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第3章 ダークファンタジー編

第65話 変遷の予兆

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 ◇◇◇1年前二〇三一年七月二十日◇◇◇
 ◇◇◇宮鳥家 美紅目線◇◇◇


「亜蓮‼ 亜蓮‼ いつまでダラダラしているの‼」

『……』

「……もう。また夜更かしして……」

 私は一階から一人息子の名前を呼ぶ。しかし、何時間経っても返事がない。いつものルーティンになってしまった、亜蓮の部屋へ入る時間。
 部屋はエアコンつけっぱなしで、ベッドにはVRゲーム機をかぶった亜蓮。勉強机のパソコンには、プレイ中のゲームタイトルが表示されたまま。

〈プレイ中ゲーム〉
〈リアゼノン・オンライン〉
〈経過時間:3:59〉

「リアゼノン……オンライン……。私の職場の子会社で運営しているゲームじゃない」

(明理さんが今日のサービス開始で、デスゲームとか言ってたけど。無理に外すわけにもいかないよね)

 これが本当のデスゲームなのかは、まだ聞かされていないけど。もし明理さんが入っているなら、亜蓮のことを見ていて欲しい。
 彼女なら亜蓮を見つけてくれる。それよりも、このまま亜蓮をベッドに寝かせておけない。私は救急車を呼ぶため、パジャマの後ろポケットに手を伸ばす。

 ――プルルルル……。プルルルル……。

「電話? 今日は早番だから、夕方以降のシフト入れていないけど……」

 突然鳴り出した自分のスマホ。後ろポケットのバイプでも教えてくれる。サッと手に取り画面を見ると、社長の寺山からだった。

「もしもし。寺山社長?」

 ――『美紅ちゃん。よかった出てくれて』

「その……。こんな時間に、社長なにかあったんですか?」

 ――『それがね~。美紅ちゃんに。デスゲーム開始アナウンスを頼んじゃおうかなって。どう? 暇?』

「暇ですけど……。息子が〝リアゼノン〟にログインしていて、救急車を呼ぶところでした」

 ――『亜蓮君が? ならそっち先終わらせちゃって』

「すみません、社長。あとで折り返しします」


  ◇◇◇数分後◇◇◇


「息子の入院手続き終わりました。ほんとすみません……」

 ――『おかえり。今人手不足でさぁ……。集中アクセスされちゃってね。美紅ちゃんなら声も綺麗だし』

「ありがとうございます」

 ――『寒くないように来てね。待ってるから。あ、場所は【アルファレノス】でよろ~』

「わかりました。ありがとうございます社長」


 ◇◇◇アルファレノス◇◇◇


「お待たせしました。寺山社長」
「美紅ちゃん。あれ? それ寝巻きだよねぇ?」
「……ッ⁉」

 私は寺山社長の言葉で、自分の服装に気がついた。全身花柄ピンクの可愛らしいパジャマ。急ぐことしか頭になかったので、私服に着替え忘れてしまった。

(私も亜蓮のこと言えないじゃない……)


 ***今朝の亜蓮***


 ――ジリリリリリ……。ジリリリリリ……。

 強い朝日を遮るカーテンで、薄暗い部屋の中。耳元でスマホのアラームが鳴り続ける。もう起きる時間。まだ寝ていたいのに……。

『亜蓮起きなさい‼ 今日の朝練はどうするの?』

 一階から聞こえてくる母さんの声。今すぐ布団から出たいけど、身体がずっしりと重い。ダンダンダンと響く階段を上る音。ガチャりと扉が開いて数秒後に……。

 ――バサァ‼ ガラガラ、ガラガラ……。

「……⁉ ま、眩しんすけど……」
「眩しいのはみんな同じだよ。それより……」

 勝手に俺のスマホを取る母さん。ロック画面をジロジロ見つめて、俺の顔に突きつけてきた。

〈AM 7:30〉

「うわッ⁉ マジ? ヤベぇじゃん‼」
「完全に遅刻じゃない。テーブルの上にチーズトースト置いてあるから。さっさと支度してきなさい」
「の前にスマホ返し……」
「支度が終わるまで預かります」
「……はい」

 母さんに言われるがまま、俺は制服に着替える。夏用なので、上はワイシャツ。午後に部活があるから、第2カバンに体操部のユニフォームも詰め込む。
 現在十六歳の高校1年生。入りたて部員だけど、春の大会に出たこともある。けれども、要領が悪いせいで、全くモテなかった。
 外見だけはかっこいいらしく、女子に囲まれるけど。内面に気づかれた瞬間、誰も寄り付かなくなってしまう。

「乱れて……。ないっすよね……」

 駆け足で階段を下りて、洗面所へ。簡単に生まれつきの天然パーマを手直しして、歯磨きと洗顔も済ませる。
 次にパンをくわえて、背中に第1カバンを背負い、第2カバンは左手で。『亜蓮忘れ物』と、俺を引き止めた母さんの手には、預かってもらっていたスマホ。
 それを受け取ってズボンに突っ込むと、全速力で学校へ向かった。


 ***現在***


「テステス。ゲーム内にアナウンス音声入ってるかな?」

『はいっ‼ 第五十層テストスピーカーでの音声出力、確認出来ました‼』

「室田くんありがと‼ さて、大まかな下準備はこれで全部かな? プレイヤーへのシステムアナウンス用スピーカー入れて‼」

『任せてください‼』

 寺山社長と同期だという室田さん。二人はいつも飲み会に行くらしい。そして、寺山社長には妻ができたばかり。
 その相手が、何やら【始まりの魔女】を名乗っているという、船岸楓さん。そして彼女の同級生に明理さんがいた。

「いよいよ美紅ちゃんのでばんだよぉ‼ 準備いいかな? それよりも原稿渡してなかったね。はいこれ」

 とても機嫌が良い寺山社長。このゲームは、短期間でサービス終了となった〈WWM〉と同じ超大規模サーバーで運営される。
 一度壊れてしまったスーパーコンピュータを点検し、ここまでプログラムを作ったのだから。子供を巣立たせる気持ちでいっぱい。

「社長読み終わりました‼」
「早いね。ほんと助かるよ。じゃ、こっちのマイクまで来てね‼」
「わかりました‼」


 ◇◇◇リアゼノン内◇◇◇


 ――『これより、本ゲームは〝デスゲーム〟として運営されます。いずれかのプレイヤーが全エリアを攻略後、この設定は解除されます』
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