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第2章前編

第10話 病弱な青年

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 ――リゲル……。

 どこからか聞こえてきた、囁きかけるような声。これは夢なのだろうか? 今の僕はアレンという少年と一つになっている。
 なのに、どこかで聞いた事のある優しい声。目を開けると、そこには懐かしい面々。温かい表情で見つめる女性。整ったその顔は、母上の顔によく似ている。

「母上様……?」
『もう全身ボロボロになって。病気にかかりやすいんだから。部屋で安静にしていなさい』
「で、ですが、母上‼」

 兄弟の中で僕が一番厳しく守られている。ルールではなく家族全員に。これはまだルグアに出会う前の記憶に違いない。
 外では激しくぶつかり合う剣戦の金属音。ガキィーンという高音は、耳を塞ぎたくなるほど鬱陶しい。
 でも、戦場に立ちたい。僕は愛用の長槍を携えて、家族の知らない隠し通路から、家を抜け出す。バックにそびえる城から離れて、勝敗を争う人の群れへ……。

「リゲル大将‼ お待ちしておりました‼」
「こちらこそ、第二部隊の状況は?」
「今のところ、優勢を保っております。それより、お身体の具合はいかがでしょうか?」
「ゆっくり休息をとったことで、だいぶ回復しましたね。お気遣いありがとうございます」

 そう話をした相手は部隊の筆頭監督。幼少期からの親しい仲だけど、名前は一度も聞いたことがない。けれども、筆頭監督の腕はいい。
 素早い判断力は、戦況をもくつがえすほどだ。しかし、この後起こることを知っている今の僕は、筆頭監督には逃げてほしかった。
 だが、きっとこれはただの夢。世界軸が巻き戻った訳ではなく、フラッシュバックでしかない。気付けばもう遅い。

「リゲル様はここでお待ちください」
「ご無理をなさらないようにお願いいたします」
「では……」

 目の前に広がるのは荒れた平原。草花と呼べるものはなく、障害物も皆無。唯一隠し通路の外に壁があるだけ。そんな防壁から去って行く筆頭監督。
 記憶の中では、その戦友が帰ってくることはなかった。僕は喪失感に襲われて、戦場に顔を出せなくなり。それから数日。

 ◇◇◇◇◇◇

 ――連絡、連絡!! 全国民に告ぐ。こちらは王都軍事放送局。現在、未知の魔物に攻め込まれています。帝国軍の攻撃による、王都防衛部隊の減少のため、至急応援を要請します!!

 城の外から拡声器の緊急呼び出し。王都ライナスに敵陣が攻めて来ているという知らせだった。

 ――ゴンゴンッ‼

『息子よ。戦場に行かないのか?』
「ち、ち……」
『お父様では……。怯えては進まない。皆が息子の君を待っている』
「で、ですが……」

 ――国王‼ 検問所より連絡です。応援参加者希望者に手ぶらでやってきた者が……。

「手ぶら? お父様。承知しました。検問所にその者と顔合わせしたいと、連絡していただけますでしょうか?」
『わかった。怪我のないようにな。決して病になどかからぬように……』
「はい」

 これが、ルグアと出会うきっかけになる。待ち合わせ場所は、隠し通路で直行できる西門前。そこにやってきた相手が彼女だったのだから。
 最初は長身男性かと思ったが、フォルテと身体を共有していると知り、素手で敵を倒していく姿は、ものすごく勇ましい・
 そういえば、筆頭監督も格闘による接近戦を得意としていた。無意識に照らし合わせえていたのかもしれない。


「リゲルさん。来ます!!」
「ありがとうございます!!」

 勘で敵の位置がわかるというのは、不思議な人と印象づける。彼女の発言通りに敵は現れ、彼女が一人で片付ける。
 途中、敵陣の増加で彼女が二人に別れたのは、マジックなのではと疑い。別々の意識で行動している様は、想像を遥かに超えた刹那の激戦。
 そんな彼女に引き寄せられてしまった。見えない磁石が共鳴するかのように……。
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