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第1話 帰ってきたぞミスティア学園!

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「また来ちまったな……」

 なんでこの学園に通うことになったんだよ。あの先生の野郎。俺は道具の入ったカバンを塀に叩きつけ怒りをぶつける。

 俺がやってきたのはミスティア学園。アリアセス大陸にある、この世界で一番大きな魔法学校だ。ここは初等部から大学まであり、全てがクラス担任制。
 西洋風の巨大なお城にも見える校舎は、全部で20棟ある。

 マジで嫌な予感しかしないんだけど……。ったくなんで俺の人生2回も入らないといけないんだよ! クソッ! めんどくさいんだけど!

 すると、

『なんかあそこの生徒ヤバくない?』
『ヤバいヤバい。マジでヤバいんだけど』

 俺の近くを横切った女子高生が、クスクス笑ってるのを耳でキャッチする。
 どこぞの高等部ギャルに言われたくないわ。俺はこれで大学2度目なんだぞ! そんな心の声は届かず、俺の周りに生徒が群がってきた。
 生徒は皆黒いローブを身に纏っていて、まるでまっくろくろすけの大群だ。

『ねぇねぇ。あれ例の飛び級生じゃない?』
『え? ほんと?』

 まずい。ここは飛行魔法で………。そう思ったが吉、俺は上空に避難する。これで助かったと思ったのもつかの間。今度はこの状況の元凶であろう人が、地上で手を振ってるのを発見する。
 それは、ところどころ白髪の生えた腰曲がりの爺さんだった。服装は白ローブだ。

「おーい。鏑木光彦くん!」

 彼は後に担任になる長谷川先生。次から次へと何だ何だ。そんな大声で俺を目立たせたいのか? 俺としてはあまり目立ちたくないのだが……。
 いや、無詠唱で空飛んでる時点で目立ってるか。まあ、んなもんどうでもいいから降りよ………。
 
「長谷川先生! お久しぶりです!」
「光彦くん。そなたはなぜ空を?」

 ウザイ輩がいたから飛んでたんだよ。うわぁ。いつロックオンされるかわからないから、ここから逃げたい。
 そんな本音をゴクリと飲み込んで、普段通りの先生に対する口調で話す。

「ちょっと色々ありましてー」
「色々とは」
「要するにかくかくしかじかなことです」
「そんな誤魔化すでない。もう大人じゃろうて。今そなたはいくつになった」
「今年で19です」

 19で2度目の大学生活。全部長谷川先生のせいなんだからな! この学園ろくなことないから最初は入るの拒否ろうとしてたんだからな!

 でもこれは思考上のことであって、声として出てないため意味がない。そして、特別入学が決定している俺はここに赴いてる時点で拒否権はない。

 つまり、先程の輩に捕まったら最後何も出来なくなる。今回は潜入で生徒として入った。しかし、もう既に失敗している。

 飛び級生つらたん……。俺に自由な事務所生活ないのかよ。しかも今日は、月に1回の掃討日。それも大学1年が担当。渋滞しすぎだろ!

「どうやらかなり焦っているようじゃな」
「そりゃ焦るわ!」
「はて……」
「あ……」
「後で話を聞くとしよう」

 あとで話聞くっていつだよ!


 ◇◇◇◇◇◇


 そんなこんなで、ガヤガヤうるさい入学式を終えた俺は、教室へ向かっていた。大学と高等部は同時に同じ場所で行われる。

 つまり、そのレベルまでに体育館が大きいということだ。このアリアセス大陸は大部分がミスティア学園でできていると言ってもいい。

 体育館にはスピーカーが全56台。それでも、学園長先生の声が聞こえないくらいだ。俺の知らないところで改装工事までして、どこから資金巻き上げているんだか……。

「あ、いたいた。ひこにーちゃん!」
「朝日か……」
「大学生になったんだってね」
「ある意味リピート入学だから嬉しくないけどな」
「あへへ……」

 鏑木朝日、俺の妹で2歳下の高等部2年生。髪は生まれつき白髪で色白美人の天使的存在。

 けど、高等部2年と3年。大学2年から4年は入学式の在校生枠として入っていないはず。すなわち、入学式に在校生は出席しない。もしや、朝日……。

「授業抜け出して来たな!?」
「その通り。家で言うよりも真っ先に言いたかったから」
「特別入学ってそんなすごくないぞ? 半ば強引だからな。俺にとっては」
「ひこにーちゃんっぽいね」

 彼女と俺は実力差がえげつないほどにある。それは後ほど説明するとして、各自教室へ向かった。


 ◇◇◇学園大学 1年6組◇◇◇


「やっと着いた……。んーと俺の席は……」

 俺が教室に入った時の生徒の反応その1。

 ・俺の殺気――実際はこれっぽっちも放ってないが――にフリーズ。

 生徒の反応その2

 ・俺の存在感――これまた覇気すらも放ってないが――で瞳ガン開き。

 生徒の反応その3

 ・俺のことをよく知ってる人物が大声でアプローチ。

「おーーーい、ひこっち!」
「レイ。声でかいぞ」
「ごめんごめん。久しぶりに会ったからつい……」
「この前カフェで会っただろうが」
「そ、そうだったね……」

 水瀬レイ。俺と同じ飛び級経験者だ。なぜ彼がここにいるのかは知らないが、この組み合わせはなにかがあると予測する。

『レイ先輩? 青髪のレイ先輩がこのクラスに!?』
『じゃじゃあ、あのすぐ隣で話してる人は光彦先輩?』

 ヤバい。逃げ場がない。しかもこれからホームルームだぞ。レイの野郎。俺を囮にしたがって……。

「あはは、すごいね僕たちの人気」
「そういう問題じゃねぇだろ! 俺にとっては偉い迷惑だ!」
「そこの二人。じゃれつくのはそこまでにしなさい」

 突如女性の声が割り込んでくる。俺とレイは一度顔を見合わせてそちらを見ると、そこにはクールビューティな女子生徒がいた。髪はブロンドで輝いている。

「レイ。光彦。さっきからガヤガヤガヤガヤ。じゃれ合ってるんじゃないよ! 私たちにとっては大先輩なんだから、いくら同学年でも立場を考えることね」
「「はい……。すみません……」」
「それでいい」

 彼女がかなり強い口調で言ってきたことに少々驚きながらも、俺たちは肩を竦めて黙ることにした。
 結局彼女は名乗ることは無く、教室もその熱のこもった発言により静寂に包まれる。

「あ、あの……。レイ……先輩?」

 そんな静寂を破ったのは、身長150cmくらいの小柄な女子生徒だった。彼女はレイに興味があるらしい。対して俺が動く度にクラスメイトが避けていく。

 あの口調でレイに返答したせいだ。絶対俺の印象が悪くなってる。どちらにしろ友達はレイ一人で充分なため必要ないが……。

 むしろあの口調で威圧感出せたなら、このクラスの人はもう二度と俺には関わろうとしてこないだろう。

 それは、違う意味では大歓迎レベルの好都合だった。ほれどんどん俺から逃げろ。これで俺の行動がわからなくなるだろ?

「ひこっち。顔がめちゃくちゃ怖いよ」
「ふぇ? あ、ああ、すまない……」

 レイにツッコまれてしまった。そんなに意識してなかったが、俺の表情そんなに怖かったか? というのは事実だったらしく。
 レイに話しかけてきた女子生徒は、身をブルブル震わせて怖気付いていた。他生徒もドン引きしている。
 あの思考は場違いだったか……。そんなことを考えながらも先生が来るのを待った。
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