上 下
119 / 341
第2章前編

第10話 病弱な青年

しおりを挟む

 ――リゲル……。

 どこからか聞こえてきた、囁きかけるような声。これは夢なのだろうか? 今の僕はアレンという少年と一つになっている。
 なのに、どこかで聞いた事のある優しい声。目を開けると、そこには懐かしい面々。温かい表情で見つめる女性。整ったその顔は、母上の顔によく似ている。

「母上様……?」
『もう全身ボロボロになって。病気にかかりやすいんだから。部屋で安静にしていなさい』
「で、ですが、母上‼」

 兄弟の中で僕が一番厳しく守られている。ルールではなく家族全員に。これはまだルグアに出会う前の記憶に違いない。
 外では激しくぶつかり合う剣戦の金属音。ガキィーンという高音は、耳を塞ぎたくなるほど鬱陶しい。
 でも、戦場に立ちたい。僕は愛用の長槍を携えて、家族の知らない隠し通路から、家を抜け出す。バックにそびえる城から離れて、勝敗を争う人の群れへ……。

「リゲル大将‼ お待ちしておりました‼」
「こちらこそ、第二部隊の状況は?」
「今のところ、優勢を保っております。それより、お身体の具合はいかがでしょうか?」
「ゆっくり休息をとったことで、だいぶ回復しましたね。お気遣いありがとうございます」

 そう話をした相手は部隊の筆頭監督。幼少期からの親しい仲だけど、名前は一度も聞いたことがない。けれども、筆頭監督の腕はいい。
 素早い判断力は、戦況をもくつがえすほどだ。しかし、この後起こることを知っている今の僕は、筆頭監督には逃げてほしかった。
 だが、きっとこれはただの夢。世界軸が巻き戻った訳ではなく、フラッシュバックでしかない。気付けばもう遅い。

「リゲル様はここでお待ちください」
「ご無理をなさらないようにお願いいたします」
「では……」

 目の前に広がるのは荒れた平原。草花と呼べるものはなく、障害物も皆無。唯一隠し通路の外に壁があるだけ。そんな防壁から去って行く筆頭監督。
 記憶の中では、その戦友が帰ってくることはなかった。僕は喪失感に襲われて、戦場に顔を出せなくなり。それから数日。

 ◇◇◇◇◇◇

 ――連絡、連絡!! 全国民に告ぐ。こちらは王都軍事放送局。現在、未知の魔物に攻め込まれています。帝国軍の攻撃による、王都防衛部隊の減少のため、至急応援を要請します!!

 城の外から拡声器の緊急呼び出し。王都ライナスに敵陣が攻めて来ているという知らせだった。

 ――ゴンゴンッ‼

『息子よ。戦場に行かないのか?』
「ち、ち……」
『お父様では……。怯えては進まない。皆が息子の君を待っている』
「で、ですが……」

 ――国王‼ 検問所より連絡です。応援参加者希望者に手ぶらでやってきた者が……。

「手ぶら? お父様。承知しました。検問所にその者と顔合わせしたいと、連絡していただけますでしょうか?」
『わかった。怪我のないようにな。決して病になどかからぬように……』
「はい」

 これが、ルグアと出会うきっかけになる。待ち合わせ場所は、隠し通路で直行できる西門前。そこにやってきた相手が彼女だったのだから。
 最初は長身男性かと思ったが、フォルテと身体を共有していると知り、素手で敵を倒していく姿は、ものすごく勇ましい・
 そういえば、筆頭監督も格闘による接近戦を得意としていた。無意識に照らし合わせえていたのかもしれない。


「リゲルさん。来ます!!」
「ありがとうございます!!」

 勘で敵の位置がわかるというのは、不思議な人と印象づける。彼女の発言通りに敵は現れ、彼女が一人で片付ける。
 途中、敵陣の増加で彼女が二人に別れたのは、マジックなのではと疑い。別々の意識で行動している様は、想像を遥かに超えた刹那の激戦。
 そんな彼女に引き寄せられてしまった。見えない磁石が共鳴するかのように……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

強くてニューゲーム!~とある人気実況プレイヤーのVRMMO奮闘記~

邑上主水
SF
数多くの実況プレイヤーがプレイする、剣と魔術のファンタジーVRMMOゲーム、ドラゴンズクロンヌで人気実力ともにNo1実況プレイヤー江戸川 蘭はその人気ぶりから企業からスポンサードされるほどのプレイヤーだったが、現実世界では友達ゼロ、ボッチでコミュ障の高校生だった。 そして、いつものように苦痛の昼休みをじっと耐えていたある日、蘭は憧れのクラスメイトである二ノ宮 鈴に思いがけない言葉をかけられる。 「ドラゴンズクロンヌ、一緒にプレイしてくれないかな?」 これはLV1のキャラクターで知識とテクニックを武器に仮想現実世界を無双していく、とある実況プレイヤーの(リア充になるための)奮闘記である。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~

百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしった。 この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。 憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。 そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。 名前は、早乙女 久。 プレイヤー名は オクツ。 運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。 何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。 初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。 ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。

テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ

雪月 夜狐
SF
「強くなくても楽しめる、のんびりスローライフ!」 フリーターの陽平が、VRMMO『エターナルガーデンオンライン』で目指すのは、テイマーとしてモンスターと共にスローライフを満喫すること。戦闘や冒険は他のプレイヤーにお任せ!彼がこだわるのは、癒し系モンスターのテイムと、美味しい料理を作ること。 ゲームを始めてすぐに出会った相棒は、かわいい青いスライム「ぷに」。畑仕事に付き合ったり、料理を手伝ったり、のんびりとした毎日が続く……はずだったけれど、テイムしたモンスターが思わぬ成長を見せたり、謎の大型イベントに巻き込まれたりと、少しずつ非日常もやってくる? モンスター牧場でスローライフ!料理とテイムを楽しみながら、異世界VRMMOでのんびり過ごすほのぼのストーリー。 スライムの「ぷに」と一緒に、あなただけのゆったり冒険、始めませんか? 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】 『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/270920526】

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

処理中です...