上 下
2 / 2

第2話 桃葉の家

しおりを挟む

「お兄ちゃん!! ここが私の家だよ!!」


 連れてこられたのは、新築に近い真っ白の一軒家。その頃には、外は真っ暗になっていた。俺は真っ直ぐに家に近づき、扉へ向かう。


「お兄ちゃん!! 待って!!」


――ガチャ!!


「えっ!?」


 桃葉の言葉で硬直。そのまま俺は、勢い良くドアで押されて、外壁との間に挟まれる。これで不幸は2回目だ。もっと言えば10回目かもしれない。

 朝は寝坊。朝食はコンビニ。商品はほぼ無しで、何とか買えたがレジ渋滞で電車ギリギリ。かと思えば数秒の差で乗り損ねて、大遅刻。

 今日は不幸でしかない。こんなものはうんざりだ。俺はサンドイッチになった気分で、ギュ~と押され続ける。


「ママ、お兄ちゃんが挟まれてるよ!! ママ!!」

『お兄さんが? もしかして源磨くんかしら?』

「そうだよ!! 早く助けてあげて!! ドア少し閉めて!!」


 桃葉の言葉が届いたのか、少し緩んで俺は抜け出した。いろいろな場所が痛むが、ゆっくり入り口に戻る。

 首をさすりながら顔を上げると、ほっそりした大人の女性。名前は確か………………。


「お久しぶりね。元気してた? ほら、アイネ。桃葉っていう可愛い名前ありがとね」


 そうだ、アイネだ。桃葉の母親の。アイネは俺に寄り添い頭を撫でる。もう、俺高校生なんだけどなぁ~。やっぱり、ゲームでもリアルでも、子供は子供なのか…………。


「こ、こちらこそお久しぶりです…………。最近ゲームで見かけなかったので、心配していました」

「あらあら、同じこと考えていたのね。桃ママも会えて嬉しかったわ」


 も、桃ママ!? ささ、さっき桃ママって言ってたよね!? いつの間に、そうなったの!? たた、確かに『桃葉』の『ママ』で間違ってないけど、『桃ママ』!? 略し方簡単過ぎ、っていうかひねり無し!! ってか、たったこれだけで過剰に反応してる俺が馬鹿!!

 というのは置いといて、家の中へ。桃葉の家はリビングが広く、部屋もたくさんあって、とにかく整理整頓されていた。

 対して、俺の部屋はもう、足の踏み場も無いくらいの散らかりっぷり。毎回整理整頓しようとしても、やる気になれないし。全くの手付かず。

 比較しても、これじゃあ月とスッポンどころか、働き方もありとキリギリスくらいも差が激しい。つまり、俺は働かなさすぎ…………。


「こんなに広いと、のんびりしたくなるなぁ~」

「でしょ!! もしかして、源磨お兄ちゃんの家って散らかってるの?」

「ギクッ!!」

「ハイ、図星!!」


 さっき考えていたことを、年下のAIに容易く見破られてしまう俺。感情が表に出やすいのが仇になってしまった。

 すると突然、床が揺れ始める。俺と桃葉はその場にあった物を、片っ端からかき集め、外に飛び出した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...