃力が異常に高すぎる。加えて、毒ダメとドレインは嬉しいが強すぎだ。


「一体どこまで強いモンスターが出てくるんだよ!!」


 私は、本音を盛大にぶちかます。


『このゲームに出てくる魔物の、最高レベルが知りたいのかい? じゃあ、僕が教えてあげるよ』


 誰もいないはずなのに聞こえてきたのは、子供の声。コツコツと鳴る足音で、姿を現したのは1人の少年だった。


「覚えてるかな? 僕はノアン。ギルド【アーサーラウンダー】所属。二つ名【ガウェイン】を持つの剣士です」


 ノアンという名前は、過去にも聞いたことがある。『コスモスレーシング』で戦い、2位を取ったプレイヤーだ。


「この前、僕は負けてしまいました。こうして話すのは”はじめまして”ですね。もちろん、名前も覚えていますよ。ルグアさん」

「そりゃどうも。私もあん時話したかったが、依頼殺到でさ。個人的にだが、ゲーム警察をしている」


 私も、嘘のない出来事を話す。確かに、レース後表彰式が終わり、声をかけようとした時、突然のメールでログアウトした。


「んで、ノアン。私に何か用でもあるのか? ここはソロ専フィールドのはずだが……」

「ああ、そのことでしたら説明します。僕達円卓の二つ名を持つ者は、他人のフィールドにアクセスすることができるんです」

「ふーん。じゃ、ここから消えてくれ」

「いえ、僕はあなたを勧誘しにきました」

「勧誘? どういうことだ?」


 言い渡された2文字の言葉に、聞き返す。勧誘とは、一体?


「実は、【モードレッド】の枠が空いてまして、昨日始めて、レベル10000を超えたあなたが、相応しいのではと…………」

「わかった。その枠に、私でいいのなら乗ってやる」


 こうして、私はトントン拍子で【アーサーラウンダー】の【モードレッド】担当になった。


「じゃ、ノアン。私はソロで攻略すっから出てくれ!!」


 薄暗い石畳の通路で、ギルド加入手続きを終えた私は、10m先に立つ少年へ言い放つ。


「その前に、君は違うことを知りたいんじゃなかったっけ? モンスターの最高レベルを」


 確かに、忘れていた。せっかく教えてくれるというのに、ギルドに意識を集中していた。


「説明するよ。僕も最近団長・二つ名【アーサー】のセレスから聞いた話なんだけど。このゲームは、Lv1000垓まであるらしいよ」

(1000垓!?)

「って、0いくつだ?」


 計算ができない私が、全エリアを複雑な空気にさせた。


「そこからでしたか。噂で知りましたが、本当だったみたいですね。1000垓は23個です」


 23個もあるのか、と関心を持つものの、今度はレイドボスを、片隅に封印するところだったので、走ってその場から離れる。


『ちなみに、ここのボスは1000兆。 0は15個ですからね!! 健闘を祈ります!!』


 手を振るノアンに背を向けて、私は第2ゲートに足を踏み入れた。


◇◇◇◇◇◇


――グルワァーウ!!


 文字に起こしても言葉にならない雄叫びが、円形の闘技場全体を震わせる。

 仁王立ちで行く手を阻む敵は、ドラゴン系のモンスター。名前は設定されておらず、ただ、ドラゴンと書かれているだけだ。


「えーと、0の数は……。一、ニ、三、四、五……」


 目を凝らしながら指折り数えていると、


――グウォウ!!


 小さく吠えて尻尾を滑らせた。勘のおかげで回避すると、数えるのを諦めて間合いを詰める。


「死角に行けば多分……」


 口から漏れた声を悟ったのか、ふところに入らせてくれない。それでも、なんとか近づくと、


――ザシュッ!!


 剣で一振り浴びさせるが、モンスターの近くで横に伸びる10本のHPゲージは、びくともしない。


「こりゃ、難敵だな。私のレベルが原因なんだろうが……」


 ドラゴンは巨体を右へ左へ回転させて、挑戦者を探す。私も、四肢を攻撃しながら狭い死角エリアを移動を繰り返し、なんとか1本削り切る。

 ドレインのおかげで被ダメージは最小に抑えているが、通らなければ、いつまで耐えられるかわからない。


「レイドポイントは……。今5万か。単位が漢字表記で助かるぜ。あと20万」


 呟きつつ細かいステップでダメージを与えると、ドラゴンが毒を受け始めた。毒は、じわじわとゲージを減らし2本目、3本目と消していく。そして5本目を削り、残り半分になった時。


――グルグワァーオォォォ!!!!


 今までで1番大きな雄叫びが、私の体力を減らし、ドラゴンは全回復した。


「やっぱりな、こいつは一撃必殺でぶっ倒すしかないか」


 一撃必殺、多くはオーバーキルで仕留めることだろう。昨日のバトルで使ったのもその1つだ。意識を剣に集中させて、左手を右腰に構える。

 今更だが、私は左利きで、食事は右手でも可能。普段は右で食べている。
 
 高めた力は赤いエフェクトを生み、体全体を包み込むと、前回同様プレイヤーゲージに”攻撃力上昇”バフが付与。 


(まだまだ!!)


 さらに剣に力を込めると、赤いエフェクトはオレンジに、オレンジから紫へと変化する。

 そして、黒いエフェクトになった瞬間、意識が途切れオーラと纏った剣閃は勢いよく放つ。


――ウゥゥゥ……


 断末魔というよりは、眠りにつくような可愛らしい声。オーバーキルの表示とクリア報酬が同時に浮かぶ。


――パチパチパチ…………。


 手を叩く音がこだました。入り口を見るとノアンが微笑んでいる。


『最初から観戦させていただきました。バグを使いましたね。まとめると、〈バグオーバーキル〉ってところでしょうか』

「……まあ、……そうなるな」


 集中力が限界を超え、フラフラと立ち上がると、疲れきった表情で応える。

 レイドポイントを確認すると、5000万と書かれ、私は「よく頑張った」と言って肩を荷を下ろし、その場に倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...