94 / 341
第1章
第86話 リアルと現在
しおりを挟む
「ごめんくださ~い、オーナーさんはどこっすか?」
「目の前だよ。待ちくたびれたんだけど、例のやつ」
無事にオーナーを見つけ、麦を納品。俺達は酒作りを見学することになった。
通路になっている大樽の道。発酵させているのかは知らないけど、未成年の俺は高確率で酔っぱらう。
そういえば、彼女の声が聞こえない。通信が切れたのだろうか……。
けれども、酒造場が気になってしまい、一瞬で忘れていた。
◇◇◇十分前 現実世界では◇◇◇
「舞彩、聞こえてますか?」
『聞こえてるよ‼ あと、今はプレイヤーネーム♡』
「ハイハイ、マリネ」
『もう、パパったら。マロネだってばぁ…………』
「そういうマロネも、普段の口調になってる。そうだ、ゲーム内のルグア……。いや、明理の様子は?」
ここは大学病院の研究室。デスクの前に座るのは、樋上或斗院長だ。
映し出されているのは、第五十層にいる或斗の娘と、カプセルの中で眠るプレイヤーの二人。
『変化はあまりないよ。あとは本人次第。だけど、1回の量に希望があったなんて……。従姉妹同士なのに……』
「たしかにそうだよね。まさか彼女のお父さんと僕の奥さんが兄妹とは。知った時は驚いたよ」
『うんうん。えーと、まずはここをこうして……』
マルチビューになり、ルグアの音声が聞こえるように設定。
現実は、別室のベッドでゲーム機を着けたまま寝ている。それを囲うのは五つの点滴器具。すでにチューブが繋がった状態だ。
「明理さん。聞こえますか?」
『はい。えーと、普段の話し方の方がいいのかな? そっちも準備はできてますか?』
「もちろんですとも。予定通り30グラム分……」
『私は大丈夫なので一種を3回』
「ってことは120の五種だから……。500グラム……」
『それでお願いします』
その言葉で或斗が席を立つと、明理がいる別室へ向かう。ゆっくりと迫る悪魔の研究。なぜ彼女が立候補をしたのか。それは…………。
◇◇◇現在 第十七層◇◇◇
『アレン、聞こえてますか? ウェンドラです』
「突然なんすか? 通信魔法で」
『ルグアに、一言を……。と思いまして』
「どういうことっすか?」
『あってもなくてもいいのですが……』
いきなりすぎるウェンドラの言葉。研究が始まるということなのだろうか……。そう考えた途端に、彼女を失うのではと怯えてしまう。
「その……。ルグアが死んだりした……」
『ご安心を。その点に関しては問題ないですよ』
「だ、だけどウェンドラさん‼」
『なぜなら彼女は、一生○○○○ができない身体なので……』
俺は言葉を全て聞き取れなかった。聞き取るのをやめてしまったのか、受け入れたくなかったのか……。
自分だけではわからない。たとえ遠回りだったとしても、早くルグアに会って顔を見たい。
気持ちは先走るだけで、歯車が軋む。次は第十八層。道のりは長く、とても遠い場所にある。
わかっているけど、彼女のことが一番だと感じた。
「目の前だよ。待ちくたびれたんだけど、例のやつ」
無事にオーナーを見つけ、麦を納品。俺達は酒作りを見学することになった。
通路になっている大樽の道。発酵させているのかは知らないけど、未成年の俺は高確率で酔っぱらう。
そういえば、彼女の声が聞こえない。通信が切れたのだろうか……。
けれども、酒造場が気になってしまい、一瞬で忘れていた。
◇◇◇十分前 現実世界では◇◇◇
「舞彩、聞こえてますか?」
『聞こえてるよ‼ あと、今はプレイヤーネーム♡』
「ハイハイ、マリネ」
『もう、パパったら。マロネだってばぁ…………』
「そういうマロネも、普段の口調になってる。そうだ、ゲーム内のルグア……。いや、明理の様子は?」
ここは大学病院の研究室。デスクの前に座るのは、樋上或斗院長だ。
映し出されているのは、第五十層にいる或斗の娘と、カプセルの中で眠るプレイヤーの二人。
『変化はあまりないよ。あとは本人次第。だけど、1回の量に希望があったなんて……。従姉妹同士なのに……』
「たしかにそうだよね。まさか彼女のお父さんと僕の奥さんが兄妹とは。知った時は驚いたよ」
『うんうん。えーと、まずはここをこうして……』
マルチビューになり、ルグアの音声が聞こえるように設定。
現実は、別室のベッドでゲーム機を着けたまま寝ている。それを囲うのは五つの点滴器具。すでにチューブが繋がった状態だ。
「明理さん。聞こえますか?」
『はい。えーと、普段の話し方の方がいいのかな? そっちも準備はできてますか?』
「もちろんですとも。予定通り30グラム分……」
『私は大丈夫なので一種を3回』
「ってことは120の五種だから……。500グラム……」
『それでお願いします』
その言葉で或斗が席を立つと、明理がいる別室へ向かう。ゆっくりと迫る悪魔の研究。なぜ彼女が立候補をしたのか。それは…………。
◇◇◇現在 第十七層◇◇◇
『アレン、聞こえてますか? ウェンドラです』
「突然なんすか? 通信魔法で」
『ルグアに、一言を……。と思いまして』
「どういうことっすか?」
『あってもなくてもいいのですが……』
いきなりすぎるウェンドラの言葉。研究が始まるということなのだろうか……。そう考えた途端に、彼女を失うのではと怯えてしまう。
「その……。ルグアが死んだりした……」
『ご安心を。その点に関しては問題ないですよ』
「だ、だけどウェンドラさん‼」
『なぜなら彼女は、一生○○○○ができない身体なので……』
俺は言葉を全て聞き取れなかった。聞き取るのをやめてしまったのか、受け入れたくなかったのか……。
自分だけではわからない。たとえ遠回りだったとしても、早くルグアに会って顔を見たい。
気持ちは先走るだけで、歯車が軋む。次は第十八層。道のりは長く、とても遠い場所にある。
わかっているけど、彼女のことが一番だと感じた。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜
八ッ坂千鶴
SF
普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。
そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!
※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。
異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!
リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。
彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。
だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。
神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。
アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO!
これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。
異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。
そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる