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第2章前編

第39話 正しさへの戸惑い

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「お疲れアレン」
「チェリス……」
「よ、呼び捨てって……。まあいいけど。今日はゆっくり休みなさい」

 対抗戦は相手の降参サレンダーで終わった。ショーのような戦いに、観客から湧き上がる声。俺は敵ギルドの団長と握手を交わし、ステージから降りる。
 バトルの熱が冷め、糸が切れたようにふらつく俺。それをチェリスが受け止め、微笑みながら何度も休息を勧める。
 
「その……チェリス……。これでいいんすよね?」
「それはあんたにしかわからない問いかけね……。あんたがそれでいいなら、何も言うことはないわ」
「そうっすよね。なんか、ほんとごめん……。もっと胸を張ることができたらなぁーって。一人で戦うことを伝える時なんか特に……」
「ほんとなんなのよ、急に正気に戻って……。ふふふ、あんたの感情は、団長としての仕事よりも大忙しね。切り替えの早さは、自慢してもいいんじゃないかしら?」

 えっ? 俺って。そういえば、バトルが終わってすぐに笑って、ステージから降りてチェリスに抱かれたまま泣いて、今は後ろめたくなっていた。
 ゲーム世界の空。涙で視界がぼやけ、半島もな群青色に染まる。様子がわからない。抱きついたままでは何もできない。
 それに気づいたのか、母親のような柔らかい表情のチェリスが、俺の目元を袖口で拭う。
 ぼやけた空間が鮮明な色を取り戻すと、そこには盛大な拍手で祝福する観客達。そして、俺の名前を呼ぶ声だった。

「みんなあんたに釘付けのようね。よかったじゃない」
「えっ?」
「これで、評価も少し上がったはずよ。勧誘するなら今。このチャンスを逃したら次はないと思いなさい」

 勧誘するならと言われても、宣伝文句が出て来ない。発言の必要性は俺でもわかるけど、緊張で唇が小刻みに震えだす。
 考えれば考えるほど、思考が頭の中を圧迫させるだけ。行動に移せない。さっきは戦うことへの思考を節約できたのに……。
 言葉は難しい。山のように単語が溢れだして、『これだ‼』と決めるのが、思った以上に大変だった。
 一つ間違えたら一方的になってしまう。そもそも、小さい時から自分中心で、自分の好きなことにしか興味がなくて……。
 やり取りできる人も同じ趣味、同じ興味がある米粒単位くらい。仲間ができても、俺の自分勝手で去っていく……。

「アレン。そろそろタイムリミットよ。人が解散し始めたわ」
「……」
「アレン?」
「やっぱり……。やっぱり俺には……」
「『無理』で済ませるなんて許さないから。人生は賭け事よ。ほら、口角だけでも上げなさい」

 チェリスの口から飛び出した〝人生は賭け事〟という言葉。そのセリフが心の奥でひっそり佇む、黒い何かにヒビを入れていた。
 そんな彼女は、俺の唇の両端をつまむと、グイグイと外側へ引っ張る。無理やり笑顔を作らせるために……。
 引っ張っられた場所が痛い。同時に黒い何かが気になって仕方ない。
 まるで引き潮のようにいなくなる人。俺は戦っただけで、何もできなかった。何もできなかったという言葉が、黒い何かのヒビを埋める。

「……これは……一体?」
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