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第3章 ダークファンタジー編
第84話 忘れたい人 楽しむこと
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「私が忘れていることですか?」
「そうです。あなたはなぜ〝この物語を紡いでいるのですか?〟。答えはその先にあります」
「その前に、私が覚えていたフラットって……」
「そこからですか。彼の名前はフラット・サンクチェ。幼なじみなのでは?」
「幼なじみ……。フラット・サンクチェが? 私は元からこの世界にいたわけじゃないし。そんな名前は覚えて……」
いないはずだ。そんなの空想でしかない。どうしてその名前が出てきたのか? それもわからない。なぜ覚えて知っているのかもわからない。
これが偽りの世界ならば、私はここにはいないだろう。けれども、私はここで生きている。私が忘れようとしていたのは、そのフラットという名前。
私が知っていたのとはフルネームが違っても、フラットなのはフラットだ。どうにかして忘れたい。
また思い出してしまった。思い出さないようにしたくても、思い出してしまう。これが負の連鎖だと言うのならば。
死んでも忘れてやりたい。しかし、死んでしまえばまた別の誰かが悲しんでしまうだろう。負の連鎖はこんなにもつらいのか。
ルグアとは違い。私には抜けてる部分が多い。以前言ったように、なんでも信じ込んでは事件を起こす。
その危害は計り知れなく、疫病神とも言われるほど。そんな私にもいつかは朝日が昇る。そしてまた思い出させる。
朝日なんて昇らなくていい。忘れられるならそれでいい。忘れたい、もっと自分の世界に閉じこもりたい。ルグア達と一緒にいたい。
とにかく、ともかく私が望んでいた真の正解を見つけ出したい。こんな世界なんて嘘だ。嘘で塗り固められている偽りだ。
「あなたは、その彼と共にハデスのもとへ向かいました。そこで彼はあなたを置いて去って行きました。誰が悪いですか?」
「私です……」
「あなたは、そんな彼を忘れることができなかった。かの名前は忘れなければならないと知ってるにも関わらずです」
「はい……」
「近くあなたに不幸が訪れる。取り返しのつかないことが。それを忘れるために、元凶である彼を忘れるために紡いでいるのではないですか?」
「彼を忘れるために……。私が一番楽しみにしていること。それは物語を紡ぎ続けること」
「そうです。わたくしはそれを思い出させるために、あなたを誘いました。ただこのままではまだ足りないようですね」
(このままではまだ足りない?)
「はい。まだ足りないです。現状ではまた思い出す。もっと楽しませないといけないようですね。この物語で頭がいっぱいになるまで」
「この物語で頭をいっぱいに? 思えばまだ覚えています。彼の名前を」
「でしょうね。あなたは一度忘れては思い出すを繰り返しています。彼とは無関係なことを考えるべきです。やけ食いしろとは言いません」
「や、やけ食いはしないですよ。テラリアさん」
「本当ですか? 少し体重が増えたと聞きましたが……」
***数日前***
「ガデルしゃん。まだ食べるりょんか?」
「だだだって、忘れるために食べるんだから。フゴフゴっ。ゴクリ……。この料理美味しい」
「食べても忘れられないりょんよ?」
***現在***
「やけ食いしてるではないですか。嘘はつくものではありません。本当に忘れたいのであれば、彼の物語も紡げばいいのです。
一つの物語として成立させれば、思い出しても彼と話すことは無くなるでしょう」
「一つの物語として成立させる。私がフラットの物語を。思い出せる限りのストーリーを」
「その通りです。あなたの人生を紡ぎ育てたこの物語。あなたにしか紡げない。あなたと、そのルグアやアレン達と紡いできた物語を、捨てることはできないはずです」
「ルグアさんやアレンさん。みんな‼」
「わたくしが伝えたいことはまだたくさんあります。あなたはまだ聞く気持ちはありますか?」
「はい‼」
テラリアとの会話が楽しい。まだまだ話していたい。こんなにも楽しいのは久しぶりに近い。いや、久しぶりだ。
この物語の人物とここまで楽しめているのも、物語を紡いでいる感覚も、何もかもが楽しい。こんなことを忘れていただなんて。
もっと、もっとこの物語を書き続けたい。紡ぎ続けたい。どこまでも、どこまでも長く、全世界に広がるように。自分の言葉で。
「ルグアさん。アレンさん。ごめんなさい。私が間違ってたよ」
「また思い出してしまいそうですね」
「はい……。なんで。もう思い出したくないのに」
「忘れたい。ですが、全て消し去ることはできない。繰り返しになりますが今を楽しむのです」
やっぱりそれしか方法はないのか……。好きな小説を書く。それしか忘れる方法がないのか。ならば、時間の許す限り書き続ける。
テラリアが微笑むような気がした。そろそろお別れの時間なのだろうか? テラリアと別れたくない。これが固執しすぎるという悪い癖。
「そうですね。あなたに渡したい物があります」
「私にですか?」
「はい、ポイズン・ダガーを見せて貰えますか?」
「ポイズン・ダガーって、私の愛剣?」
「そうです」
私はポイズン・ダガーを差し出す。すると、ダガーが突然光りだし、その姿を変化させた。二本あった刃はその長さを伸ばし、より鋭利に。
なんと言えばいいのか。神の武器を得た気分だった。
「その武器の名は、レフィレン・ダガー。わたくしの守護精霊フィレンの名前を持つ武器です」
「レフィレン・ダガー……。ありがとうございます」
「そろそろ別れの時です。不安になったらそのダガーに語りかけてください。いつでも相談に乗って差し上げましょう」
「はいっ‼ テラリアさん。ありがとうございます‼」
「そうです。あなたはなぜ〝この物語を紡いでいるのですか?〟。答えはその先にあります」
「その前に、私が覚えていたフラットって……」
「そこからですか。彼の名前はフラット・サンクチェ。幼なじみなのでは?」
「幼なじみ……。フラット・サンクチェが? 私は元からこの世界にいたわけじゃないし。そんな名前は覚えて……」
いないはずだ。そんなの空想でしかない。どうしてその名前が出てきたのか? それもわからない。なぜ覚えて知っているのかもわからない。
これが偽りの世界ならば、私はここにはいないだろう。けれども、私はここで生きている。私が忘れようとしていたのは、そのフラットという名前。
私が知っていたのとはフルネームが違っても、フラットなのはフラットだ。どうにかして忘れたい。
また思い出してしまった。思い出さないようにしたくても、思い出してしまう。これが負の連鎖だと言うのならば。
死んでも忘れてやりたい。しかし、死んでしまえばまた別の誰かが悲しんでしまうだろう。負の連鎖はこんなにもつらいのか。
ルグアとは違い。私には抜けてる部分が多い。以前言ったように、なんでも信じ込んでは事件を起こす。
その危害は計り知れなく、疫病神とも言われるほど。そんな私にもいつかは朝日が昇る。そしてまた思い出させる。
朝日なんて昇らなくていい。忘れられるならそれでいい。忘れたい、もっと自分の世界に閉じこもりたい。ルグア達と一緒にいたい。
とにかく、ともかく私が望んでいた真の正解を見つけ出したい。こんな世界なんて嘘だ。嘘で塗り固められている偽りだ。
「あなたは、その彼と共にハデスのもとへ向かいました。そこで彼はあなたを置いて去って行きました。誰が悪いですか?」
「私です……」
「あなたは、そんな彼を忘れることができなかった。かの名前は忘れなければならないと知ってるにも関わらずです」
「はい……」
「近くあなたに不幸が訪れる。取り返しのつかないことが。それを忘れるために、元凶である彼を忘れるために紡いでいるのではないですか?」
「彼を忘れるために……。私が一番楽しみにしていること。それは物語を紡ぎ続けること」
「そうです。わたくしはそれを思い出させるために、あなたを誘いました。ただこのままではまだ足りないようですね」
(このままではまだ足りない?)
「はい。まだ足りないです。現状ではまた思い出す。もっと楽しませないといけないようですね。この物語で頭がいっぱいになるまで」
「この物語で頭をいっぱいに? 思えばまだ覚えています。彼の名前を」
「でしょうね。あなたは一度忘れては思い出すを繰り返しています。彼とは無関係なことを考えるべきです。やけ食いしろとは言いません」
「や、やけ食いはしないですよ。テラリアさん」
「本当ですか? 少し体重が増えたと聞きましたが……」
***数日前***
「ガデルしゃん。まだ食べるりょんか?」
「だだだって、忘れるために食べるんだから。フゴフゴっ。ゴクリ……。この料理美味しい」
「食べても忘れられないりょんよ?」
***現在***
「やけ食いしてるではないですか。嘘はつくものではありません。本当に忘れたいのであれば、彼の物語も紡げばいいのです。
一つの物語として成立させれば、思い出しても彼と話すことは無くなるでしょう」
「一つの物語として成立させる。私がフラットの物語を。思い出せる限りのストーリーを」
「その通りです。あなたの人生を紡ぎ育てたこの物語。あなたにしか紡げない。あなたと、そのルグアやアレン達と紡いできた物語を、捨てることはできないはずです」
「ルグアさんやアレンさん。みんな‼」
「わたくしが伝えたいことはまだたくさんあります。あなたはまだ聞く気持ちはありますか?」
「はい‼」
テラリアとの会話が楽しい。まだまだ話していたい。こんなにも楽しいのは久しぶりに近い。いや、久しぶりだ。
この物語の人物とここまで楽しめているのも、物語を紡いでいる感覚も、何もかもが楽しい。こんなことを忘れていただなんて。
もっと、もっとこの物語を書き続けたい。紡ぎ続けたい。どこまでも、どこまでも長く、全世界に広がるように。自分の言葉で。
「ルグアさん。アレンさん。ごめんなさい。私が間違ってたよ」
「また思い出してしまいそうですね」
「はい……。なんで。もう思い出したくないのに」
「忘れたい。ですが、全て消し去ることはできない。繰り返しになりますが今を楽しむのです」
やっぱりそれしか方法はないのか……。好きな小説を書く。それしか忘れる方法がないのか。ならば、時間の許す限り書き続ける。
テラリアが微笑むような気がした。そろそろお別れの時間なのだろうか? テラリアと別れたくない。これが固執しすぎるという悪い癖。
「そうですね。あなたに渡したい物があります」
「私にですか?」
「はい、ポイズン・ダガーを見せて貰えますか?」
「ポイズン・ダガーって、私の愛剣?」
「そうです」
私はポイズン・ダガーを差し出す。すると、ダガーが突然光りだし、その姿を変化させた。二本あった刃はその長さを伸ばし、より鋭利に。
なんと言えばいいのか。神の武器を得た気分だった。
「その武器の名は、レフィレン・ダガー。わたくしの守護精霊フィレンの名前を持つ武器です」
「レフィレン・ダガー……。ありがとうございます」
「そろそろ別れの時です。不安になったらそのダガーに語りかけてください。いつでも相談に乗って差し上げましょう」
「はいっ‼ テラリアさん。ありがとうございます‼」
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