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第1章 VWDLと農作業

第8話 円卓の名を持つ者とレイドボス

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 サーカス会場のワープゲートを通り、着いた場所は石畳の通路。

 手に持つ剣は軽く感じ、セーブエリアの鍛冶屋へ向かうと、見つけたのはアイテムの投入口がある機械だけ。

 なんでもいいやと、所持しているモンスター素材を入れると、小窓に武器種が表示され、私は迷わず長剣を選ぶ。


――ゴトン!!


 金属が落ちる音とともに出てきたのは、全体的に紫色の剣。もちろん、武器ステータスも確認する。


武器名:ポイズンドレインブレード
攻撃力:3500000
基本能力
攻撃時、90%の確率で毒付与(毎分2000000ダメージ)
与ダメージ分HP回復


 やはり、めちゃくちゃだった。攻撃力が異常に高すぎる。加えて、毒ダメとドレインは嬉しいが強すぎだ。


「一体どこまで強いモンスターが出てくるんだよ!!」


 私は、本音を盛大にぶちかます。


『このゲームに出てくる魔物の、最高レベルが知りたいのかい? じゃあ、僕が教えてあげるよ』


 誰もいないはずなのに聞こえてきたのは、子供の声。コツコツと鳴る足音で、姿を現したのは1人の少年だった。


「覚えてるかな? 僕はノアン。ギルド【アーサーラウンダー】所属。二つ名【ガウェイン】を持つの剣士です」


 ノアンという名前は、過去にも聞いたことがある。『コスモスレーシング』で戦い、2位を取ったプレイヤーだ。


「この前、僕は負けてしまいました。こうして話すのは”はじめまして”ですね。もちろん、名前も覚えていますよ。ルグアさん」

「そりゃどうも。私もあん時話したかったが、依頼殺到でさ。個人的にだが、ゲーム警察をしている」


 私も、嘘のない出来事を話す。確かに、レース後表彰式が終わり、声をかけようとした時、突然のメールでログアウトした。


「んで、ノアン。私に何か用でもあるのか? ここはソロ専フィールドのはずだが……」

「ああ、そのことでしたら説明します。僕達円卓の二つ名を持つ者は、他人のフィールドにアクセスすることができるんです」

「ふーん。じゃ、ここから消えてくれ」

「いえ、僕はあなたを勧誘しにきました」

「勧誘? どういうことだ?」


 言い渡された2文字の言葉に、聞き返す。勧誘とは、一体?


「実は、【モードレッド】の枠が空いてまして、昨日始めて、レベル10000を超えたあなたが、相応しいのではと…………」

「わかった。その枠に、私でいいのなら乗ってやる」


 こうして、私はトントン拍子で【アーサーラウンダー】の【モードレッド】担当になった。


「じゃ、ノアン。私はソロで攻略すっから出てくれ!!」


 薄暗い石畳の通路で、ギルド加入手続きを終えた私は、10m先に立つ少年へ言い放つ。


「その前に、君は違うことを知りたいんじゃなかったっけ? モンスターの最高レベルを」


 確かに、忘れていた。せっかく教えてくれるというのに、ギルドに意識を集中していた。


「説明するよ。僕も最近団長・二つ名【アーサー】のセレスから聞いた話なんだけど。このゲームは、Lv1000垓まであるらしいよ」

(1000垓!?)

「って、0いくつだ?」


 計算ができない私が、全エリアを複雑な空気にさせた。


「そこからでしたか。噂で知りましたが、本当だったみたいですね。1000垓は23個です」


 23個もあるのか、と関心を持つものの、今度はレイドボスを、片隅に封印するところだったので、走ってその場から離れる。


『ちなみに、ここのボスは1000兆。 0は15個ですからね!! 健闘を祈ります!!』


 手を振るノアンに背を向けて、私は第2ゲートに足を踏み入れた。


◇◇◇◇◇◇


――グルワァーウ!!


 文字に起こしても言葉にならない雄叫びが、円形の闘技場全体を震わせる。

 仁王立ちで行く手を阻む敵は、ドラゴン系のモンスター。名前は設定されておらず、ただ、ドラゴンと書かれているだけだ。


「えーと、0の数は……。一、ニ、三、四、五……」


 目を凝らしながら指折り数えていると、


――グウォウ!!


 小さく吠えて尻尾を滑らせた。勘のおかげで回避すると、数えるのを諦めて間合いを詰める。


「死角に行けば多分……」


 口から漏れた声を悟ったのか、ふところに入らせてくれない。それでも、なんとか近づくと、


――ザシュッ!!


 剣で一振り浴びさせるが、モンスターの近くで横に伸びる10本のHPゲージは、びくともしない。


「こりゃ、難敵だな。私のレベルが原因なんだろうが……」


 ドラゴンは巨体を右へ左へ回転させて、挑戦者を探す。私も、四肢を攻撃しながら狭い死角エリアを移動を繰り返し、なんとか1本削り切る。

 ドレインのおかげで被ダメージは最小に抑えているが、通らなければ、いつまで耐えられるかわからない。


「レイドポイントは……。今5万か。単位が漢字表記で助かるぜ。あと20万」


 呟きつつ細かいステップでダメージを与えると、ドラゴンが毒を受け始めた。毒は、じわじわとゲージを減らし2本目、3本目と消していく。そして5本目を削り、残り半分になった時。


――グルグワァーオォォォ!!!!


 今までで1番大きな雄叫びが、私の体力を減らし、ドラゴンは全回復した。


「やっぱりな、こいつは一撃必殺でぶっ倒すしかないか」


 一撃必殺、多くはオーバーキルで仕留めることだろう。昨日のバトルで使ったのもその1つだ。意識を剣に集中させて、左手を右腰に構える。

 今更だが、私は左利きで、食事は右手でも可能。普段は右で食べている。
 
 高めた力は赤いエフェクトを生み、体全体を包み込むと、前回同様プレイヤーゲージに”攻撃力上昇”バフが付与。 


(まだまだ!!)


 さらに剣に力を込めると、赤いエフェクトはオレンジに、オレンジから紫へと変化する。

 そして、黒いエフェクトになった瞬間、意識が途切れオーラと纏った剣閃は勢いよく放つ。


――ウゥゥゥ……


 断末魔というよりは、眠りにつくような可愛らしい声。オーバーキルの表示とクリア報酬が同時に浮かぶ。


――パチパチパチ…………。


 手を叩く音がこだました。入り口を見るとノアンが微笑んでいる。


『最初から観戦させていただきました。バグを使いましたね。まとめると、〈バグオーバーキル〉ってところでしょうか』

「……まあ、……そうなるな」


 集中力が限界を超え、フラフラと立ち上がると、疲れきった表情で応える。

 レイドポイントを確認すると、5000万と書かれ、私は「よく頑張った」と言って肩を荷を下ろし、その場に倒れた。
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