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第1章
第92話 願いを一つ……
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「チェリスさん。よろしくお願いします」
「それはこっちのセリフよ、リゲル? 頼んだからね。着いて来なさい」
「承知しました」
水の中でプカプカと浮かぶ身体。槍は構えたまま前進する。水の抵抗で動きが遅い。僕はそれに抗い無理やり接近。
水しぶきをあげながら、クラーケンの頭に突き刺す。ハッと気付いたように見開かれたボスの瞳。脱力したかのように垂れた触手が、うねりを始める。
俊敏し動く触手がありとあらゆる場所を裂き、針とも言えるくらい尖った足先は、プールサイドを突き刺していく。
触手の槍と僕が持つ神槍。クロスをしては一歩退いて、互いの様子をうかがう。先手を打つべきか否か。毒を持っている可能性もある。
「闇雲に行動するのは、リスクもありえますね……」
「確かにそうね……。けど、アタシは攻略法知ってるから」
「そうなのですね。なら僕も安心です。精一杯手伝わせていただきます」
「助かるわ。でも、しっかり前も見なさい」
「前に何か?」
――ビュッシューーン。
よそ見をしていた矢先に突き抜かんとする、クラーケンの脚。的を決めずにうねりをあげて、縦横無尽に動く。
そのうちの一つが襲い掛かったその時に僕の間に割って入る人の影。貫いたのと同時に見えたその姿は……。
「風魔親分‼」
『親分? ってなんすか?』
「僕は風魔親分に助けられたことがありまして、以来そう呼ばせていただいているのです」
「オマエら標的をそらす時間がないのを、忘れている。その話はあとでいい。まず……は……」
『風魔さん?』
「親分‼」
真正面で仁王立ちする風の身体が、足先から固まっていく。硬化質にも見えるそれは、石化を始めているのだろう。
僕は周辺に被害が出ていないか確認する。しかし、あらゆる方向に飛び交うクラーケンの脚は、次々とアレンの仲間を石像に変えていた。
逃げるか、共倒れ覚悟で挑むか。どちらにしろ仲間を危険に晒す。僕にはそんなことはできない。きっとアレンも同じ気持ち。
「アレンさん。どうしますか?」
『どど、どうするって……』
「僕は貴方に従います。どうされますか?」
『お、俺に聞かれても無理っすよ……』
――旅の者、一つ願いを叶えてもらえませんか?
『あれ? リゲルなんか言ったっすよね?』
「いいえ、何も申しておりませんが……」
突然聞こえた女性の声。僕の声ではない。しかしどこから発せられたものなのだろうか? 主の姿は見当たらない。
『ほんとっすか?』
「ええ」
疑問を隠せずにいるアレン。それはひしひしと伝わってくる。僕も知りたい。親分の言葉の続きを聞きたい。そのために助けなければ……。
――どなたか、わたくしの願いを一つ……。わたくしの名前はダレネス。余命もあとわずか。このままでは未練を果たせぬまま、いずれ木と化してしまいます。今すぐ校舎の裏手へ……。
『き、木になっちゃううんすか⁉』
どうやら声の主の名はダレネスと言うようだ。しかし、このままだと木になってしまうとは……。
「困りましたね。急がば回れ、早急に参りましょう」
『了解っす‼』
即断即決。僕は意識を共有するアレンと共に、校舎の裏手へと駆け出した。
「それはこっちのセリフよ、リゲル? 頼んだからね。着いて来なさい」
「承知しました」
水の中でプカプカと浮かぶ身体。槍は構えたまま前進する。水の抵抗で動きが遅い。僕はそれに抗い無理やり接近。
水しぶきをあげながら、クラーケンの頭に突き刺す。ハッと気付いたように見開かれたボスの瞳。脱力したかのように垂れた触手が、うねりを始める。
俊敏し動く触手がありとあらゆる場所を裂き、針とも言えるくらい尖った足先は、プールサイドを突き刺していく。
触手の槍と僕が持つ神槍。クロスをしては一歩退いて、互いの様子をうかがう。先手を打つべきか否か。毒を持っている可能性もある。
「闇雲に行動するのは、リスクもありえますね……」
「確かにそうね……。けど、アタシは攻略法知ってるから」
「そうなのですね。なら僕も安心です。精一杯手伝わせていただきます」
「助かるわ。でも、しっかり前も見なさい」
「前に何か?」
――ビュッシューーン。
よそ見をしていた矢先に突き抜かんとする、クラーケンの脚。的を決めずにうねりをあげて、縦横無尽に動く。
そのうちの一つが襲い掛かったその時に僕の間に割って入る人の影。貫いたのと同時に見えたその姿は……。
「風魔親分‼」
『親分? ってなんすか?』
「僕は風魔親分に助けられたことがありまして、以来そう呼ばせていただいているのです」
「オマエら標的をそらす時間がないのを、忘れている。その話はあとでいい。まず……は……」
『風魔さん?』
「親分‼」
真正面で仁王立ちする風の身体が、足先から固まっていく。硬化質にも見えるそれは、石化を始めているのだろう。
僕は周辺に被害が出ていないか確認する。しかし、あらゆる方向に飛び交うクラーケンの脚は、次々とアレンの仲間を石像に変えていた。
逃げるか、共倒れ覚悟で挑むか。どちらにしろ仲間を危険に晒す。僕にはそんなことはできない。きっとアレンも同じ気持ち。
「アレンさん。どうしますか?」
『どど、どうするって……』
「僕は貴方に従います。どうされますか?」
『お、俺に聞かれても無理っすよ……』
――旅の者、一つ願いを叶えてもらえませんか?
『あれ? リゲルなんか言ったっすよね?』
「いいえ、何も申しておりませんが……」
突然聞こえた女性の声。僕の声ではない。しかしどこから発せられたものなのだろうか? 主の姿は見当たらない。
『ほんとっすか?』
「ええ」
疑問を隠せずにいるアレン。それはひしひしと伝わってくる。僕も知りたい。親分の言葉の続きを聞きたい。そのために助けなければ……。
――どなたか、わたくしの願いを一つ……。わたくしの名前はダレネス。余命もあとわずか。このままでは未練を果たせぬまま、いずれ木と化してしまいます。今すぐ校舎の裏手へ……。
『き、木になっちゃううんすか⁉』
どうやら声の主の名はダレネスと言うようだ。しかし、このままだと木になってしまうとは……。
「困りましたね。急がば回れ、早急に参りましょう」
『了解っす‼』
即断即決。僕は意識を共有するアレンと共に、校舎の裏手へと駆け出した。
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